【人権フォーラム】丸子孝仁さんインタビュー「聞くこと。寄り添うこと。ともに頑張る人になること。」

2024.09.09

人権擁護推進本部では、この度「人権フォーラム」で、人権擁護活動に取り組む宗門僧侶の方々へのインタビュー記事を掲載することを企画いたしました。

宗門で行われる人権学習会では、一つの問題をテーマとして選び、焦点を当てて学ぶことが多くありますが、人権に関する問題は複数の原因が影響し合うことで生じるものです。またテーマを絞った研修には、受講者が学びやすいというメリットはありますが、差別が生じる複合的な要因を見逃しやすいというデメリットも存在しています。

そこでこの企画では、人権問題そのものではなく、取り組む過程で広がった知見などを中心にお話しいただき、どのような経緯で人権問題に関心を抱いたのか、どのような姿勢で学ばれているのかをうかがいすることといたしました。

今回は、曹洞宗人権教育啓発相談員をお務めいただいている丸子孝仁さんです。様々な団体の要職を務め、多様な人権問題に関わる、その熱意の源泉を探ります。        

人権擁護推進本部 記

プロフィール
丸子孝仁:三輪山平等寺住職/空手道MAC奈良・研修道場代表/エネルギーのいまを考える会代表/ハッキョ支援ネットワーク・なら事務局長/先住民族アイヌのいまを考える会事務局/自殺防止ネットワーク風相談員/保護司

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○加害者ではなく、環境こそ憎むべき

 人権問題に取り組むきっかけは、ご自身が受けた〝いじめ〟だったそうですね。
丸子:大学を卒業して入ったあるお寺の修行道場でのことでした。修行中に怪我をしてしまい、他の修行僧と同じ様に動けないことで、先輩から徹底的にいじめを受けたんです。

私は思い詰めてしまって、暴力で解決することを考えてしまった夜に、もう僧侶になるのは諦めようとそこから離れました。

― そこまで思い詰めてらしたんですね。そこからもう一度仏道へ?

丸子:辞めてしばらく別の仕事をしていたんです。修行中にお世話になった老師から、あたたかな長文のお手紙をいただいて、老師が福井県大野市の宝慶寺で、堂長をお務めになることを知りました。この方の元でなら、もう一度修行ができるかもしれないと思い得たんです。

丸子孝仁師

― 気にかけてくれる恩師がいらしたんですね。

丸子:修行しはじめて1年くらい経った頃、その老師が「君をいじめた人と一緒に三千仏礼拝行をする気はないか?」と提案してくれたんです。1日1000回、仏さまの名前をお唱えし、礼拝をする。これを3日間に渡って行う非常に厳しい行でした。これをともに修行する皆さんと、私と、いじめた方と行うことになったんです。

― いじめた方と一緒に修行するのって、怖くもありますよね。

丸子:はい。修行は非常に過酷で、初日から立てないくらいの筋肉痛になりましてね。ふと横をみると、そのいじめていた方も同じように立てなくなっているわけです。いじめられた側は、どれほど言葉で謝られても、許せないものです。少なくとも私はそうでした。ですが、ともに修行をする彼の姿を見ているうちに、自然と受け入れることができた。とても不思議な体験でした。
3日間やり抜いた最後に「すまなかった」と謝られたときには、素直に受け入れられて、きちんと仲直りができたんです。

― 理不尽ないじめを、許し合えるなんて、非常に貴重な体験ですね。

丸子:あらためて、話を聞いてみると彼も私と同じような目にあっていたこともわかりました。「罪を憎んで人を憎まず」という言葉どおりで、憎むべきは問題が起きる環境だと気づきました。そういった環境こそを、追及するべきだと思い、人権問題に取り組むようになりました。

○人権侵害はいのちに関わる問題だ

― 人権問題とはどのようなものとお考えですか?

丸子:人が安心して暮らせない状況に置かれているのは、すべて人権的な問題だと思っています。たった一人でも安心できなかったり、嫌な思いをしていたら、何らかの差別や人権にまつわる問題があると考えています。

― 人権問題に積極的に関わられるのはなぜなんですか?

丸子:人権侵害は〝いのちに関わる問題”だからです。

― それほど切実な問題と捉えてらっしゃるんですね。

丸子:〝いのちの問題である”と、認識が薄い方も多いでしょう。それは当事者から直接お話をお聞きする機会が少ないからだと思うんです。研修会をはじめ、当事者のお話をお聞きする場はあっても、自ら足を運ぶ方は少ないと思います。

― 様々な人権問題を学ばれていますが、やはりそういう場に足を運ばれているんですか?

丸子:「差別をなくす奈良県宗教者連帯会議」という宗教・宗派を超えて宗教者が差別をなくすために取り組む会があります。元々は、同和問題(部落差別問題)を学ぶ組織でしたが、現在ではありとあらゆる差別問題を学び、その解消のため取り組む会です。その事務局長を7年間務めたことが、様々な問題に関わっていくきっかけになりました。通常任期は2年なのですが、なかなか後継が見つからず、7年も務めることになりまして(笑)

― (笑)

丸子:その長い在任期間に、研修会の企画・打ち合わせで全国をおうかがいし、当事者の方々に直接お会いして生の話を聞かせていただきました。

何か自分にもできることがあるのではないかと、手伝う中で、ご縁もあり活動の幅が広まりました。

○教団と宗門人が人権問題に取り組む意義

― 宗教者が社会的な問題を解決する意義をどのようにお考えですか?

