【International】持続可能な開発目標 目標13 気候変動に具体的な対策を
こちらの連載ではSDGsの10番目の目標「人や国の不平等をなくそう」に関する記事が掲載される予定でした。しかし、新型コロナウイルス感染症の関係で1年遅れましたが、すでに令和3年10月31日から11月13日までイギリスのグラスゴーで通称「COP26」が開かれました。
そこで、皆さんの記憶の新しいうちに、予定を早めSDGs13番目の目標「気候変動に具体的な対策を」についてお伝えします。COPというのは「Conference Of the Parties」の略称です。第26回目の「気候変動に関連する、取り決めを結んだ国々の会議」とでも言えるでしょうか。歴史は古く、1995年に初めての会合がベルリンで開かれています。
イギリスはEUから抜けていますので、そのことが逆に、西欧諸国との協議に真剣さをもたらしているのかもしれません。早くから、準備を進め、宗教者と科学者の合同での提言をバチカン、イタリアと協力し、まとめようとしていました。気候変動に関して長年研究し、啓蒙に努めてきた科学者と世界中のさまざまな国、民族の宗教者が、Zoomを使っての会合を重ね、提言をまとめました。
南太平洋のとある宗教者の報告では、小さな島では気温上昇のために海面が上がり、海水が裏庭まで押し寄せてきているといった報告もあり、問題が喫緊に迫ってきていることをあらためて実感しています。
本年度のヨーロッパ国際布教総監部、現職研修会では、アメリカのゴッドウィン建仁曹洞宗国際センター所長に「菩薩の誓願とSDGs」というテーマでご講演をいただきました。その際、「国際的な大企業が営利のためにSDGsを推進しようとしているのではないか」という質問が寄せられました。「曹洞宗がSDGsにかかわるのはよくないと思う」といった意見もアンケートにはありました。これも意外なことでした。
パリのスーパーマーケットで印象的だったのは、陳列棚に置かれている髭剃りが、本体が見えないまま、紙の箱に梱包されていることです。プラスチックやビニールでの包装を極力避けようとしているわけです。実物が見えないままで購入することには勇気がいります。したがって販売する側から見ればリスク要因が大きくなります。
それでも化石燃料から作られるプラスチックやビニールを使用しないようにしているところに、気候危機に本気で取り組もうとしていることが見て取れます。パリではすでに、排気ガスの二酸化炭素濃度が高い車は市内を走ることができません。ローマでも中心部は電気自動車や一部の車しか進入できないエリアがあります。
1つの方向に向かって走り出すと勢いがめっぽう強く早くなる場合がありますが、わずかな見聞からでさえ、時代の方向性が大きく変わろうとしていることが実感されます。
SDGsの内容は17のゴール、169のターゲットにまとめられています。この数の多さは人類の課題全体を網羅しているところからきていると言われます。
ご承知のとおり、カバーしている範囲が広ければ広いほど、個々には相反する課題が提示されてもいます。しかし、全体として打ち出されていることは「だれ一人取り残さない」ということです。
この主題は極めて宗教的な指針を含んでいると感じています。有名な法華経の一節「今此三界、皆是我有」という偈文は塔婆の裏にも記される貴い言葉と受け止められますが、人類の、すなわち、さまざまな民族の多様な文化、多様な宗教の「共存」ということが、現代の課題の1つとして、すでに識者によって重ねて語られています。しかしながら、経済の発展した国と途上国の間には大きな格差、矛盾、不平等が存在しているのが実情です。宗教にはこうした現状を変えていく力があると期待されています。
SDGsの根底には極めて宗教的な誓願を見て取ることができると感じるのは筆者だけでしょうか。私が10月4日にバチカンで催された「信仰と科学ーCOP26に向けて」の最終会議でローマ教皇をはじめとする宗教者、科学者、政治家、外交官の皆さんにお伝えしたスピーチをご報告したいと思います。時間の制約上、ごく短いものですが、宗門の教えを背景にした一つの主張とご理解いただければ幸いです。
仏教徒として、《すべてのものが関係しあっている》ということを強く意識しているので、日々の生活において具体的な努力ができるならば、世界は変わりうる。禅とカトリックの修行僧の交流にかかわってきて、両者の僧院において、ものを極めて大切にする態度を知っているので、伝統的な簡素な生活とそのリサイクルの方法にもっと光が当てられることが必要だと思う。気候危機を超えていくことへの努力が最も大切なことの一つであり、そのことを通じて、人生の豊かさと、ものの豊かさが同じではないということに誰もが気がつくように願っている。ものの豊かさから精神の豊かさへと優先順位が変わっていき、その精神(スピリチュアリティ)から、ありとあらゆるものとの共生可能な、より広い世界共通の視野が開かれることが望まれる。合掌
(英訳)As a Buddhist, I am very conscious of the fact that everything is related to each other, so I'd like to appeal the world would change if we could make concrete efforts in our daily life. Involving in the exchange between the monks in Japanese Zen and European Catholic, I know the attitude of taking great care of things practiced in both monasteries. It is necessary to shed light on the traditional simple life and its way of recycling. I dream our efforts let everyone aware that our challenge to climate crisis is one of the most important matters and the richness of life is not same as of things. I hope to be changed our priority from the richness of things to of spirituality. This spirituality would bring us the wider common perspective on which we could live in harmony with all beings.
ヨーロッパ国際布教総監 峯岸正典