【International】持続可能な開発目標 目標11 住み続けられるまちづくりを

2022.02.09

「住み続けられるまちづくりを」と典座教訓

 

筆者 マッケイブ大信

気候変動は、根源的には精神性を帯びた問題です。二酸化炭素の排出量の増加を指摘する一方で、より深いところでは、気候危機の原因は人間社会による精神的価値観や共有された展望の欠如にあります。

病院や刑務所などのコミュニティの仕事で見かける人々の多くは、不安や鬱、絶望感に苛まれています。これは、人や地球の社会との深く密接な帰属関係を意識することができないからではないかと感じます。 

国連が定めるSDGsの目標11、「住み続けられるまちづくりを」を私たちが目指すにあたって、道元禅師の『典座教訓』を学び理解することが大切であると考えます。そこには、地球のより大きな「律動」と波長を合わせ、帰属関係を意識する実践的な行動が示されています。例えば、食べ物を無駄にせず、自らの目の如く扱うように道元禅師はお示しになられています。

典座のための道元禅師のみ教えを現代の文脈に落とし込むとき、私たちはまず、都市と農家の密接なつながりを理解する必要があります。かつての農業社会では、土地とのつながりは明白でした。お米や鶏などが育った田畑や農場、また、それを収穫した人々の関係性を人々は知っていました。

今日、世界中の都市のほとんどは食糧事情が異なっています。18世紀の産業革命以降、人間は徐々に自分たちが暮らし、食物が育てられている土地について意識することがなくなってきました。お店で買う物も、数百キロどころか地球の反対側から来ることすらあり、土地とのつながりが見えづらくなり、関係のないものへと変貌していきました。

さらに、世界の人口の約半分が自然界に配慮することなく造られた都市部に暮らしていることで、複雑な状況が生まれています。都市は、舗装された道や建物、住宅、ところどころにみられる公園など、人間にとっての利便性を提供するために計画されています。大切なことではありますが、都市計画に携わる人々が地球の声に耳を傾けることはなかなかありません。アメリカでは、ほとんどの都市において、土地は舗装されるか芝生が敷かれています。

自宅の周りの自然

農村部では、工場畜産やトウモロコシなどの単一栽培が、その生産方法によって地球に甚大な被害を及ぼしています。大規模な農法により、地域内における生物の多様性は消え、特定の感染症を媒介する生物の数が増えた結果、疫病の人間に対する危険性が増大しました。地球や人間は、生物の多様性のおかげで健康でいられるのです。こうした製品の消費者は、都市部に暮らしており、食材の選択が及ぼす影響に気づいていないことがしばしばあります。 このような状況下では、地域や地球全体の生活圏との帰属関係をたちまちに意識できなくなっていくのです。道元禅師の『典座教訓』には、この帰属の意識を取り戻す手掛かりとなり得る手本が示されています。

一茎草を拈じて、寶王刹を建て、一微塵に入りて、大法輪を轉ぜよ。所謂縱い甫菜羮を作るの時も、嫌厭輕忽の心を生ずべからず。縱い頭乳羮を作るの時も、喜躍歓悦の心を生ずべからず。

つまり、ここにあるものを最善を尽くして用いなければならないということです。ご飯の一粒一粒はかけがえないものであり、無駄にしてはならないのは、それが仏身であるが故です。

「住み続けられるまちづくりを」のテーマである「包摂的で安全かつ強靱(レジリエント)で持続可能な都市及び人間居住を実現する」ためには、食料品店やレストラン、家庭における食品の無駄を減らし、飢餓に陥る人々と食品の無駄が同時に生まれることのないよう流通を確固たるものとしなければなりません。 私たちには、土地を最大限に生かし、余った食料をどうするべきか判断するための想像力が必要なのです。都市計画として、浸透性(多孔性)のある歩道を優先して設置し、足元の土を地元の食品に活用したり、在来の植物や動物、昆虫の生息に生かすこともできるでしょう。こうした取り組みについて、前例があります。

堆肥を用いた畑で採れた人参

私が住むアイオワ州のエイムズでは、雨が降った際に、水が土地に吸収されず流出することがないよう、土地の所有者が、芝の代わりに長い根をもつ多様な在来の草に植え替えました。私の家の周辺も、六割は草原の草花を植えました。こうした取り組みの結果、食品となる植物の花粉を媒介するハチやチョウチョウなどが引き寄せられ、土地の全体的な土壌が健康になっていったのです。

また、残飯をゴミに出すのではなく、食べられなくなったものはすべて堆肥にし、その堆肥からできた土を加えて、庭のケールやニンジン、豆などの成長を化学肥料を用いることなく育てております。余った食品を堆肥にし、無駄に捨てることのないよう心掛けています。エイムズ市の他の住民は、余った庭の野菜などを調理して食べてもらえるよう貯蔵する施設に持っていったり、無料で食事を提供する事業に寄付しています。

私たちは、地域社会が学ぶためのきっかけ作りとして、ブログを更新したり、編集者に手紙を書いたり、生物の多様性を支えていくことの必要性について法話をしたりしています。また、二酸化炭素排出の削減において担っている役割について啓蒙しているアイオワ州の非営利環境・宗教団体であるインターフェイス・パワー&ライトに携わり、農家が理事としても活動をしてきました。

現在、私どもの禅センターでは、道元禅師が推奨された調理や食事の作法を実践し、お店での買い物、畑で育てられるもの、そして台所で作られるものとの関係性を学ぶための研修会なども計画しています。

合掌

アメリカ合衆国アイオワ州禅フィールズ北アメリカ国際布教師 マッケイブ大信

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