曹洞宗におけるSDGsへの取り組みについて(1)

2020.08.28

曹洞宗はSDGsの理念である「誰一人取り残さない世界」の実現を「菩薩の誓願に生きる信仰実践」として、今までも、これからも、多くの人々と共に活動を進めていきます。

SDGsは、「持続可能な開発目標」と訳され、現代においても未来においても「誰一人取り残さない世界」の実現を目指し、国連加盟193ヵ国が「貧困や飢餓」・「不平等の是正」・「環境の保全」・「平和的社会の実現」などに関連する17の課題を、統合的・包括的に解決していこうとするものです。2015年9月の国連サミットで採択された国際目標では、2030年までに目指すべき17のゴールと具体的な169の達成目標が定められ、各国政府機関、企業、民間団体などが一丸となって、すべての人々の幸福と地球環境の保護に向けた取り組みが進められています。

SDGsの掲げる17のゴール

これを受け、2018年11月に日本で開催された第29回WFB世界仏教徒会議において「東京宣言(慈悲の行動)」が採択され、仏教界が一丸となってSDGsの実現に向けて、取り組んでいくことが表明されました。

また曹洞宗では、2019年6月に開催された第133回曹洞宗通常宗議会における宗務総長演説でSDGsを推進する方針が発表され、「国際社会においてわが教団が果たすべき重要な役割」として位置づけられることとなりました。

曹洞宗では、1991年以来「人権・平和・環境」のスローガンのもと、様々な取り組みがなされてきました。これらは貧困や差別、環境や平和の問題を包括的に理解し、連携して取り組もうというSDGsの目標と理念を同じくするものです。また「誰一人取り残さない」という理念は、信仰に生きる私たちにとって、生きる意味や信仰の実践に深くつながる重要なテーマであるといえます。

曹洞宗の教えには、坐禅の実践に限らず、食べ物や水などを仏の姿そのものとして尊び、無駄にせず大切に丁寧にいただくという修行生活の実践があります。また困難を抱え生きている人々の苦しみに寄り添い、少しでも和らげることができるよう願い、わが身のこととして行動するという菩薩行の実践があります。

『修証義』第四章「発願利生」は、次の文章から始まります。

菩提心を発すというは、己れ未だ度らざる前に一切衆生を度さんと発願し営むなり、設い在家にもあれ、設い出家にもあれ、或は天上にもあれ、或は人間にもあれ、苦にありというとも楽にありというとも、早く自未得度先度佗の心を発すべし。

私たちの本当の安らぎは、自らの欲望の追及の果てにあるものではありません。誰しもが持っている、苦しんでいる人や困っている人を「ほっとけない」という「菩薩の心」を、行いや形にして届ける。その「優しさのリレー」に参加することこそが、信仰に生きる私たちの喜びと幸せにつながるのです。

SDGsの実践は、単なる社会活動ではなく、本宗の教義である『修証義』四大綱領に基づく「布施・愛語・利行・同事の四摂法に代表される菩薩行の実践」として位置づけられるものです。

これらは、社会全体や相手のための行いであると同時に、自分自身を仏として成長させる大切な修行でもあります。「人はどう生きるべきか」という重要な問いの答えが、SDGsへの取り組みを通じて、禅の生き方の実践として実現されるのです。曹洞宗におけるSDGsの取り組みは、単に社会貢献活動としてだけではなく、禅の信仰実践として位置づけられるものなのです。

そして『修証義』第五章「行持報恩」には、次のように記されています。

我等が行持に依りて諸仏の行持見成し、諸仏の大道通達するなり、然あれば則ち一日の行持是れ諸仏の種子なり、諸仏の行持なり。

SDGsへの取り組みを「私の仏道修行としての信仰実践」として行うことができたとき、私たちは行いを通じて「ともに仏になることができる」のです。今日の自分は、「仏らしく」生活できただろうか?と確認しながら、多くの人々の安寧を願って生活する。そんな穏やかで豊かな毎日を実現していきたいものです。

曹洞宗が何を大切に護り伝えてきたのか、また、今この時代に世界へ、未来へ曹洞禅を伝え広めるために、何を共に実践すべきなのか。これまで取り組んできた、あらゆる差別の根絶、平和な社会の実現、地球環境への配慮、被災地支援や自死問題への対応など、様々な取り組みを引き続き進めるとともに、世界・未来を広く視野に入れた形で「誰一人として取り残されることのない世界」の実現に向けて、宗務庁、宗務所をはじめ、寺院、僧侶、寺族、檀信徒はもちろんのこと、地域や社会の中で取り組みを実践する多くの方々との連携を模索しながら、宗門全体でSDGsへの取り組みを力強く進めてまいります。