【人権フォーラム】令和5年度第2回人権擁護推進主事研修会報告

2024.06.19

2023年3月14日から15日にかけ、人権擁護推進主事研修会が行われました。

人権擁護推進主事研修会 班別会

不当な差別的取り扱いの解消には当事者意識を持つことが大切だと言われます。しかし、身近に触れたことのない人権問題について、被害に遭っている当事者感情も含めて理解することはとても難しいとも言われています。この難点を解決する一つの方法として、一個人の経験を通して理解しようとする手法があります。

例えば、「仏教」を書籍や経典から
学ぶこともあれば、仏教に帰依する人の生き方から学ぶこともあります。どちらにも一長一短がありますが、どうして文字を残したのか、何があって帰依したのか、一個人としての仏教への向きあい方を感じ取れるようになると、仏教そのものへの解像度がさらに上がることがあります。

そこで研修会では、現在進行形で部落差別問題に向きあう講師の方々に、ご自身の経験を通して、当事者としてどのように差別と向きあっているのかについてお話しいただきました。

また、今年度に全寺院配付を行った『基礎テキスト「人権」』と、教区人権学習のテーマである「人権と災害」について、自分自身の問題として向きあうための講座を人権教育啓発相談員のお二人にお願いいたしました。

今回の人権フォーラムには、研修会に参加した人権擁護推進主事の参加報告をご寄稿いただいております。

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栃木県宗務所人権擁護推進主事 倉澤文尭師

今回の研修会は前回と異なりフィールドワークはなく、座学が中心でした。講義後には必ず班別会があり、全国から集まる66名の人権主事が互いに意見を交わし合いました。私たちの班でも活発な意見会となり学び多い研修となりました。

研修内容には衝撃的な言葉や表現も多くありました。初日に拝見したドキュメンタリー映画「私のはなし 部落のはなし」(https://buraku-hanashi.jp/)の中で、被差別部落の近くに住む女性が出演されていました。この女性はお子さまのいる60代の女性です。また日常で被差別部落の方と接し、差別がいけないことと理解している女性です。しかし、自身の結婚の際は相手の出自を調べ、お子さまが結婚する際にも必ず相手の出自を調べるとおっしゃっていました。インタビュアーとして監督が「なぜ差別を理解しているのに、そうするのか」と理由を尋ねたとき、女性は「なんでしょう、やっぱり血でしょうね」と一言答えました。この一言に私は考えていた以上に部落差別の根深さと陰湿さを感じ、胸のふさがる思いがしました。

また、松村元樹常務理事(反差別人権研究所みえ)の講義では部落差別の苦しみから自死を選択した方の遺書が紹介されました。本来受ける必要のない差別により、苦しみ抜いた挙句、死を選択した方の最期の言葉です。そこには「死をもって差別に抗議する」と記されていました。この言葉は差別してきた人に向けられた言葉でしょうか。私は、社会全体に向けた言葉のように感じました。

その他、久保井賢丈相談員、久間泰弘相談員、高橋典男事務局長(NPO法人人権センターながの)による講義もあり、多くのことを学ばせていただきました。

今回は部落差別の根深さを特に感じた研修でした。差別問題について知れば知るほど、学べば学ぶほど、つい「差別はなくならない」と言葉に出してしまいそうになります。

しかし「死をもって差別に抗議する」という言葉を胸に、差別はなくなる、差別をなくすという理想を言葉にしながら、僧侶としてお釈迦さまの教えに沿った差別解消の活動を続けていきたいと思います。

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熊本県第一宗務所人権擁護推進主事 本田裕樹師

これまで私が参加した人権擁護推進主事研修会は、一度は東京グランドホテルにおける座学、もう一度は現地に赴いてのフィールドワークと進んでまいりました。人権擁護推進主事の任を拝命しまして1年が過ぎ、今回で3回目の研修会となりました。

今回の研修会は東京グランドホテルで行われましたが、研修会に先立ちまして満若勇咲監督の『私のはなし 部落のはなし』が上映されました。この映画は社会が抱える部落差別問題を真正面からとらえ、その問題の中で生きる人々をありのままに映し出していました。今もなおそこに存在する差別を目の当たりにすることができ、差別に対する思いを再確認させていただきました。

講義では、映画にも出演されている松村元樹講師からご自身が受けられた差別をお話しいただきました。私より少し年上か同世代くらいだと思いますが、年齢のあまり変わらない方が受けた結婚差別にこれまでにない程の衝撃を受けました。今もなお部落差別が存在することは、今まで受けてきた現職研修等における人権学習を通して聞いていました。差別を身近なものと考えることができていない私の中に「昔のはなし」としての認識がありました。自分の中にある差別意識に気付かせていただきました。

2日目にご講義いただきました高橋典男講師からは、ご自身がまだ幼かった頃のお話を家庭環境を踏まえたうえでご講義いただきました。ここでは細かい家庭環境については触れませんが、一口に部落と言っても様々な環境や事情が重なりあい存在すること、その家その家の一人一人がそれぞれに考え方が違うこと、決して単純ではないということ、そしてその環境や事情を理解し受け入れることの大切さ、そのままありのままで良いことを教えていただきました。

少し偉そうな言い方になって恐縮ですが、研修会に参加させていただいて見る側、聞く側に本当に良く配慮がなされています。どの講義も映画も伝わりやすく毎回気付きや再認識、反省があります。しかしながら映画に出演されている方、講師の先生方にしてみれば、ご自身で体験された言葉に表せない程の辛い体験を、言葉にしてお話しいただいているのだと思います。誰もが経験したことがあると思いますが、自分の身に起きた辛い体験を話すということは、そのときのことを思い出さなければいけません。それは本当に辛いことです。それでも私たちに伝えてくれていること、心の奥底からの叫びなのだと思います。そのことを一人の僧籍のある者として受け入れ考え続けなければいけないのだと感じました。

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次回、令和6年度第1回人権擁護推進主事研修会は、9月11日~13日を予定しています。

人権擁護推進本部 記