復興支援活動紹介(16)「おきたま・ふくしま週末寺子屋」について
山形県米沢市の寺院で、主に福島から避難してきた子どもたちへ教育支援を行う「おきたま・ふくしま週末寺子屋」が開催されています。駒澤大学前学長であり、寺子屋を運営している「こども育成支援置賜学舎」の代表を務める石井清純さんにお話を伺いました。
山形県で、避難してきた子どもを対象とした寺子屋を行っているそうですね。
――震災後、避難を強いられたことによる居住環境の変化や、地域に馴染めないことによるストレスから問題行動を起こしてしまうなど、子どもたちの精神状態は大変な状況にあったそうです。福島県から避難していた元高校教諭がそんな現実を知り、会議室などを借りて避難してきた子どもたちへの学習支援を始め、学校以外の活動ということから「寺子屋」と呼ばれていました。その後、山形市、鶴岡市、米沢市それぞれで活動が始まったのです。
東日本大震災が発生した当時、私は駒澤大学の学長を務めていました。学費や受験料の免除、チャリティーコンサートの開催など、学長として出来る限りのことをしてきたつもりですが、できれば現場に直接赴いて支援活動をしたいと考えていたのです。その後、学長の任期が終わり、自分の特性を活かした支援活動は何だろうかと考えた時、それは教員の経験を活かした学習支援なのではないかと思いました。寺子屋活動や子どもたちの様子について聞いていたので私も活動に参加するようになり、しばらくはそれぞれの地域を巡回するような形で行っていました。
米沢では特定の会場がなく、公民館等を転々としながら開催していたのですが、活動に参加されている寺族さんが林泉寺さまと知り合いだったこともあり、お寺を寺子屋の開催会場として提供いただけることになりました。そして、今年の4月より米沢市の寺子屋は「おきたま・ふくしま週末寺子屋」として林泉寺でスタートし、運営する団体として「こども育成支援置賜学舎」を立ち上げました。
石井さんの役割はどのようなところにあるのでしょうか。
――子どもたちに勉強を教えるのは大学生が中心です。キャンパスが近いということもあり山形大学工学部等、地元の学生に手伝ってもらっています。夏休みには駒澤大学の学生を連れて行きました。小学生にとって大学生の存在はちょっとまぶしいお兄さんやお姉さんのように感じるのだと思います。イメージで言えば大学生に対しては走ってきてそのままぶつかっちゃう、私たちに対しては一度立ち止まって挨拶するような感じです。それだけ子どもたちにとって大学生は気楽に接することのできる存在であり、それは彼らにしかできない役割なのです。寺子屋はただ勉強するだけの場ではありません。教育にも携わっている僧侶として、子どもたちにも親御さんにも、安心して楽しんでもらえるようなプログラムを作り、寺子屋全体をマネジメントすることが私たちの役割だと思っています。
勉強以外のプログラムとはどのようなものですか。
――学期は文化体験をしてもらいたいということから、茶の湯体験や七夕の笹飾り作りを行いました。また、林泉寺は直江兼続ゆかりのお寺であり地域の名刹ということもあるので、お寺の拝観や地域のフィールドワークなど、今生活している町を知ってもらうためのプログラムも用意しました。
2学期はベイゴマや竹馬、ぶんぶんゴマなどの昔遊びを実施しています。ただ楽しむだけでなく、「ベンハムのコマ」などを組み込み、「遊びの中の不思議」を見つけられるように工夫しています。また、8月には長期休みを利用した合宿も開催しました。この時は川遊びなどのレクリエーションを中心にするのではなく、「夏休みの宿題を早く終わらせる」ことをコンセプトに、自由研究となるように、養鶏場の見学や陶芸体験などを盛り込みました。すべてを宿題に絡めたことが親御さんに好評だったようで、定員を超える応募がありました。参加した子どもの中には、震災後初めて夏休みの宿題を終わらせることができたという子どももいたようです。
寺子屋に来る子どもたちの様子はどうですか。
