復興支援活動紹介(11)寺院と地域の絆で高める『寺院備災ガイドブック』の紹介

2014.02.05

2013年4月1日、仏教NGOネットワークから『寺院備災ガイドブック』が発行されました。このガイドブックは、「様々な災害に備える」「災害時医療マニュアル」「寺院の避難所運営マニュアル」の3つの章で構成されており、東日本大震災からの教訓や、日本活火山・原子力発電所マップなどの資料も掲載されています。当時、シャンティ国際ボランティア会(SVA)の職員であり、このガイドブック作成に携わった、自覚大道さんに話を伺いました。

このガイドブック作成のきっかけは何だったのでしょうか。

――東日本大震災発生から1か月後、私はSVAの職員として気仙沼に12日間入り、事務所の立ち上げやボランティアのコーディネート等を行っていたのですが、そこで見た光景に衝撃を受けました。気仙沼の高台にある寺院が地域の避難所になっていたのですが、自衛隊や医療系のNGOが入っており、地域の避難所としての機能を果たしていたのです。「災害発生時に一寺院がここまでの避難所を運営することができるのか」という驚きと賛嘆の気持ちを抱きました。


この度の災害では多くの寺院が避難所となりましたが、それぞれのお寺が運営のノウハウを有していたわけではありません。お寺が避難所になったものの、住職や寺族が一身に責任を抱え込むことになってしまい、苦労したという例は少なくありません。

私は2007年に発生した中越沖地震の時も現地に入りました。その時から、寺院に特化した災害発生時のガイドブックを作成したいという思いがあったのですが、なかなか形にすることができませんでした。

東日本大震災では多くの寺院が避難所になり、大小さまざまな苦労があったことを伺っておりましたので、今回の震災による教訓を全国の寺院へ伝えたい、そして今後また大災害が発生した時に役立てて欲しいと思い、ガイドブック作成を仏教NGOネットワークに提案したのです。そのことがきっかけとなり、発災から1年後にプロジェクトチームが立ち上がりました。

内容は3つの章から構成されています。作成するにあたって工夫された点はありますか。

――地域住民との関わり方や檀信徒への接し方は、どの宗派の寺院でも変わらないと思うので、特定の宗派によらないものとして、全国の寺院に読んでもらえるような資料にすることを考えました。そして、災害発生時に役に立つことです。もし災害が発生したとしても、この1冊があれば何とか乗り切ることができる内容にしようと思いました。

第1章では、世界的に見ても災害は、「地震」「風水害」「火山」「原発」の4つに集約されますので、その特徴、普段からどのように備えるべきかなどについて記載しました。しかし、先日、伊豆大島で発生した土砂災害を風水害に入れることができなかったことは、とても残念に思っています。

第2章では、「シェア」という医療系NGOの医師に原稿執筆を依頼し、災害時緊急医療マニュアルを掲載しました。発災時は、死亡者の5~10倍のけが人が出るといわれており、1人でも多くの命を救うためには、応急的な医療処置を行う必要があるからです。

第3章では寺院が避難所になった時の役割分担や運営マニュアル、避難所の時間経過等を掲載しました。実際に自分のお寺が避難所になった場合に、どのようなことが起こるのか想像できない方は多いと思います。分からないことによる不安がストレスをさらに増幅させますので、避難所の時間経過が予測できるだけでもかなり楽になると考えています。

その他の資料として、全国に点在する活火山・原子力発電所の分布図や、避難所となった寺院の教訓、寺院の備品・備蓄チェックリスト等を資料として掲載しました。また、文章だけでは分かりづらいので、イラストや色を付けて読みやすくしたことも工夫のひとつです。

この資料は寺院だけでなく、行政からの評価も高いと伺っています。

――1冊500円で頒布しているのですが、これまで1万2千冊を超える申し込みがありました。行政の関心も高く、市町村の防災担当者からの申し込みもあります。先日私が伺った研修会の参加者から、「私の自坊が民間の避難所になりました。市の防災担当者がお寺に相談に来た際、『寺院備災ガイドブック』を持って来られましたよ」とお聞きしました。このガイドブックから「寺院」というワードを取れば、どこでも使える内容になっておりますので、そういった点が行政に評価されたのではないでしょうか。

このガイドブックを用いた研修が各地で行われているそうですね。

――ガイドブックを作っただけで終わらせたくなかったのです。研修では、寺院が避難所になったことを想定したワークショップを行います。その研修で学んだことを自分のお寺で、今度は住職さんが地域を巻き込んだ形で研修をしていただければ、いざ災害が発生しても即座に対応することができる、避難所運営等が可能となると思っています。実際、想いだけではうまくいかないことも多いので、ノウハウを知って備えてもらいたいと思います。

仏教NGOネットワークでは、今後もこのガイドブックをテキストにした研修会や、地域の方がたと共に取り組む「防災寺子屋」の開催を全国の寺院に呼びかけていく予定です。

 

 

東日本大震災への対応を通して、宗教に対する評価が変わってきています。多くのお寺が避難所になり、また、多くの僧侶が被災地支援に尽力したその姿により、寺院が見直されるようになってきています。

「高くなった期待に対して、応えられる準備ができているかどうか。寺院の役割の一端として、今、社会から求められていると感じます。お寺があってよかったと思われるようにしていきたい」と自覚さんはおっしゃいました。

いつ災害が発生するのか予測することはできません。「何かあってから」ではなく、「何かあったとき」のための備えとして、『寺院備災ガイドブック』をぜひご覧ください。

ご希望の方は、仏教NGOネットワークのホームページにアクセスしてください
定価は500円(送料込み)です。