梅花流詠讃歌【梅花照星に似たり】③

2025.03.03

俗に「1月は行く、2月は逃げる、3月は……」と言いますが、ついこの間、年が明けたと思ったら、もう3月となりました。

私が住職を勤めるお寺では毎年3月、歎仏法会たんぶつほうえという春彼岸の法要をお勤めします。 歎仏法会は全国の曹洞宗のお寺で行われておりますが、当寺では大正年間に起源を持つ恒例行持ぎょうじで、以前はお懺法せんぼうと言っていました。

懺法とは懺悔さんげのことを言い、自分の愚かさを、より大きな仏のいのちにつつんでいただき、そこにまかせるということです。

自我や思い込み、現世とのしがらみをすべて投げ出し、自分自身を見つめ直す礼拝らいはいを繰り返します。自分自身を見つめ直し、謙虚な心で亡き方々への祈りを捧げ、お話をお聴きいただくことからこの法会を「礼仏らいぶつ聞法もんぽうの集い」と位置づけています。

法会の中心は「声明しょうみょう」と呼ばれる、お経に節をつけて読む一種の仏教音楽ですが、当寺では同じ仏教音楽である梅花流詠讃歌を多く法会の中に取り入れています。

お唱えする一曲として当寺の御詠歌である「官長寺御詠歌かんちょうじごえいか」があります。

 さくらやま はなのさかりの官長寺かんちょうじ 
 ほとけにまいる ひとぞたのしき

梅花流詠讃歌に応用替曲おうようかえきょくがあります。この応用替曲の発表は、梅花流がより広く親しまれてゆくことを基本としており、「自分のお寺の御詠歌をお唱えしたい」という願いによって採用されました。メロディは基本的には「観世音菩薩第二番御詠歌かんぜおんぼさつだいにばんごえいか浄光じょうこう)」を使ってお唱えしますが、この曲譜に限らず、他の詠讃曲を適宜用いてお唱えすることも可能です。当寺では、「浄光」の旋律に乗せてお唱えしています。

歌詞にある「たのしき」には、愉快や喜ばしいという意味もありますが、私は豊かで満ち足りていると解し、歌の意味を次のように受け止めています。

小高い佐倉(地名)の丘陵地にある官長寺の境内には、四季を通じていろいろな花が咲いています。ご本尊地蔵菩薩を始めとする仏さま、菩薩さま、あるいはご先祖さまをお参りする時、人々の心は穏やかでとても満ち足りています。

温かな陽ざしを感じられる時節が訪れ、皆さんも菩提寺や近くの寺院に彼岸参りに出かける機会もおありでしょう。仏さま、菩薩さま、ご先祖さまとの出会いを通して、「たのしき」心をお持ちいただくことを願います。

「3月は去る」でした。また今月も駆け足で過ぎて行くのかも知れませんね。

静岡県官長寺 住職 大田哲山