【International】僧堂掛搭僧海外研鑽報告「外に出て、内を見る」
現在、安居させていただいている晧台寺専門僧堂には海外からの修行僧も多く訪れます。
日々彼らと接し、様々な話を聞く中で、自身の目で見て、聞いて、彼らの日常を体験したいと思うようになりました。

特に興味を持った点は、
①背景となる生活習慣、食事・文化、気候等様々な条件が違う中でどのように日常が行じられているのか。
②檀家制度が存在せず、僧侶、長期参禅者、一般参禅者の布施で寺院が運営されているというが、その取組みや具体例について。
③人が多く出入りすれば、馴染みの早さ、また、飲み込みの早さは十人十色ですが、ほぼすべての日本人大衆が好感を抱いている海外からの修行僧の師寮寺ではどのような準備や指導がされているのか。
以上の3点です。これらを特に主題として研鑽に臨みました。
研鑽先寺院は、今回応募するきっかけとなった同安居の師寮寺である清久寺(スペイン)、同安居から何度も話を聞いた普伝寺(イタリア)、晧台寺で侍者を務めるハーシュ霊峰師が薦めてくださった観照寺(フランス)、そして、ヨーロッパ現職研修会に随喜すべくフランス禅道尼苑を加えた4ヵ寺となります。
渡欧期間 8月21日~11月19日
①清久寺(スペイン)
8月22日~9月15日
・ 一週間前後の摂心が毎月2回開催されている
②観照寺(フランス)
9月15日~10月30日 (※10月5日、6日は禅道尼苑)
・ 一般向けの週末3日間、慣れている方を含めた10日間の摂心
・夏、冬制中前に僧侶、得度を考えている方等を対象とした短期安居
・夏・冬安居
③ヨーロッパ国際布教総監部 (フランス)
10月30日
④普伝寺(イタリア)
10月31日~11月19日
・週末安居
・週1回の夜坐・提唱
・和太鼓
〇主な活動
坐禅と基本的な作法の指導が中心であり、そこには日本の寺院との大きな差はなかったように思います。ただし、建物の建設、維持・管理、畑を持っている寺院では、その管理がすべて自身たちの手で行われるため、作務が長時間にわたって熱心に行われます。そのため、睡眠時間は少し多めに取られ、休息時間がしっかり確保されています。
また、朝課、日中、晩課は作務の余波を受けて簡略化されていることもあり、その点は少し複雑に感じました。
〇法話
どの寺院においても、布教の観点から法話、問答に関しては、多くの時間を充てた差定になっておりました。テーマは、「日常をどのように良くしていくか」、「教えはどのように生活に活きていくのか」が主だったものになります。日本の寺院にいると、参禅者の話を聞くときの姿勢や態度はなかなか見られないですが、老師方から、新しく根付かせていくのはこういうことだよと諭され、老師方が辛抱強く、分かりやすく、伝わるように接する姿勢には深く感じさせられました。
〇言語
地域柄、異言語話者と話す環境に慣れているのもあるかと思いますが、提唱の同時通訳はどこの寺院でも行われています。 言語は、老師方の活動範囲によって変わってきます。
・清久寺 フランス語→スペイン語
・観照寺 フランス語→英語
・普伝寺 イタリア語→英語
老師方も通訳の方も慣れているのか、呼吸を合わせて、翻訳しやすく話を切ったりするなど、聞き手を飽きさせないリズム、内容の絞り込み等、工夫が随所に多々あり、興味深く聞かせていただきました。老師方から提唱の合間でも、質疑応答の時間を積極的に設けていること、以前掲載されていた研鑽報告にもありましたが、各摂心の終わりに大体あるBARTIMEやGOODMEAL(と呼ばれていました)、立食パーティなどの雰囲気、機会を利用して、積極的な会話を試みていらっしゃったことも距離感、関係性の違いを感じた点です。

普伝寺の国際布教師であるグアレスキー泰天老師は、成田秀雄老師にいただいた寺院の名のとおり、普く教えを伝えたいと真摯に願っています。それと同時に、今もなお本当に理解できているのだろうか、理解できるのだろうかを日々問いかけていて、その姿勢を持ち続けたいと仰っておりました。その問いかけは、日々の活動に深く根差していて、
イタリアのキリスト教神父との対話、共同活動、イタリアに移住している日本人(合気道、空手、柔道の師範等々)、日本人英語イタリア語通訳者、イタリア人英語日本語通訳者、他イタリア人、日本の伝統文化を長く学んでいる方々(華道、茶道)、もちろんのことながら継続した付き合いのある日本人僧侶とその関係者の方々など、途切れさせることなく、様々な視点を持つ方々と意見交換、往来、これまでの思い出を話してくださったことは、皓台寺の齋藤方丈さまも多々登場されていたこともあり、強く印象に残っています。
〇研鑽を終えて
新しく見たい、体験をしたい思いで行った先で起こったことは、自分がこれまでに学んできたことを見つめ直すことであり、お世話になった方たちとの内面での対話でした。
その場にいる唯一の日本人修行僧として見られていることを感じますし、一般的な日本、日本人のことから、仏教のこと、僧堂生活のこと、現地との違い等々、様々なことが会話にあがります。そのときに自身がこれまでに何を学んできたのか、何をどう説明できるのか、諸先輩方ならどう話し、この場にどう在るだろうか。こういった内省は、日本人のみの環境ではなかなか得られない感覚、環境であり、当たり前が当たり前でなくなって初めて感じる日常すべての言葉、所作を見つめ直す素晴らしい機会であり、多くの皆さんにも経験していただきたく思います。
加えて今、自分が快く受け入れていただいている現状は、どこから来ているのか。ヨーロッパへの布教の道を開き、交流を絶やさぬよう様々な制度を作り維持に尽力してくださった方々に恥じない修行ができているのか。次の方たちも今の自分と同じく温かく受け入れてもらえるような行動ができているのだろうか。その思いは、日本に帰国した今もなお強く残り、日々の修行の糧になっています。
晧台寺専門僧堂の現冬安居も、日本人掛搭僧が半数、外国人掛搭僧が半数の構成で日々切磋琢磨しています。渡航前と帰国後では、彼らの行動への理解、接し方に幅を持てているように感じます。自身の修行はもちろんのことですが、外国人僧侶が自身の背景や生まれからくる違いに向き合うことによる刺激と学びが得られるように、そして、次の海外研鑽僧が、良い御縁で結ばれるよう強く願って文章を結びたいと思います。
晧台寺専門僧堂 吉澤道隆 記