丸子:お釈迦さまの言葉の根本は慈悲・慈愛だと捉えています。ですから、お釈迦さまの教えと、人権問題を解決する取り組みは、ひとつのものだと思っています。悟りとは「無分別智」と言われます。「あらゆる物事を分け隔てせず、ありとあらゆる物事を自分と一つの如くに見る」ことです。ですから、区別や差別があるのなら、それはなぜなのか、何が原因なのか、一人の仏教徒としても見つめるべきことですよね。

― 教団が人権問題に取り組む意義はいかがでしょう?

丸子:曹洞宗宗務庁に人権擁護推進本部が設立されて、教団全体として40年以上取組みを続けてきていますが、現在もなお差別的な発言や行動は、依然としてなくなってはいない。今こそ、はるか昔の他人事ではなく、すべての宗教者が自分ごととして人権問題に向き合うことが必要だと思います。そうでないと、いつまで経っても、同じことを繰り返してしまいますから。

― 人権問題に取り組むといっても、具体的にどうしたらいいのでしょうか?

丸子:苦しみの現場に入っていくことではないでしょうか。被害者は、どういったことに苦しみを感じているのか、直に受け止めないとわからないことばかりですから。もちろん、書籍やインターネットなどで情報として学ぶことも大事ですが、今まさに苦しんでいる方にお話をお聞きするといいと思いますね。

― 苦しみの現場……なかなかそういう場に出会えないようにも思います。

丸子:宗教者であれば、特別なことをせずとも、苦しみの現場はとても多いはずですよ。例えば、葬儀などはまさに目の前に苦しんでいる方がいらっしゃるわけです。

― 確かに。

丸子:現在は通夜や通夜説法の時間を取らない宗教者も多くいます。私自身は、この機会を大事にしています。忙しいと、本当に大変なこともありますが、通夜や説法の時間をきちんと取る、そういう宗教者の日常の中から態度を改めて行くことで、私たちはより多くの苦しみに寄り添えるはずだと思うんです。

― 日常をあたらめてこそ、人権問題に取り組む前提ができるということですね。

丸子:本気でご遺族の悲しみを理解し、寄り添おうと思えば、生前から声をかけたり互いを理解することがより大事になってきますよね。日常的な自分自身の態度からきちんと見直し、周囲の声を聞き、寄り添う。基本的なことをきちんと見つめ直すことこそ、人権問題に取り組む一歩と言えるのではないでしょうか。

― 日常的な行動も、決して人権問題と関係ないわけではない、ということですね。

丸子:差別の問題は、人の内面に深く関わるものですから、初対面の方が苦しい胸の内を吐露してくれることはありません。コミュニケーションを積み重ね、少しずつ少しずつ、心が開いてきて信頼されてようやく打ち明けてくれるんです。そこでようやく、私たちが苦しみをしっかりと聞き、受け止められるわけです。

― 心を打ち明けていただくためにも、日々のコミュニケーションを大切にすべきですね。

丸子:苦しみの現場とはいえ、その過程でお酒を飲み交わしたり、仲間ができたりと楽しいこともあります。ただ、人権問題は、どこまで行っても明るく楽しいものではなく、根底にはとてもデリケートな問題がある。だからこそ、繊細に日々の対話を通して信頼を少しずつ積み重ねることが大事です。

○ひたすらに聞くことで、ともに頑張る人になる

― 人権問題に取り組む際に気をつけている心構えはありますか?

丸子:簡単な問題は一つもないということですね。「人権問題」と括らず、一つひとつが様々な複合的に絡み合った多種多様な個別の問題であることを忘れない様にしています。聞いてすぐに解決できるなら、とっくに解決しているはずですからね。

― 確かにそうですよね。

丸子:あとは、ただひたすらに聞くことを大切にしています。聞き続けることで、もつれにもつれた糸が一本一本解けることも多くあるんですよ。

 ― 聞くだけでいいんですか?

丸子:聞き続けることで、どこか遠くから導く人ではなく、苦しんでいる方と、ともに頑張る人にはなれるんです。

例え、答えが見えなくとも、ともに取り組んだ先に明るい楽しい世界が待ってると信じられるんですよ。

― あぁ。具体的な解決だけでなく、取り組みそのものが解決への道かもしれないと。

丸子:そうです。仏教に引き寄せてお話しすると、私は悟りを開くために仏教を学んでいるわけではないんです。たとえ悟れずとも、それでもなお悟りに向かって修行を行うこと、翻ってそれが悟りだといえるのではないかとも思っています。

― 私たちは、人権問題に対して何か具体的なアクションはできますか?

丸子:インターネットの普及で、誰もが世界に発信できる様になった一方、やはり少数の意見は依然目につきにくい。

ですから各々が学んだこと・感じたことを自分の言葉で発信していくことが大事だと思います。ただ、そのときに「いいね」が欲しいからとか、承認の思いではなく心から思うことを発信するのが大事だと、自分自身も思っています。

― きちんと思いを乗せた発信こそが大事なんですね。

丸子:その勇気は、波紋のように世界を少しずつ良く変えると信じています。

人権を学ぶ推薦図書―①
『待宵の水平社宣言』 駒井忠之著/解放出版社
本書は、人間の尊厳と平等、部落解放の実現を求めて運動を展開した全国水平社の理念や思想、その世界観を読み解く一冊。水平社宣言の結びの句「人の世に熱あれ、人間に光あれ」は、丸子さんにとって、とても大事な言葉だそうだ。

人権擁護推進本部 記