「曹洞禅ネット」開設20周年特別座談会(後編)
公式サイト「曹洞禅ネット」20周年特別座談会(後編)
平成28年11月22日、「曹洞禅ネット」の開設20周年を記念した特別座談会が、曹洞宗宗務庁にて開催されました。
「曹洞禅ネット」の事業に係ってきた方々をお招きし、開設から今に至るまでの苦労話や思い出から、今後の事業への期待まで、大変有意義なお話を伺いました。(前編)に引き続き、その内容を報告いたします。
【参加者】
晴山俊英(さん)駒澤大学教授 [前列左]
松尾徹裕(さん)滋賀県願成寺住職(元宗務庁課長) [前列右]
大森篤史(さん)埼玉県東榮寺住職(広報委員会委員) [後列中]
三村成信(さん)宗務庁事務員 [後列右]
(司会進行 関根隆紀 人事部文書課課長) [後列左]
司会:(前編から)曹洞宗の公式サイトである「曹洞禅ネット」は、今年の12月で開設から20年を迎えることとなりました。本日は、この20年間を振りかえるとともに、「曹洞禅ネット」の未来を語っていただきたいと存じます。どうぞ忌憚のないご意見を頂戴したいと思います。
●広報係の誕生
司会:平成21(2009)年、人事部文書課に広報係が設置され、宗務庁が「曹洞禅ネット」の運営をするようになりました。広報係の誕生について教えてください。
松尾:広報係の誕生は、少しずつではありますが、広報活動を進めていたものについて、当時大変ご理解のある内局役員がいらっしゃったので出来たことです。また、私たちには教化という側面もありますので、その違いを出す必要もあります。
大森:広報がマーケティングを行うのにホームページを利用することが普通に行われるようになった時代でした。このタイミングを外すと遅れてしまうというタイミングだったと思います。
松尾:私は一時期、曹洞宗の事務処理を一手に担う「宗務システム」※①の開発に関わりました。その経験から、「申請書ダウンロードシステム」※②の必要性がよく分かりました。これを出そうとした時に、「何でこれを出すんだ」と、質問されて私は「実は紙媒体を印刷するだけで、これだけの費用がかかってます。申請用紙ダウンロードシステムがあれば経費はこれだけ浮きますよ」とお話ししました。その後、色々やり取りがありましたが、ほぼこれで皆さん納得されました。
広報といっても、こういうことが最初のスタートになるのではないでしょうか。
司会:昔は、各宗務所から宗務庁へ問い合わせて、そこから申請用紙を郵送で送ってもらってから書いたものですね。今ではほぼ100%が申請用紙ダウンロードを使っているような状況です。
大森:これは夢のシステムで、ずっと欲しくてしょうがなかった。
●寺院専用サイト、曹洞禅ナビの展開
司会:それまで曹洞宗総合研究センターでやっていた曹洞禅ネットの運営が、全て広報係に移りました。
そのおかげで事務作業が一本化できるようになり、例えば、これからある記事をサイトにアップしようとすると、掲載しようと思ってから一時間も経たないうちに記事が上げられるという体制がつくられました。
松尾:ネット自体は昔から同じで、「いかに早く更新されているか」が勝負なので、大事な部分ですね。
司会:最初の頃は宗務庁各部署がそれぞれ記事を上げてもいいかなと、思った時期もありました。しかし、そこまでやってしまうと、記事の重要性が判断できず、「今これを伝えたい」という主張が伝わらないということになってしまう。そこで広報を窓口にしました。
松尾:そういう時に、広報で責任を持って、曹洞宗の公式なものとして出す、という気持ちが必要で、広報に聞けば、全てのことの入り口がそこにあるという体制が、現代風だと思います。
司会:一本化したことで、広報係の方から各部署にこういうのを出したらどうですか、と問いかけられるようになってきました。ホームページのことは熟知しているわけですから。時機を見て各部署にこういうのはどうですかと、協力をお願いする形で、広報主導でそういう記事を出せるようになってきたのかなと思います。
