【International】目標2 飢餓をゼロに
「エス、ディ、ジー、エス?」 「何て発音するの?」 これは日本で行われた会議に参加したハワイ国際布教総監部の職員が、「曹洞宗がSDGsに積極的に取り組む」と聞かされたときの率直な感想でした。その当時ハワイではSDGs(持続可能な開発目標)という言葉は、ほとんど浸透していない状態でした。
しかし、ハワイに暮らす人々にとって、関心がないかというと、そうではありません。むしろ、四方を広大な海に囲まれ、人の手が加えられていない緑地帯が多く残るハワイは世界中のどの地域よりも主体的に取り組んでいるといえるでしょう。その証拠に、2014年に全米でいち早く、2045年までに使用電力の100%を再生可能エネルギーに代替することを宣言しています。また飲食店でのプラスチック容器使用を禁止するなど身近な環境対策にも率先して取り組んでいます。
しかし、いくらハワイの人々がSDGsの17の目標の多くにすでに取り組んでいたとしても、その他の目標にこのまま無関心でいいというわけにはいきません。環境問題だけでなく、教育、平等、経済発展など多岐にわたるうえ、世界規模の目標であるからです。ハワイという小さな単位だけを見ているわけではありません。
まず私たちが取り組んだことは、ハワイの僧侶、檀信徒にSDGsとは何か啓発していくことです。取り組むべきであるということは誰にでも分かりますが、仏教徒としてなぜSDGsに取り組むべきなのか、またどのように取り組んでいくかについて、理解しておく必要がありました。
幸いにも、アメリカ本土ではSDGsの取り組みが活発であり、アメリカ合衆国のテキサス州にあるヒューストン禅センターの代表であり、曹洞宗国際センター所長を務めるゴッドウィン建仁国際布教師を紹介していただくことができました。本来であれば当地にお越しいただき、講義を行っていただきたかったところですが、新型コロナウイルスの影響もあり、オンラインでの講習となりました。
建仁師には、ハワイ曹洞宗仏教連盟の会議の後で、SDGsについてお話しいただきました。講習では仏教徒、曹洞宗としてSDGsに取り組む意義、また地域社会の人々の幸せに貢献していくというハワイにおける曹洞宗寺院の考えにも理解を示していただき、現在の目標と実践活動をそのままに、視線を世界に拡げるだけで十分と説明していただきました。この講習にはハワイ国際布教師だけでなく、各寺院の檀信徒代表も参加しており、ハワイの曹洞宗に関わる全員が足並みを揃えてSDGsに取り組む非常に良い契機となりました。
その後の取り組みの一つとして、今回は2番目の目標である「飢餓をゼロに」に関する実践について紹介していきたいと思います。
食料不足で苦しんでいる方々の3分の2はアジアの国々に暮らしているそうです。世界規模で見た場合、現在、8億人以上の人々が気候変動による干ばつ、生態系の変化により十分な食料を手にすることができていません。日本やアメリカに住む私たちには、一見飢餓の問題は直接関係ないことのようにみえますが、食料問題は世界規模で改善しなければならない課題であります。その一方で、先進国では大人の8人に1人は肥満だといわれています。このような状況にも目を向ける必要があります。
実際に、私の住むハワイでは、16万人の人々が食料不足で苦しんでおり、そのうち5万5000人は子どもたちであることが報告されています。また、ホームレスも多く、全米の中でも非常に多い割合です。つまり、食料問題は遠く離れた国で起こっているというわけではなく、身近で真っ先に取り組むべき問題でありました。
ハワイには、食糧不足で苦しんでいる人々に食事や食糧を配給する“Food Bank”などの組織が多く存在します。ハワイの曹洞宗寺院で大きな法要や行事が催される際には、檀信徒の方々に自宅に余っている、日持ちする食糧をお寺にもって来ていただくようよう呼びかけを行っています。そして集まった食糧を定期的にフードバンクに寄付することで、それらの食糧を必要としている人々へいきわたり、完全にというわけにはいかないものの、問題の改善に貢献しています。このように、食糧不足問題を喚起し、直接食糧を配布することも、「飢餓をゼロに」という目標の達成に向けた大切な実践活動の一つであります。
一方、曹洞宗には道元禅師がお示しになった『赴粥飯法』という食に関する書物があり、その中には「五観の偈」という食事の前にお唱えする、目の前の食事に感謝を述べるという記述があります。一般的には、精進料理といえば、お肉を使わない料理、というくらいの認識かもしれませんが、曹洞宗においては、食べるという生命を成長、維持するために必要な行為そのものが修行であり、食事を大切にする、すべての命を大切にするということが基本にあるのです。
直接飢餓に苦しんでいる方に支援することも飢餓をなくすための取り組みですが、人々に食事の大切さを伝えることも貧困問題に対する解決策の一つではないでしょうか。
ハワイ国際布教総監部では精進料理の講師をお招きし、精進料理を一緒に作る体験を通して食物の命の大切さを檀信徒に教え、実体験として感じていただく取り組みを行っています。また坐禅会や日曜礼拝に参加していただいた方々に、精進料理を応量器で召し上がっていただくことで、普段何気なくいただいている食事の大切さを伝えています。
このような曹洞宗の教えを通した取り組みも、飢餓の問題を解決する一つの方法だと信じており、今後とも一人の曹洞宗僧侶としてSDGsの取り組みに協力し、目標の達成に向けた一つの力でありたいと考えています。
合掌
ハワイ国際布教師
ハワイ国際布教総監部書記
星野真隆