仏道修行としての調理
道元禅師は嘉禎三年(1237年)、京都宇治の興聖寺にて、調理係の心得を詳細に記した『典座教訓』を著されました。典座とは、禅寺で食事を司る役職で、寺の実務を担当する六つの重職「六知事」の一つです。
古より道心の師僧、発心の高士、充てられ来りし職なり、蓋しなお一色の弁道のごとし。若し道心なければ、徒らに辛苦に労して、畢竟益なし
『典座教訓』冒頭部 ※原著は漢文で記されているため、読み方や解釈の細部が異なることがあります。
(意訳)
典座の職は古くから特に熱意にあふれた優れた高僧たちが担ってきた役割です。我が身を調理という任務にまるごとそのまま投げ入れて、純粋な修行に没頭するのです。もし仏道を求めようとする姿勢を持たずにつとめても、ただ無用に辛い苦労となるだけで何も得られないでしょう
つまり、典座職の意義を理解せずに、単なる労働作業だと誤解したまま台所の役目を漫然と行っても無益ですよ、と念を押されたのです。
実は『典座教訓』の中には、若き日の道元禅師が御修行中、料理役に対して誤解を抱いていた経験談も赤裸々に記されています。(「役割を担う」ということに記載があります)
料理に限らず、目の前の行為を雑務として軽んじるか、あるいは大切な修行として精一杯励むか。ここにとても大きな違いが生じます。そうしたご自身の経験を踏まえて、後進のわれわれが同じ轍を踏まぬように教示して下さった慈悲心を感じずにはおれません。
なお、この書は誰にも欠かせない食を例とし、調理を一題材にして記されたのであって、日常生活や寺の運営に必要な全ての行為や作業に応用できる教えでもあるのです。