松尾:そういう意味では、広報係にも課長職がしっかりといるべきだとずっと思っています。そうすれば、従前の外部に対してバラバラだった宗務庁の窓口を、広報担当の課長のところにひとつにまとめることができ、その人の能力によって振り分けが出来たりすると、素早い対応が出来ることになると思います。宗務庁の組織自体を再構築する時期にきているのではないかと、当時の担当として感じていました。
大森:例えば、以前に新聞記者と話すと必ず最初に口にするのが、「おたくの本部に行くと、誰に話を聞いていいか分からないんだよ」という話です。必ずこの話が出ていたので、一本化されたというのは良いことだと思います。
司会:そういう意味でも、広報というのは、やはり宗務総長の直轄が相応しいと思います。
松尾:将来的には「広報課」になるように発展すればと期待しています。
司会:新しい時代に合わせて、ポータルサイト「曹洞禅ナビ」や僧侶向けの「寺院専用サイト」などを展開しています。寺院向けのページは過去にもありましたが、本格的な専用ページというのは平成22年からになると思います。当初は共通のIDとパスワードを宗報に掲載していましたが、平成28年4月より登録制にし、僧侶や寺族に個別のIDとパスワードを出すことによって、さらにセキュリティー面を強化しました。専用ページでは、ますます濃い情報を流すことが出来るようになりました。
また、ポータルサイト「曹洞禅ナビ」を平成28年4月より開始しています。各寺院がホームページを作れるサイトとなっており、寺院の基本情報がベースとして入っていますが、登録いただいた寺院は自分たちで写真や記事を掲載できます。現在約250か寺が登録しており、専用フォームに写真やテキストを挿入するだけでホームページが簡単にでき、ご活用いただいています。
松尾:たぶん今後はスマートフォンなどの技術発展によって、それをどう使うのかというツールの話しが出ると思います。そこで新しいものにどんどん飛びついて、あまり必要のないところにまで展開しすぎることは、好ましくない気がします。その辺りの制御も広報係で考えてほしいと思います。
司会:「曹洞禅ネット」の閲覧者についていえば、パソコン利用者が半分を切っており、スマートフォンを使用する方が半数を超えています。タブレットは1割程度にとどまっているので、スマートフォン利用者にニーズがあると思います。スマホ画面で見ても、違和感なくHPを閲覧できます。
晴山:ツール毎のページを持つことは簡単ですが、あくまで「曹洞禅ネット」への「入り口」であると思います。やるとしたら、新しいものをどんどんと告知していくという感じですね。
松尾:フェイスブックやインスタグラムをもう少し活発にするには、宗務庁内の他の職員にも何か関わって記事を書いてもらったり、見てもらってはどうか、ということを感じます。
●今後の曹洞禅ネットのあり方について
司会:最後に、今後の「曹洞禅ネット」の将来のあり方について、どんなものがふさわしいのか、ご意見をいただければと思います。
松尾:できれば宗務庁内の各部署から担当者を一人決めて定期的に集まり、今後の方針を互いに情報交換を図るという場をつくって、広報がひとり歩きし過ぎないことも大事だと思います。
私が一番苦労したのは、結局、組織の中で人をどう動かすかが一番大変でした。組織の特徴として縦割り構造があると思います。広報の性質として、この縦割り構造に対して、横串を刺す横断的なシステムが必要なんです。例えば広報係として一番最初に手掛けた『寺院のための手引書』(宗務庁刊)で一番苦労したのは、部署を横断することの厳しさで、それを調整することがものすごく大変でした。広報が中心となって、そういう土壌づくりをやっていただけると、例えば「俺たちこういうのをやるから広報でもっと発信してくれよ」という意見が、横から自動的に出てくるような土壌を作っていかないと、ほんとの広報にならない。それは職員一丸とならなければ出来ないのと思います。
大森:外部に向けての情報をどう見せていくかという場合、必ずフィルターを通さないといけない時代になってるので、各課で出てきたものに対して最終的なフィルターの役割を広報が担うというのが最低限のことだと思います。
