旧統一教会への解散命令請求に係る新聞報道について

2023.11.22

2023年10月5日付にて読売新聞から、「旧統一教会への解散命令請求について」と題する取材依頼があり、10月11日に回答いたしました。

2023年10月31日付『読売新聞』に「『解散命令請求』宗教界賛否」という記事があり、他宗派・他宗教の見解が紹介される中で、曹洞宗の意見が次のように掲載されています。

曹洞宗

反対、または慎重を期すべきだ。解散では信者の宗教行為を止められず、所轄庁の管理からも逃れてしまう。

これについて、曹洞宗(以下、宗門と表記します。)の意図が全て反映されているとはいえず、また、これに起因して関係各所から質問を受けたため、宗門の見解を説明いたします。

初めに、今回の読売新聞からの質問は以下のとおりです。

1)政府・文化庁は、旧統一教会に対し、昨年11月以降、質問権を7回行使したほか、高額献金被害を訴える元信者らへの聞き取りを行い、実態解明を続けてきました。旧統一教会に対する解散命令請求への賛否や妥当性について、理由を含めて教えて下さい。

この質問に対し、宗門は、以下のとおり回答しました。

解散請求については反対あるいは慎重を期すべきである。宗教法人法に規定されているのは解散命令となる。第 81 条の規定に従って解散を命じる場合、裁判所から解散命令が出ることとなるが、法人が解散されるだけであって、旧統一教会の信者たちの宗教行為を止めることは出来ず、再度名義を替えるなどをして別の宗教法人を設立しようとすれば、所轄庁はこれを認証することしかできないはずである。つまり、法人の解散では二世信者被害を止めることができない。

更に、解散をさせたとしても、その後は宗教法人ではなくなるため、都道府県知事と文化庁による管理を逃れることになる。つまり宗教法人として義務付けられる役員名簿や財産目録、収支計算書の提出も必要なくなり、文化庁が調査権を行使することもできなくなる。

また、政府が解散命令を請求してから、裁判所が認めるまでの間に、旧統一教会側が保有財産を日本国内に保持するか否かは不明であるため、被害者への補償の財源確保に支障を来す恐れもある。

性急に解散命令へと向かうだけでなく、実際に被害に遭われた方々への補償、また、曹洞宗をはじめ他の宗教団体、宗教者には、旧統一教会に拠り所、居場所を求めている信者たちへの寄り添いと新たなる受け皿となる、拠り所、居場所の提供や、二世信者や家族への寄り添い支援が求められていると思料する。

むしろ、世間全体で信者の方々を責めれば、信仰心が激化しさらなるカルト化を引き起こす可能性が高くなる。だからこそ、解散命令を請求し、実行したのみでこの問題を終わらせてしまうことは避けるべきだと考える。

つまり、あくまでも今回の政府による解散請求について、性急過ぎる対応であり、被害にあわれた方々のへの補償等に懸念が残るため、反対、あるいは慎重を期すべきと回答しております。

ただし、新聞紙面に掲載された内容は、既述のとおりであり、宗門の主張は、半分しか採り上げられておりませんでした。

旧統一教会の被害実態については、これまで宗門も学ぶ機会を得ており、2022年の安倍晋三元首相殺害事件の後、旧統一教会の被害が大きく報道されるに至った2023年1月12日に「旧統一教会をめぐる社会問題に関して」と題する宗務総長談話を発して、「教団による強引な献金・勧誘、社会的倫理・法律に反する活動、それにより二世信者や家族・親族が抱える経済的・精神的苦悩など、問題は多岐にわたりますが、本来、人びとの苦しみを救う存在であるはずの宗教が人びとを苦しめ、また社会の不安と不信を増幅させてしまっている現実に、怒りと悲しみを覚えます。被害に遭われた方に一刻も早く安寧の日が訪れる事を願ってやみません」と表明し、旧統一教会が行っている強引な献金や勧誘などについて、決して認められるべきではないとの立場を明確にしております。

そして、今回の政府の手続きについては、問題が残る可能性があります。例えば、宗教法人について、法令違反を理由に解散命令が確定したのは、「刑事事件」で立件されたオウム真理教と明覚寺(和歌山県)の2件のみで、「民事事案」を基に適用された前例はないなどと報道されております(一例として、11月10日付『毎日新聞』)。

つまり、政府は従来のあり方に対して、解散請求の条件を拡大した可能性があります。オウム真理教の後継団体に対して公安調査庁による監視が行われていることは周知の事実ですが、そのための法律「無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する法律」(平成十一年法律第百四十七号)を見ますと、厳密に国の権力が行使できる対象を定め、第三条において「この法律による規制及び規制のための調査は、第一条に規定する目的を達成するために必要な最小限度においてのみ行うべきであって、いやしくも権限を逸脱して、思想、信教、集会、結社、表現及び学問の自由並びに勤労者の団結し、及び団体行動をする権利その他日本国憲法の保障する国民の自由と権利を、不当に制限するようなことがあってはならない」と定められており、今回のように「刑事事件」で立件されてないような団体まで規制するようなことが、従来の法律体系や法律の運用実態などから出てくるのか、あるいはそのような団体までも規制するような法律が成立するのか、不透明であると考えております。

以上のことから、解散請求を行い、裁判所によって実際に解散命令が出てしまった後に、結局は国などのコントロールを離れてしまい、被害者救済などがされないまま取り残される危惧もあり、先のような主張に到った次第です。今回は明確な被害者が出ており、その方々の救済は急務であります。まずは、そのことがしっかりと検討されるべきだと考え、解散請求については、反対あるいは慎重に行うべきとの判断をいたしました。

しかし、10月13日に解散請求は行われ、今後、東京地裁での審理が進むと思われますが、それと合わせて、今回の被害者にどのように寄り添うべきなのか、政府の対応を見守るとともに、宗門でも考えなくてはならないと思料しております。