【International】ヨーロッパ研鑽②~不易流行を求め、修行の初心に戻った旅~後編

2024.09.24
禅リバーでの僧堂行鉢の様子 。浄人の数が少なくても済むように、配役を兼任するよう工夫されている。この日は粥が出されたが、日によってはオートミールやパンがメニューになることも。ヨーロッパでは、このように単が設置されている僧堂は珍しい。

少し話題はそれますが、僧籍の期限切れ、認可僧堂の設置への期待についても考えさせられました。朝の坐禅や摂心に参加し、得度をした後もずっと参禅は続けているけれど、立身未了のために除籍になった(法戦式を行う目処が立たないため、僧籍が無いままでも構わないと思っている)方々と複数出会いました。僧籍の有無にかかわらず、菩提心を発揮していくことこそが大切なことだ、という意見ももっともだと思いましたが、お寺同士のネットワークからも離れていっているように見え、少し寂しさも感じました。日本よりもお寺の数もずっと少なく、法戦式を行う機会も少ない現状に対処する方法がないのだろうかと思いました。

また、ヨーロッパでの認可僧堂の設置を待望する声も複数聞きました。「日本での修行は素晴らしい機会だが、文化的な背景の違いもあり、費用の面でも難しいので、ヨーロッパで認可僧堂があると嬉しい。近年は、ヨーロッパでも多くの禅僧が育っていることもあり、ヨーロッパでの認可僧堂の運営について〝we are ready”(私たちは準備ができている)」と仰っていました。

禅堂尼苑の朝課の様子。絨緞が敷かれた巨大なログハウスのような建物。坐禅と予修法要もここで行われた。

世界の人々が禅を熱心に学んでいる一方で、ヨーロッパでも日本でも、〝Zen is dying in Japan(日本では禅は死につつある)”という声に出会うことがあります。私自身も、ヨーロッパへ研鑽に行く前は、もしかすると 檀家制度に頼らず、坐禅を重んじるヨーロッパの方が理想的な修行環境があるのかもしれないと思っていました。

しかし、研鑽に行ってみて日本には日本の、ヨーロッパにはヨーロッパの(それぞれの国にそれぞれの国の)優れたところもあれば課題もあるのだと考えるようになりました。それぞれの国の人が、「私の国は、こういうところがダメだ。それに比べて日本は○○で素晴らしい」というのを聞きました。私が日本について不足を感じるときがあるのと変わらないのだと思いました。どこにいても、修行は自分自身についてであるということをもう一度反省しました。

ドイツ寂光寺。夜は灯りが池に反射して幻想的な雰囲気になる。

また、ヨーロッパの禅は、まだ新しく、それは、若木のようなものだと思います。どの葉っぱを見ても、どの幹を見ても生き生きと輝いているように見えます。日本の禅は、それに対して年輪を重ねた偉大な大木のようです。その威厳や奥深さ、力強さは、若木とは比べものになりません。しかし、細かく見ると、中には、元気のない葉っぱや、幹が空洞になっているところもあるでしょう。しかし、それこそが歴史の長さを表すものとも言えます。

日本の禅は死につつあるわけではない、脈々と受け継がれているのだと、今の私ならこのように堂々と答えるでしょう。ヨーロッパを見ることができたからこそ、その確信ができたのだと思います。

どのお寺でも感じたことは、修行とは「いまここ」で、自分の心身をかけて、目の前のことを精一杯にするものであるということでした。そこには、ヨーロッパも日本も、在家も出家も、男女も関係ありませんでした。その初心に戻れたことが、今回のヨーロッパ研鑽で一番の収穫であったかもしれません。ヨーロッパにも他の世界の各地にも、禅のネットワークができることは、地球規模に善友なサンガが広がっていくことです。それはとてもワクワクすることで、日本の禅にもさらなる活気を与えていくだろうと思いました。

この度のヨーロッパでの研鑽は、徳と恩と優しさの循環を感じさせられた旅でもありました。各寺院では、みなさまに大変お世話になり、また、親切にしていただきました。空港までの送迎をしてくださったり、近くの禅堂や街を案内してくださったり、分からないことを丁寧に教えてくださったり、みなさまの優しさに支えられた研鑽でした。

こうして温かく迎え入れていただけるのは、これまでヨーロッパに禅を伝えて下さった方々のご人徳、また、洞松寺専門僧堂堂長鈴木老師のご人徳、曹洞宗のこれまでの国内外での布教の尽力によるものであると思います。みなさまから受けた優しさを、私も何かの形で受け渡していきたいと思いました。 最後に、受け入れてくださった欧州ご寺院さま、研鑽の機会を与えてくださり、また多くのサポートをしてくださった曹洞宗宗務庁の方々、洞松寺専門僧堂の堂長老師、役寮さま、いつも温かく見守ってくれている家族、お世話になったすべての方々に心から感謝の意を表します。

 

秋田県14番東光寺 同籍 堂島典明 記