【人権フォーラム】人権教育啓発研修の新たな展開~自主的な学びの構築へ~

2025.03.10

前回の人権フォーラムでは今年度開催された管区内宗務所・教化センター役職員人権啓発研修会(以下、役職員研修会)の報告を行いました。

今月は、自主的な学びの機会として開催された熊本県第一宗務所、鹿児島県・沖縄県宗務所合同開催の研修会報告をご寄稿いただきました。

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熊本県第一宗務所、鹿児島県・沖縄県宗務所合同人権啓発研修会開催報告

熊本県第一宗務所所長 中山義紹

今年度は役職員研修会が開催されないと聞いていました。また、九州では、九州管区の人権主事を中心に、管区役職員研修会とは別に、九州各地に参加者を募り、熊本県合志市にある国立ハンセン病療養所「菊池恵楓園」で年に2回(年頭の大般若と夏の施食会)の法要を実施してきました(主管は熊本県第一宗務所)。

入居者で参加できる方には、入居者用ホールのふれあい会館に集まっていただき、法要・法話、その後茶話会と続き、入居されている方の生の声、体験談を聞かせていただける大変有意義な機会でした。コロナ禍が始まってからは中止となり、感染症第五類移行以後も入居者がご高齢ということもあって、居住スペースへの外部者の立入は遠慮して欲しいとの要望が恵楓園側からあり、開催は止まったままでした。

しかし、昨年の夏から、入居者との接触が避けられるならば法要の開催は短時間であれば可能ということになり、一歩前進したところでした(但し、当日は台風の接近のため開催できませんでした)。年頭の大般若法要は、多分できるであろうと考えていたところ、鹿児島県・沖縄県宗務所久野清志所長より「管区役職員研修会が開催されないなら、お互いの宗務所の合同研修会を開いてはどうだろうか。併せて、九州管区内の各宗務所にも声をかけて皆で研修するのも良いのではないか」との呼びかけがありました。

菊池恵楓園園長 境恵祐先生の談話

旧優生保護法や虹波の問題(編集註:虹波とは、感光色素を主成分とする薬剤の名称。結核治療を目的に開発されたが、倫理的問題点に、副作用の多発、被験者への説明不足、強制的な試験参加がある)、何よりハンセン病差別の問題を改めて宗侶として研修するには、菊池恵楓園での研修は、大変重要だと考え、「2つの宗務所で一緒に行いましょう」と即答し、今回の研修会開催の運びになりました。私としては、法要の再開と継続の問題にだけとらわれていましたが、これは大切な機会であると目から鱗が落ちる思いでした。さらに、菊池恵楓園の事務本館が平成15年に改修され「社会交流会館」となり、『全国ハンセン病学会総会・学術大会』が開催されたのを受け、コロナ禍で閉鎖状態の時期にさらに広く一般にアピールできる「恵楓園歴史資料館」として令和4年にオープンしておりました。改めて現地を視察したところ、施設内に設備の整った会議室もできており人権学習会の場として適していることも分かりました。研修の内容等は久野所長から色々とアイディアを出していただき、また、人権擁護推進本部への連絡や交渉等にもご尽力いただきました。それを基に、両宗務所役職員、特に人権擁護推進主事が中心になり開催を迎えました。

2025(令和7)年1月31日、午前10時30分から熊本県第1宗務所役職員を中心に大般若祈祷法要を行いました。恵楓園自治会より居住者との接触は避けると聞いていたのですが、当日数名の入所者の方が参加されました。コロナ禍前の茶話会の席でお顔を拝見していた方も参加されていて大変嬉しい気持ちになりました。午後1時より研修会開式、最初にガイダンス映像視聴(約20分)その後、約1時間の展示室自由見学を行いました。「ライ病」と名づけられた病気に罹患した方が、この国でいかなる差別を受けてきたか、患者保護の名目で隔離され監禁されてきた歴史、それに対する国の政策の変遷、優生保護の名目で行われた断種の実態、感染したというだけで閉鎖された場所に監禁されてきた人々の日常生活の記録、外に出ることさえできない生活の中で前向きに生きようとした文化活動の作品が展示されている様々な資料に触れて、参加者一同、深い感銘を受けました。

参加者記念撮影

1時間の館内自由見学の後、場所を2階の研修室に移し、菊池恵楓園園長・境恵祐先生の講話をいただきました。先生は、皮膚科の医師でもあり、まず医学的な立場からハンセン病の特性、また歴史的に見られた誤解等について説明された上で、現在に至るまでの病気に関する病理学的な曲解の変遷を話されました。次に、何故このような悲惨な差別や偏見が生まれてきたかについて、社会的背景や歴史的事実に関して解説されました。今までに何度も菊池恵楓園を訪れ、ハンセン病に対する差別や偏見について、ある程度理解していたつもりの私にとって、病理学的、社会背景の歴史を踏まえた説明を聞き、改めてさらなる学びが必要であると痛感いたしました。そして、ハンセン病という課題を通じ、我々一人ひとりの中にある差別意識や偏見の自覚と、国家という強制力を持った法制度の再点検と展望について話されました。中でも講話中に境園長が言われた「『差』も『別』も存在するが、『差別』は存在してはいけない」という言葉が印象的でした。1時間の講話でしたが参加者一同深い学びを感じました。その後、曹洞宗人権教育啓発相談員・磯田浩隆師を助言者に迎えて参加者バズセッション(グループ討議)を行いましたが、今回の講話を通じ、差別と偏見を無くし人権を尊重する社会を作る為に我々僧侶が学び、宗侶として自分に何ができるかを熟考し、実践することが必要であることを自覚する機会となりました。

最後に、この研修を通じ、まず自ら学ぶ姿勢を持たなければならないと痛感した研修となったことを付記いたします。

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この研修会は、両宗務所協働により、自主的な学びの機会として生まれたものです。人権本部ではこのような機会を充実させるため、相談を承っておりますのでお気軽にお問い合わせください。

人権擁護推進本部 記