【International】ブラジル連邦共和国白雲山禅光寺開創50周年記念行事報告
禅光寺は、世界的な観光地として有名なブラジル連邦共和国の東南に位置し、リオデジャネイロから北におよそ400キロ離れた、エスピリトサント州イビラスにございます。コーヒーやカカオの畑が拡がる、人口およそ1万2000人の自然豊かな小さな町です。寺院の近くには希少な動植物が数多く生息し、今日では西洋最大と言われるイビラス大仏はもとより、州の自然公園にも指定されている深山幽谷のこの地には、多くの禅の修行者や観光客がひと月でイビラス市の人口の2倍以上の3万人ほどが訪れます。
今般の50周年記念行事は官民連携した一般の方々向けの行事と、曹洞宗の伝統的な結制安居という2つの側面で開催いたしました。
令和6(2024)年8月31日、BR101というブラジルでも有数な幹線道路沿いにイビラス大仏が鎮座する丹羽禅師公園(大仏の公園)があり、その公園を特設会場として記念行事を開催いたしました。当日は晴天の中、エスピリトサント州知事のホセ・レナート・カーザグランデ知事、在リオデジャネイロ日本国総領事等の御来賓をはじめ、およそ4000人が来場し、この記念行事が盛大に催されました。
主な展示としては、禅光寺での子ども禅の集いの際に、ボランティアとして長年指導されている生け花グループによる展示、観世音陶芸学校による展示、ヴィトーリア日系協会による盆栽及び墨絵の展示、また折り紙のワークショップが終日開催されました。
またイビラス大仏横に建立した大仏寺内に、宮崎県綾町の松本俊二町長をはじめとする雛山まつり実行委員会のメンバーが来伯し、伝統的行事である「雛山まつり」も開催されました。雛山は自然の木、石、花などを用いて山の風景を再現し、そこに雛壇を飾るというものです。綾町では、往時より女の子は「山の神」とされてきました。そこで桃の節句を盛大にお祝いしたいという願いから、雛山の行事が江戸時代から始まったと松本綾町長よりうかがいました。
午後4時からは公園内の特設会場において、ヴィトーリア日系協会による太鼓の演奏、ビッチ大樹南アメリカ国際布教師をはじめ御来賓による挨拶、そして寺院に貢献いただいた方々に感謝状の授与が行われました。
その後、日本出身のオペラ歌手である千田栄子さんと、エスピリトサント州交響楽団による演奏が行われ、「赤とんぼ」などを共演されました。最後は、日伯のさらなる友好と発展を祈り、スタンディングオベーションのなか盛会裏にお開きとなりました。
翌日より山内や南米をはじめ、日本、北米、欧州の世界各国からのご随喜を賜り、作務や習儀を重ねまして結制行事を修行いたしました。
9月6日(金)午前に白雲山禅光寺の御開山であります、大本山永平寺七十七世慈光圓海禅師瑞岳廉芳大和尚三十三回忌報恩法要では、静岡県宗乗寺前住職の伊藤正見老師を導師に拝請し、報恩供養が行われました。
続いて、白雲山禅光寺50周年記念慶讃法要が大本山永平寺副監院兼典座の西村眞典老師に導師をお務めいただき厳修されました。また法要後には、曹洞宗宗務総長からの御祝辞を清野暢邦南アメリカ国際布教総監に代読いただきました。
午後には首座入寺式、土地堂念誦、配役本則行茶が如法につつがなく執り行われました。
9月7日(土)にはビッチ大樹師の退董式に引き続き、拙衲の晋山式、晋山開堂を務めさせていただきました。その後、首座法戦式が修行され、首座は見事に問答を喝破されました。
9月8日(日)には聖霊山大仏寺の落慶式が大本山永平寺顧問・静岡県山王寺御住職の青山嶺雲老師により務められ、昼餐会をもって記念行事は無事円成いたしました。
今般の記念行事に併修し、退董されたビッチ大樹師は、今から50年前、初代南米開教総監(現国際布教総監)である新宮良範師に就いて得度され、ブラジルの地に曹洞禅のみ教えを伝えるべく尽力なされました。
そのご苦労は想像を絶するものでありました。上山した日本の専門僧堂では、慣れない言葉・文化・慣習のなか、曹洞禅のみ教えを体得すべく辨道工夫なされました。帰伯後は、荒廃していたこの地に30万本以上の植樹をなされ、県道から禅光寺まで約2.7キロある山道に、石を1つ1つ、仲間と共に敷いていかれました。州名である「エスピリトサント」は日本語では「聖霊」と訳すことができ、文字どおり、当時よりキリスト教の信仰が強い地域でした。そのような環境の中、曹洞禅の教えが地域社会になかなか認められない時期もありましたが、仏種を撒くべく地道に布教活動を続けてこられました。
その努力の結果、伽藍が整備され、数多の活動に取り組んできました。当地学生の情操教育のための禅のつどいや、様々な信仰を持つ人々を対象に禅のワークショップを開催しました。また、敷地内のアトリエ兼住居である文化センターでは、様々なアーティストが文化活動を行い、環境保護の為にクリーンエネルギーを使用しました。
