【International】欧州特派巡回報告

2017.02.03
法話をする筆者

35年前、駒澤大学の耕雲館(旧図書館)において初代ヨーロッパ開教総監弟子丸泰仙老師の講義を受講することができた。次の年に老師はご遷化されたので、特に印象深いものとなった。「仏教と坐禅は世界に広がる」という趣旨であったが、ご自身がフランスに渡り確信された言葉であったのだと、巡回日程を終えて改めて思う。
欧州各国出身の方々が続々と来日し、本山僧堂はじめ各地の僧堂に安居修行している。それぞれ深く根付いたキリスト教文化の中で生まれ育った人々である。その人々が仏教に出会い曹洞宗を選択し、なんの生活の糧となる保証もないのに、発心し言葉も文化も違う中で只管弁道の日々にある。坐禅を安楽の法門と信決定している。摂心等に参ずることが無上の法悦であり生きがいとなっている。そしてさらに進一歩、ひたすら働き渡航資金を貯め、法衣を誂え来日する。そういう人々に敬意を感じずにはいられなかった。

このような中、私は初の欧州特派布教巡回を拝命し、任務の重さに緊張していた。    
特派布教は、管長告諭と布教教化方針を伝達することにより、私たちが1年の信仰のあり方を再確認し、日々実践に生きることを目指す。仏教の基本と曹洞宗の宗意、安心立命のあり方を伝達するものでなければならない。かつて弟子丸老師の坐禅に吸い寄せられてきた人々であるが、40年前は仏教も曹洞宗もよく理解されていなかったと聞き及んでいた。
今回の巡回では、管長告諭を中心とする法話の中に、仏教の根本と言える「智慧の獲得と慈悲の実践」を柱として盛り込み、教場に臨んだ。
フランスでは日本語から英語そしてフランス語に、イタリアでは最後にイタリア語に、オランダは英語のみで通訳された。日本語なら30分から40分の内容であるが、通訳していただくと90分を超える。それでも聴衆の視線は動かず、微動だにせず集中して聴聞する姿に大きな感動をいただいた。
11月9日に日本発、12時間後の同日フランスはパリのシャルル・ド・ゴール空港着、8時間の時差を体で感じる。 

11月10日、ヨーロッパ国際布教総監部を訪問。佐々木悠嶂総監、モス透厳書記、輝元泰文庶務にお会いした。また通訳としてシュプナル法純国際布教師にもお会いした。総監部においては提唱通訳等も長く務められている佐々木総監からヨーロッパの仏教事情や2015年11月13日金曜日のパリ同時多発テロによる心理的影響、そして欧州各国の曹洞宗関係者や寺院の未来等についてお話しいただき大変参考になった。
巡回中はフランス、イタリア、オランダはモス透厳師とシュプナル法純師が同行され、英語通訳をモス師とシュプナル師、フランス語通訳をモス師が行った。ヨーロッパの寺院や禅道場には2形態あり、禅道尼苑のような郊外にある大きな寺院を中心に地域等にも教化を進めていく形と、都市部で20名から30名のメンバーによる小グループが会場を借りて月1~2回程の摂心や坐禅会等を開いていく形があるという。

フランス 禅道尼苑


同日夜、パリの中心街へ赴き、ロベール香蓮、ストリム玄心両国際布教師が所属するシャトレ禅道場において、坐禅一炷後の特派布教、そして活発な質疑応答を行った。
11月11日、パリ中心から列車と車で2時間の移動ののち、弟子丸初代総監が設立された禅道尼苑に到着。森深い清冽な空気の中、摂心指導者のピレ鎮霊師とリザシュール龍岳師の出迎えをいただいた。初心者を含め100名を超える参加者、真摯な聴聞、活発な質問、そして全員による展鉢に大きな感銘を受けた。弟子丸老師の居室・書斎の案内を受け、翌日は墓参後、フランス高速鉄道TGVと車で5時間移動し、摂心中のストラスブールの龍門寺に到着した。ワンゲン霊元国際布教師にお出迎えいただき、60名の参加者とともに禅堂で夜坐、引き続き特派布教を行った。翌日の小食では弟子丸老師発案という通称「ゲンマイ(野菜入りの玄米粥)」をいただいた。その後、龍門寺をあとにし、5時間かけてパリに戻った。
11月14日の移動予備日は、パリ同時多発テロ犠牲者諸精霊に対し、輝元師、シュプナル師とともに現場を巡り献花合掌を行った。現場では1年経った今でも自動小銃を構えた兵士と警察がそこここに立っていた。

観照寺でフォーレ泰雲師と


11月15日、パリから列車と車で4時間のリモージュにある観照寺へ移動し、フォーレ泰雲国際布教師の出迎えを受けた。摂心前であったため、30名の地元僧侶がいるなか、茶話会と特派布教の時間を2日にわたって行った。観照寺の僧侶との茶話会も、ともに仏教を学ぶ良い機会となり、このように「納得がいくまで議論を尽くすことを特に大切としている」とのことであった。16日昼出発、パリに戻る。
11月17日、パリから空路、イタリアのミラノに入る。約2時間の車移動ののち、普伝寺に到着。グアレスキー泰天国際布教師の出迎えを受けた。翌18日、欧州各地からの参加者や近隣の方々30名が参加し、仏教講習会の一環として特派布教が開催された。泰天師は、本山や日本の僧堂に近付けたいと、たゆまぬ伽藍整備をライフワークとされている。中食後、ミラノに移動し、ホテルに宿泊した。
11月19日ミラノから空路オランダのアムステルダムへ移動。さらに車で3時間かけ、グローニンゲンの禅川寺に到着。コペンズ天慶国際布教師の出迎えを受けた。40名による摂心中、夜坐後に特派布教、翌日質疑応答(茶話会)の時間がそれぞれ2時間設定されており、充実した内容であった。天慶師の伴侶であるガブリッシュ妙法師は欧州風精進料理レシピの著書があるほどで、学びと大衆縁に恵まれた道場であった。
11月21日午後8時パリ発、翌22日午後4時羽田着、宗務庁へ立ち寄り、報告後、帰山した。本当に尊くありがたい特派布教巡回であった。
巡回中、各教場では仏教、坐禅、智慧と慈悲、同事について、そしてチェルノブイリから30年を経験しての東京電力福島第一原子力発電所事故・テロ・移民・文化や宗教の対立について等の質問が続いた。各教場での質問については、多くの質問が出ることと予測していたため、時間の許す限りお答えした。また、いずれの教場でも参加者全員での茶話会の時間を設けていただくことができた。これは総監部役職員の方々、教場主の方々のご理解のお陰であったと感謝している。

オランダ 禅川寺


聴聞の方々は、曹洞宗が、毎年信仰のあり方と実践のあり方を全世界に向けて発信していることに驚かれていた。さらに「もっと仏教を学びたい、深く学ばなければならないと思った。日本との交流をさらに深めてほしい。」等の感想をいただき、私自らも策励を頂戴したと心から感じている。
最後に、特派布教巡回関係の皆さまに心から感謝申し上げたい。

(特派布教師 福島県長秀院住職 渡辺 祥文記)

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