それともうひとつには、「曹洞禅ナビ」、インスタグラム、フェイスブックなど、色んな展開をして手を広げられていますが、これらの目的と目標というのを必ずはっきりさせて、達成度をデータで計ることが必要だと思います。予算規模からいっても、ふわっと「曹洞宗を知ってもらう」ということでは済まなくなっています。ホームページのアクセス数というのは最低限必要な数値です。
将来的に撤退しなければいけないものが出てくると思うので、多数のデータを取って達成度を分析すれば、もうこれは止めた方がいいという判断もつくと思います。
技術的にどんどん良いものが出てくるのが広報の世界なので、チャレンジングな分野だと思います。そもそも、やったけど駄目だったら、じゃあ他のことをやってはどうだという世界なので、そこは普通に宗務庁が実施する事業とは違うイメージで挑んだ方がいいと思います。下手をうったら、もう終わりという世界ではなく、結果的にこうなったので、撤退を早くするということで、全然問題ないと思います。
晴山:結局、今の経過から見ると、フェイスブックやインスタグラムは何を目的に、何のために開いたのか?「入口」を作ることがメインで良いのか? という疑念も多少あります。
大森:その部分では、フェイスブックやインスタグラムの最終目的に関していうと、「曹洞禅ネット」への導入の役割だと思います。
司会:おそらく「曹洞禅ネット」のスマホのアクセス数が非常に多くなったのは、フェイスブック経由だと思います。例えば、私と大森さんがお友達(フォロワー)同士の場合、大森さんが曹洞宗のFBに「いいね!」をすれば、大森さんのフォロワーである私にも曹洞宗の記事が入ってくる。そこからこれ見てみようかなと思う。
晴山:要は「撒き餌」のようなものですね。そうすると別にこのままで良い気がします。
大森:「それが目標だ」ということをちゃんと決めて、目的に合った形で色んなことをやっていくというのが良いと思います。FBの目標が「入口」と考えれば、入口にするためのFBの情報のあり方を突き詰めていけばよいのだろうと思います。
三村:なんでもできるからこそ、今後はあたらしいものへ挑戦というよりは、目的をはっきりさせる、ターゲットを絞る、今あるものをより分かりやすく、使いやすく、していく時期なのかという気がしています。
後は、対象をはっきりさせるということでは、若年層の「こども」を対象にしたコンテンツを望みます。すでに小中学校では授業でタブレット機器が使えるなど、子どものほうが実際にサイトを利用していることは珍しくありません。「自分で読める」曹洞宗の歴史、「自分で読める」お経、というページがまとめて作られてあったらいいのではないかと思いました。ゲーム感覚で使えるようなページがあったら、偈文を覚えたり、仏様の名前を覚えるなど、クイズのようなのが考えられるのではないでしょうか。
晴山:あとは、寺院専用サイトの『曹洞宗宗制』に関して規程変更の部分が分かるようになるとありがたいです。
司会:現在は、一番新しい宗制が見れるようになっています。
松尾:これは当時、何度もチャレンジしたんですが、様々な障害があり実現できませんでした。よくぞ出来たと思います。
司会:寺院専用サイトでは『曹洞宗宗制』の他、『曹洞宗報』と『てらスクール』も過去2年分ぐらいバックナンバーが見られます。そうやって寺院専用サイトの内容を充実していきたいと思っています。
松尾:寺院専用サイトでは、将来、宗務庁への書類の手続きを電子申請とかそういったもので普通に提出できるようになればいいなと夢見ています。
司会:本日は大変ありがとうござました。今後ますます「曹洞禅ネット」が発展するように、皆さんの協力を仰いでまいりたいと思います。今後ともよろしくお願いいたします。
[文中注記]
※①曹洞宗宗務庁が寺院や僧侶の情報を管理するための事務を取り扱う庁内システム。
※②寺院関係者のための必要書類がインターネット上でダウンロードできる登録制のシステム。
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