復興支援活動紹介(14)「手あわせ桜プロジェクト」について
被災地に桜を植え、地域の復興と犠牲者の鎮魂を願い活動している僧侶がいます。一般社団法人「てあわせ」の代表で、岩手県常堅寺の住職である、後藤泰彦さんにお話を伺いました。
このプロジェクトを始めようと思ったきっかけは何ですか。
――私は岩手県常堅寺の住職をしていますが、もともと宮城県石巻市の出身です。震災後石巻に帰ったときに見た光景は凄まじいものであり、この地域では、たくさんの方がたが犠牲になりました。お亡くなりになった方のために、僧侶としてできることは何かと考え続けた結果、それはやはり供養を続けていくことなのだと思いました。
具体的な活動として、鎮魂のための桜を植えようとの思いに至り、2011年6月9日に「手合せ桜プロジェクト委員会」を立ち上げたのです。この「手合せ」には、犠牲者のご冥福と地域の復興を祈る気持ち、多くの人と手と手を合わせて協力していくのだという思いを込めています。
なぜ桜を選ばれたのでしょうか。
――桜は、日本人の心に深く根付いた木だと思うからです。その桜を被災地に植えることで、犠牲者の追悼と鎮魂になるのではないかと考えました。かつて、戦争で犠牲になられた方のために、桜を植えた人もいたと聞いたことがあります。
また、とある老僧から伺った話ですが、交通事故で両親を突然失った兄弟のために寺院の一角に桜を植え、「この桜をあなた達のお父さん、お母さんと思って、花が咲く頃にお参りに来るんだよ」と語りかけたそうです。最初の数年間、子ども達は桜の前で涙を流していましたが、それから数年後には桜の木の下で弁当を広げて花見をしている姿が見られ、「ここに両親がいるような気がします」と老僧に言ったのだそうです。その言葉を聞いた老僧が「桜の木が人格を持つようになる。桜は見る人の心によって悲しい花にも、幸せな思い出の花にもなると感じた」と話してくれたことがありました。
今回の震災では多くの尊い命が失われました。残された遺族の悲しみを癒し、悲嘆に寄り添い、犠牲になられた方の御霊を鎮める桜になってほしいと願っています。
最初の植樹は、会が発足した年の秋だったそうですね。
――大川小学校のすぐ近くに位置している、寺院の墓地を囲う様に植えさせていただきました。桜を植えたことが新聞などで取り上げられ、全国の桜に関係する様ざまな団体から、支援をいただくことができました。何か力になりたいという皆さんの気持ちがありがたかったです。
その後も親戚のお寺や、希望される方のために桜を植えてきました。植えた後に読経するのですが、一緒に植樹した方の中には涙を流す人もいます。そうした方の悲しみが少しでも軽くなってほしいと、心から祈っています。
当初、津波被害に遭った地域に桜を植えて、桜による津波到達ラインを作ろうと考えていたのですが、場所の問題などから行き詰ってしまいました。そこで思いついたのが、私の実家である観音寺の裏山に「鎮魂の桜の森」を作ることだったのです。
「鎮魂の桜の森」とはどのようなものなのでしょうか。
――古来、人が亡くなるとその御霊は山に帰ると言われてきました。宮城県石巻市は地理的にみると、岩手県久慈市と福島県いわき市のちょうど中間に位置しています。この地点に扇形をした慰霊のモニュメントを建立して桜を植え、犠牲者の慰霊の場所としようとするのが、「鎮魂の桜の森」なのです。
モニュメントには、久慈市からいわき市まで被害を受けた地域が記してあるので、訪れた遺族は家族や親族の亡くなった地域に向かって手を合わせることができます。また、ここを訪れた人に、東日本大震災の惨禍をいつまでも伝え続けることができるのではないかと考えています。
モニュメントには、石巻市雄勝町の特産品である雄勝石を、犠牲になられた方と同じ数だけ使用する予定です。
慰霊と伝承の森なのですね。
――森の中に小さなログハウスを作り、子どもがここで走り回れる場所にする計画も立てています。仮設住宅での生活や、放射能汚染の影響で自由に外を走り回ることができない等、ストレスを抱えている子どもはたくさんいます。これからの将来を担う子ども達が森の中で思いっきり遊び、自然の大切さを知り、育っていくことは大切な経験だと思うのです。また、この森は鎮魂の場ですので、死というものを感じてもらえるのではないかと考えています。
この森での遊びを通して「生」と「死」について学び、「生」と「死」は表裏一体であるということを感じてもらえる場にもなるのかなと思っています。
その他にも、桜を通じた様ざまな活動をされているとお聞きしました。
――仮設住宅で桜を育てる「仮設千本桜」という活動も行っています。この活動は、ある仮設住宅の自治会長さんから「仮設で桜を育てることはできないだろうか」との問い合わせがあったことから始まりました。
女川に、鉢で桜を育てている会があったのでノウハウを教えてもらい、希望する仮設住宅に苗を送って育て方を教えてきました。桜の苗は「日本花の会」からの支援です。
仮設住宅には様ざまな地域の方が入居されているわけですが、新居を構えるなどして転居する際に、新たな生活の心の支えにと桜の苗を差し上げるのだそうです。「新居と同時に桜を持つことで気持ちが新たになった」と言う方もいらっしゃるそうです。
また、民間と行政が合同で行う、東松島市の運河沿いに桜を植えるというプロジェクトにも参加させていただく予定です。仮設住宅で育てた桜を植えるのですが、自分たちで育てた桜を植えるということは、意味のあることだと思っています。これからも、仮設住宅に居住している方を始め、様々な方と桜を通じた交流を広げていきたと思います。
最後になりますが、震災直後、静岡県青年会の方がたが瓦礫撤去に駆け付けてくださいました。その際、偶然その場に居合わせたことから縁が生まれ、静岡県にも「鎮魂の桜」を植えることができました。このように活動が全国に広がり各地で桜の花を咲かせる頃、犠牲者を思う気持ちが被災地に届くのではないかなと思います。
後藤さんは東日本大震災がもたらした、多くの悲しみの中に花を咲かせるべく、桜を植えてきました。今はまだ、か細く、僅かな花しか咲かせられない桜も、長い年月をかけ、立派な桜に成長し、鎮魂の桜としていつまでも犠牲者の魂を鎮めていくことでしょう。