――広い場所で勉強することや教えてくれる人が違うことで、今まで解けなかった問題が解けた、持ってきた教材があっという間に終わってしまうなど、環境が少し変わるだけで勉強がすごくはかどるようですし、大学生とも楽しそうに過ごしています。中には何をする時も「つまらない」と言う子どももいます。表面的には反発しているように見えるのですが、それは「かまって欲しい」、「振り向いて欲しい」という子どもからのメッセージなのです。それをただ叱るのではなく、「そんなこと言わずに一緒に頑張ろうよ。」と引っ張ってあげられるよう、終了時のミーティング等で確認を繰り返しています。子どもたちも、自分の置かれている状況を理解してくれているという安心感があるのか「あいつとは仲良くやれそうだ。」などと言いながら、嫌がらずに参加してくれています。
寺子屋にはどのような役割があると思いますか。
――お寺で開催することで「こころの栄養」を与えることができると考えています。例えば寺子屋では、毎回ご本尊様に手を合わせてから学習を始めます。そういった感謝することの大切さも、お寺だからこそ教えることができるのではないでしょうか。また、二学期からは避難した子どもだけでなく地域の子どもも参加できるようにしました。避難した子どもと地域の子どもが一緒に勉強し、フィールドワークなどの様ざまな体験をすることで新しい交友関係が生まれ、今住んでいる町を知ることができれば、地域に馴染むことができます。そうすることで、突然の避難によるストレスなどから閉ざされてしまった心を少しでも解きほぐすことができる、そのきっかけ作りを提供することが寺子屋の持つ役割だと思っています。
月に1度臨床心理士による親御さんを対象とした相談窓口を設けています。子どもの就学相談が中心ですが、避難生活全般にわたる様ざまな相談が寄せられます。子どもの教育に関する悩みというのは、おそらく避難しなくとも抱えた悩みだと思いますが、震災で避難を強いられたために、それまでの人間関係が崩れてしまい、悩みを抱えていても相談できる人が周りにいない、ママカフェやお茶飲みサロンなどの集まりがあるけれども参加しづらい、そのような方々がこの活動を知り、お寺で話を聞いてもらえることの安心感もあって、来られるのだと思います。「あそこに行けば、自分の話を聞いてくれる。」といった空間を作ることも、お寺で開催する寺子屋の大切な役割なのではないでしょうか。もちろん、それができるのは、お寺が地域の拠り所であるという認識をもっていただいているからに他なりません。
林泉寺での寺子屋は始まって間もないですが、今後どの様に活動を展開される予定ですか。
――難しい問題だと思っていますが、今後も学期中に行っている週末の寺子屋と長期休みを利用した集中的なイベントを中心に活動していく予定です。学期中の週末寺子屋の参加者は多い時で4人と決して多くありませんが、その他の子どもが何も抱えていないとは限りません。寺子屋には来ないけれども何か不安や悩みを抱えている子どもに対して、どの様にアプローチしていくかということが課題としてあります。長期休みを利用したイベントは参加者数も多く、寺子屋の存在を知ってもらえる機会だと思っているので、合宿に参加することで寺子屋を知ってもらい、週末寺子屋に足を運んでもらえるように促すことができればと思っています。また、市の教育委員会や地域の避難者支援センターなどには開催チラシを配布していただくなど、積極的に協力していただいているので、活動を続けていくことの重要性も感じています。やりたいことはたくさんありますが、曖昧なままやってしまうと長続きしません。活動範囲を広げることは大切なことですが、この寺子屋がなにを目的に活動しているのかを常に見定めながら、その範囲でできることをこれからも展開していきたいと考えています。
教員としての特性があったからこそ、ここまで続けることができたと石井さんはおっしゃいました。「おきたま・ふくしま週末寺子屋」は地域文化の担い手であり、地域の拠り所と認識されているお寺を拠点として、学習する場として、またある時はホッと一息ついて、交流を深める安らぎの場として今後も活動していきます。
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