さらに、陶芸学校を設立し、人材を育成して雇用を創出するなど、多種多様な分野において持続可能な社会の実現に向けて、曹洞禅の教えを礎に活動を続けております。
50年前、環境破壊で荒廃していた山は、現在ではエスピリトサント州内の7つの特筆すべき場としてブラジル国内外から注目を集める山になりました。今後、後を託された私は以下の目標と計画がございます。
はじめに、将来、禅光寺が宗立専門僧堂になるための環境づくりに取り組みたいと考えております。
具体的には、西洋の僧侶を目指す方のために、日本に修行に行く前に禅光寺で基本的なことを学ぶ機会をつくりたいです。
外国人僧侶が日本に修行に行った際、ただでさえ言葉や文化の違いなど慣れない環境で苦労することが多い中、袈裟の着方、仏具の名前など初歩的なことをゼロから学ぶ必要があります。僧侶を目指す外国人が日本での修行という環境に適応できるよう、手助けをしたいです。
また、基本的なことだけではなく、日本で学んだ細かな作法も共有し、深い部分まで学ぶことのできる環境も作っていきたいです。
次に、社会的な活動の幅をさらに広げていきたいと考えております。
現在、禅光寺では、子どもたちを対象に毎週月曜日から金曜日まで坐禅体験や環境教育、生け花などの日本文化を伝える活動や、年配の方を対象とした坐禅体験などの活動を行っています。日曜日には一般の方を対象に坐禅を行い、仏教の教えを説いたり、お寺の山内各所を案内したりしています。そして、年に5回ほど摂心を行い、禅光寺で80人ほどの人が3~5日間共に生活をします。また、エスピリトサント州に住んでいる人のために参禅会という2日間の坐禅体験も行っています。上記以外にも、全国や世界各国から様々なグループ(教員、経営者、警察官、空手、柔道、ヨガなど)が禅光寺を訪れます。どの活動においても仏教や禅、坐禅、法要、行事について丁寧に伝えています。
さらに、丹羽禅師公園では、先述しましたが、地域の女性たちのための社会貢献活動として「観世音陶芸学校(Escola Oficina de Ceramica Kanzeon)」を運営しています。禅光寺の周りに住む女性たちは、収入が低かったり仕事がなかったりと、生活が苦しい方も多いため、日本文化である陶芸を学ぶ機会を提供し、技術と仕事を提供しています。
また、丹羽禅師公園は Caminhos da Sabedoria という「巡礼の道」の一つとなっています。巡礼の道は日本の四国八十八箇所のお遍路から影響を受けました。イビラス市はキリスト教徒が多いため教会が多くあり、Caminhos da Sabedoria はそのコンテクストの中に生まれました。仏教(禅光寺)とキリスト教(教会)の対話の一つで大事なつながりになっています。毎年、世界各国から多くの巡礼者が訪れます。そして、異なる宗教の共存・相互理解のため、キリスト教のチャペルも新しく作りました。
今後の展望としては、現在行っている活動を継続し、さらに規模を大きくしていくこと、それに加え、新しい取り組みとして大仏の中に美術館を作り、新しいデジタルテクノロジーを使って仏教と禅宗の歴史や禅光寺について等を展示する予定です。
また、大仏の裏に州や市と連携して環境整備された自然溢れる大きな公園も作る計画を立てています。現在、丹羽禅師公園にはレストランがありますが、より多くの観光客に訪れてもらうために、日本をコンセプトにした喫茶店を作る予定です。それだけではなく、陶芸学校のような社会支援、地域活性化のために新しく「竹」の学校を作るプロジェクトも動いています。このような社会的活動を続け、発展させていき、これからもお寺と周りの地域が長く安定していける環境づくりに努めていきたいです。
最後に、日本国とその各市区町村とのつながりを強めていきたいです。今回、宮崎県綾町が雛山の展示のために禅光寺まで来てくださったように、日本文化を広める機会を積極的に取り入れ、関係性を強める活動をしてきたいです。イビラス市の中で禅光寺は一番主要な観光名所であり、今後、街づくりの一環として日本の市区町村とのつながりを強化、牽引していき、姉妹都市のような関係づくりをしていきたいと考えております。
ブラジルではキリスト教徒が多いため、お寺という位置づけは檀信徒が多い日本と異なる環境にあります。禅宗の教えをブラジルや全世界に伝えることは簡単なことではありませんが、それぞれの文化の違いを理解し、お釈迦様や道元禅師の教えの本質を無くさずに、その国に適した方法で伝えることができるよう頑張ります。
今般の記念行事開催にあたり、ご尽力いただきました法縁の宗侶、檀信徒・参禅者各位、お心を寄せていただいている世界各国の皆さま、山内、関係各位に敬意を表しまして、衷心より拝謝申し上げます。
南アメリカの地に曹洞禅の教えが益々敷衍いたしますことを祈念申し上げ、記念行事のご報告に代えさせていただきます。
南アメリカ国際布教師 ビッチ研道 記