平成30年度「禅をきく会」(於 駒澤大学)開催報告

2018.11.07

平成30年10月8日(月・祝)、曹洞宗宗務庁・駒澤大学禅ブランディング事業チームの合同企画による「禅をきく会」が、駒澤大学(東京都世田谷区)で開催されました。

これまで「禅をきく会」は、広く「禅」に親しんでもらうことを目的とし、一般の方を対象とする「禅」をテーマにした講演やいす坐禅の体験を行ってきました。1969年5月、有楽町にあった朝日講堂(現・有楽町マリオン)で開催されて以来、来年で50年を迎えます。節目を目前に控える今回は、駒澤大学禅ブランディング事業チームとの合同企画として開催されました。駒澤大学は2016年、文部科学省補助事業「平成28年度私立大学研究ブランディング事業」の選定を受け、大学のブランド(独自色)の一つとして、『禅と心』研究の学際的国際的拠点づくりを進めています。

今回は、この禅ブランディング事業チームと曹洞宗宗務庁との合同企画による協働として、「禅をきく会×駒澤大学 ZEN, KOMAZAWA, 1592」を掲げ、第1部は10月5日の達磨忌にちなんだ達磨についての講演、第2部では「いす坐禅」の体験と和太鼓集団「鼓司」の演奏を行いました。

当日は、昨年よりも多い約6百人の方が来場。会場入り口のロビーでは、第52回曹洞宗青少年書道展の上位入賞作品が展示されました。「花まつり」をテーマにした子供たちの力強い書道作品が来場者を楽しませました。

上)池田総長 下)山本教化部長

開会式は駒澤大学が毎月行う祝祷音楽法要に準じて厳かに行われました。駒澤大学合唱団による合唱曲「いまささぐ(ささぐみあかし)」が響く中、法要の導師を務める駒澤大学池田魯參総長が上殿。つづいて合唱曲「三帰礼文」の歌声に合せて、導師が三拝を行い、会場の参加者も起立して一緒に礼拝しました。音楽法要が終わって開催者挨拶となり、まず池田魯參駒澤大学総長より挨拶がありました。禅ブランディング事業など、駒澤大学が実施する禅文化振興に関わる各事業を紹介された後、「禅をきく会」が来年で50年目にあたる節目であることに触れられ、合同企画となった今回の開催を機に、当会の一層の発展を祈念すると述べられました。
次に、曹洞宗宗務庁山本健善教化部長より挨拶がありました。自身も先師も駒澤大学で学んだことに触れ、駒澤大学は多くの優秀な学僧を輩出し、曹洞宗の学府として確固とした地位を築いてきた歴史を紹介。今回の合同企画は、達磨忌にあたる10月に開催することから、駒澤大学の教授陣の講演する第1部にて禅の多角的な側面から「達磨」に親しんでいただき、また、第2部では、実際に「いす坐禅」を行い、僧侶が演奏する和太鼓の響きで「禅」を体感して欲しいと述べられました。

挨拶が終わり、会場準備が整うと、第1部の駒澤大学禅ブランディング事業公開講演会が始まりました。テーマは「日本における達磨」と題し、3名の講師によるリレー式の講演が行われました

上)飯塚教授 中)村松教授 下)近衞教授

最初に、駒澤大学仏教学部 飯塚大展教授が「言い尽くせない達磨」と題して講演。はじめに、日本に達磨が受容される契機として、日本最初の禅宗といえる達磨宗が大日房能忍により成立したことが紹介されました。その後、道元禅師と同時代の僧・無住道暁が語る説話に登場する達磨を紹介。その昔、聖徳太子が出会った飢人に施しを与えたが、彼は亡くなり、太子と出会った場所に葬られました。ところがその遺体は消え、実はその飢人は達磨であったと分かり、その地に達磨寺が建てられたといいます。飯塚教授は、文献では伝説的な扱いで実像が不明な達磨だが、中国、日本において多大な影響を与え、不思議な魅力を持つ「言い尽くせない」達磨の姿を講義されました。
次に、駒澤大学仏教学部 村松哲文教授が「達磨図について」と題して講演。達磨はインド人であるため、中国の達磨図では、朱衣をまとい、インド人特有の髭や胸毛を生やし、大きな耳環をつけている異国人の姿が描かれます。日本では白隠の達磨図が有名だが、白隠に影響を与えたという曹洞宗の画僧・風外慧薫の作品があわせて紹介されました。白隠の作では、見開いた目や、画に隠された「心」字などが「直指人心、見性成仏」の宗旨を表現していることが紹介され、達磨図の変遷から、達磨に託された思いを考えさせられました。
最後に、駒澤大学文学部 近衞典子教授が「江戸時代の達磨さん」と題して講演。達磨の存在は庶民にも浸透しており、江戸時代には思いがけないイメージが様々に展開したといいます。例えば、掛軸や屏風などを表装する表具屋では、達磨は座りがいいのと、「のり(糊と法を意味する)」の道に通じていることにかけて、江戸時代には店先に達磨の絵が描いてあったことなどが紹介されました。一見宗教とは無縁と思われる庶民生活にも達磨は深く関わり、尊崇の念や親しみを持たれていたことを講義されました。
達磨忌にちなみ、3名の講師はそれぞれの研究分野から禅の初祖である達磨に注目し、禅宗史における達磨から、絵画や民衆の歴史の中における達磨像まで、多角的な側面から達磨の実像に迫る講義を行いました。

角田教授のいす坐禅指導

第2部では、駒澤大学仏教学部角田泰隆教授の指導により、「いす坐禅」の指導が行われました。角田教授は参加者の体を簡単なストレッチでほぐした後、曹洞宗総合研究センター研修生による実演と共に体験し、会場はしばし、静寂に包まれました。
続いて、三重県曹洞宗青年会の有志で結成する和太鼓集団「鼓司」による太鼓の演奏が行われました。

まず代表を務める三重県泉壽院住職・浦野将志師より鼓司の紹介があり、三重県在住の20代から40代の若手現役僧侶が真剣に和太鼓に打ち込む姿をご覧頂きたいと挨拶されました。また、披露するオリジナル曲 「悟りの岸へ ~雲のゆくまま 水の流るるままに~」の紹介があり、プロ和太鼓奏者・服部博之氏の指導・作曲によるこの曲が、僧侶の修行の姿を描いたもので、若い一人の雲水が修行道場で精進するなかで、成長していく過程を表現していることが説明されました。

「鼓司」による迫力の演奏

演奏に移ると、総勢8人のメンバーは法衣をまとい、一糸乱れぬ迫力のある演奏を披露。太鼓だけでなく、散華の偈や般若心経の読経など宗門の儀礼の迫力も味わえる、多彩な内容の舞台でした。参加者の中には、感動して涙したという声も聞こえました。演奏が終わるとメンバーには会場から盛大な拍手が贈られました。

第2部も無事終了し、最後に禅ブランディング・プロジェクトリーダーである駒澤大学・日笠完治副学長より閉会の挨拶があり、本年の「禅をきく会」も無事円成し、盛会裏に幕を閉じました。

今回は、駒澤大学禅ブランディング事業チームとの初の合同企画となり、宗門関係学校との学際的な分野を超えた画期的な会となりました。来年には「禅をきく会」も50年目の節目を迎え、今後の発展が期待されます。