【International】海を守ることによって自己を知る機会を作る 目標14:海の豊かさを守ろう

2022.05.13

SDGs目標14のテーマは、「海の豊かさを守ろう」です。地球の71%を占める海を地球規模において守ることはとても大事です。現在私が布教活動をしているハワイは小さな島国なため、すぐに海へ行くことができ、遠いビーチパークでも車で1時間程で行くことができます。古来よりハワイの人々は海と共に暮らし、海に対して尊敬と感謝の念を特別に深く持ち続けてきました。それは現代でも変わらず、ハワイでは海に関する環境保護にとても熱心に取り組んでいます。

「海の豊かさを守ろう」とは、海の生物や環境を汚染による悪影響から守ろうということです。それが曹洞宗の教えや布教とどう通じるのか、今回は私がハワイで企画開催した「海と禅」というワークショップの話を交えながらお話ししたいと思います。

海の環境保護と聞くと、浜辺に流れ着くゴミによって海が汚染され、生態系が崩れている様子を真っ先にイメージするかと思います。ウミガメがビニールをクラゲと勘違いして食べようとしていたり、釣り糸に海の生物が絡まったり、ペットボトルに頭が挟まってしまったりしている海鳥の写真や動画を、一度は見たことがあるのではないでしょうか。

ライト大通師による坐禅指導

ビニール袋の有料化や、使い捨てのプラスチック製品の軽減によってゴミを減らす活動は、昨今当たり前となってきました。プラスチックのゴミを軽減する取り組みは素晴らしいと思いますが、プラスチックの使用は本当に悪影響なのでしょうか。私はプラスチックを使うこと自体が悪いのではなく、使ったものを大切にしない人間の心がこの問題に直結しているのではないかと考えます。曹洞宗の教えがどのように海の豊かさに通じるのかについて、同じくハワイ国際布教師を務めているライト大通師と共にワークショップを行いました。

仏教には「空」の思想やこの世はすべて「縁」で繋がっているという縁起の教えがあります。すべてのものは縁によって形成され、形状を保つことができるという教えです。その観点から「ゴミ」とはまず何かを考えると、あるものが役目を終えた後、その個人にとって価値がなくなると「縁が切れ」ゴミと化します。 例えば、ペットボトルについて考えてみます。これから海へ出かけるとき、スーパーでペットボトルを買い、それをポリ袋にいれます。その時点ではペットボトルもポリ袋も、持ち運ぶための便利な道具です。ペットボトルは液体を運べ、好きなときにどこでも水分補給できる便利な存在です。それはペットボトルやポリ袋が役割を果たしていることによって、自らが必要だと感じる「縁」があるからではないでしょうか。

しかし海に着いて飲み物を飲み干したとしましょう。多くの方はその時点からそれは「必要な物」と言う認識から「不要な物」へと切り替わってしまいます。ペットボトルやポリ袋が邪魔になるだけでなく、ゴミだと思ったときには、すぐにでも捨てたいと思うでしょう。1分前までは感謝していた物が、その次の瞬間にはゴミとなってしまいます。つまり、「ゴミ」となるのかどうかは自分自身の都合によって、「縁」をどのように解釈するかによるということです。

カウアイ禅宗寺で開催された「海と禅」ワークショップ

今回開催した「海と禅」ワークショップには32名の方が参加してくださいました。ペットボトルとゴミの考え方の話を交え、日常生活に禅の考えを取り入れながら生活を豊かにし、同時に環境に対しても貢献できることがあると紹介しました。アメリカでは禅と聞くとまず坐禅が連想されやすく、今回の参加者は坐禅と環境保護がどのように関連しているのか不思議に思いながら参加された方も多かったようです。

坐ることだけが禅ではなく、道元禅師や瑩山禅師がお教えになられた「行住坐臥」、すべての行動は禅であり、ゴミを拾うことも禅の教えを学べる場であるということを知っていただきました。さらに縁起について考えを深くすることにより、自分自身が日常的に手にしている物の多くが、どのような縁によって自分の元にたどり着いているのか、考え方次第でその物の価値がゴミ同然になってしまうこともお話ししました。

講義を終えた後、参加者全員で海へ移動し、人間の勝手な解釈によってゴミとなってしまった数々の物を拾いました。全員で30分ほどゴミを拾い、短い時間でしたが合計12キロほどのゴミを拾うことができました。

ゴミ拾いをする参加者

参加者の中には、今後も海に行った際に自分ができることを実践して、ゴミを拾いたいと感じた方もいました。また、ゴミというものが人の「縁」の切り替えによって生まれたという事実を知り、自分自身が物に対する感謝や考えが改まったと言った方もいました。そして当たり前かもしれませんが、役割を終えたあとの物は感謝して再利用できるものは再利用し、できないものは捨てるべき場所に持って行くことによって環境保護にも貢献できると再確認された方もいました。

最終的には全員が仏教を通じて学んだことを実践することによって、海を豊かにすることもできるということを知って感激していました。

観音像の前で祈りを捧げる筆者と参加者

人と人とのつながりは縁と言いますが、物も様々な縁によって存在しています。このワークショップを通じてゴミとは本来何なのか、禅とは何なのか、仏教とは何なのかを改めて考える良い機会になったと思います。縁があって出会った人や物なのだと考えると感謝の気持ちを抱くことができると思います。そして自分の周りの人や、身近な物を大切にする延長線に、海という存在があり「海の豊かさを守ろう」という行動にも繋がると思います。

是非皆さまも物との縁を見つめ直し、それは大切な物なのか、ゴミなのか、ゴミだとしたらその後どう扱うかを考えてみてください。そのひとつひとつの考えと行動が、環境保護への大きな鍵となるでしょう。この美しい地球、そして海の豊かさを後世へと守っていくために、まずは自分ができることを一つでも始めていきましょう。

合掌

ハワイ国際布教師 吉田宏慧

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