【International】南アメリカ国際布教総監部管内梅花流特派巡回講習を終えて
はじめに、曹洞宗南アメリカ国際布教120年を寿ぎ、今日に至る先人の努力に深く敬意を表します。
令和5(2023)年6月20日18時、24時間のフライトの末、私はブラジルサンパウロ・グアリューリョス国際空港に定刻1時間遅れで到着、夜分にも関わらず往復2時間の道のりを光栄至極にも清野暢邦南アメリカ国際布教総監自らのお出迎えをいただき、感激に満ちて南アメリカ国際布教総監部管内梅花流特派巡回講習が始まりました。南半球は初冬とはいえ通年21〜28度、湿度も低く標高約800メートルの温暖湿潤気候帯は、日本の梅雨を一瞬に忘却せしめました。
顧みれば、この度の渡伯は、令和3(2021)年5月、田原良樹南アメリカ国際布教総監部書記からの1通のメールに端を発します。それは南米―日本間でのオンライン梅花流講習会のご依頼でした。コロナ禍の方策としてオンライン講習は実に有効な手段であり、ポルトガル語通訳のマルシアさんを介して毎月1回1時間、対象は南アメリカ国際布教総監部管内寺院に関わる檀信徒と宗門人、ZOOMとフェイスブックを媒体に、教典はローマナイズされた梅花譜付き横書きのもの、田原書記により画面切り替えや、お唱え中のカーソルコントロール等をしていただく形で、ほとんどの視聴者が法具の持ち合わせはない中、お唱えと歌詞解説を中心に進めさせていただいておりました。ご縁をいただいたオンライン講習会は私自身の学びであり、地球上最遠隔地との求道の交流は法悦のひとときでもありました。
1年を経過した頃、特派師範として渡伯の案が持ち揚がり、快諾をしたものの新型コロナウイルスの壁に阻まれ、実現は1年送りの本年となりました。かくして実現した南アメリカ国際布教総監部管内への梅花流特派講師派遣は2019年以来4年ぶりとなりました。
詠道課より託された全国から集められた中古の梅花法具の譲渡式を行い、清野総監にお受け取りいただき、はじめの任務を完了しました。今回の巡回は5教場7講習で、すべて田原書記から道中ご案内をいただき、そのほとんどが飛行機による移動でした。
講習会に臨まれた方は、日系ブラジル人として世代を数える檀信徒、日系非日系を問わぬ参禅者、そして宗侶の皆さま、また、大学の学生さんや教授の皆さまという教場での1コマもありました。従来の特派講習会と大きく相違した点は、予め2年間のオンライン講習で交流があったため、自己紹介に時間を費やす必要もなく双方親しく即座に講習ができたことでしょうか。講習内容は「三宝御和讃」をはじめ瑩山禅師700回忌を迎えるにあたっての「太祖瑩山禅師影向御和讃」と梅花流の可能性を模索する2部合唱の実践、または、教場の御本尊に合わせ「観世音菩薩御和讃」「地蔵菩薩御和讃」等をお唱えいたしました。併せて、「相承」として「梅花流詠讃歌を通して正しい信仰に生きる」をテーマに、曹洞宗宗旨の只管打坐と即心是仏の確認、四諦八正道、大乗の六波羅蜜、三学との関連、さらには梅花流勤行式にそれらすべてが含まれること等を講習させていただきました。
南米における梅花流の現況は、二世三世の日系の方々が熱心に学び続ける檀信徒コミュニティの1つであり、法要供養の重要な要素となっています。しかし、日本同様に高齢化も否めません。対してロジカルな仏法の体現を熱望する若い参禅者たちも看過できません。彼らは、梅花流詠讃歌講習会を通して仏法を学び捉えようとしております。また、この度梅花流教典並びに法具10組の譲渡が叶ったパラグアイ拓恩寺さまでは新講設立と講員登録をご検討くださることとなり、梅花流特派講習会の目的の1つを達成できました。
私の考察した南米の課題を挙げるならば、先ずは在住梅花流三級以上師範の養成です。他にも新講設置や講員登録の明確化、特に現在検定会の実施は上記師範不在の為不可能である点が挙げられます。ひとたび日本における寺院検定、あるいは宗務所検定会の形が南米で実現すれば、大いなる発展が期待できるのではないでしょうか。
近年は、皮肉にも新型コロナウイルスの存在が後押しとなり、かつての最遠隔地という最大の障壁は、インターネット上で瓦解したと言っても過言ではありません。このシステムを活かさない法はなく、これをもって師範対象オンライン講習のさらなる充実や、加えてオンラインでの検定会も可能となれば、南米における梅花流師範の養成と拡充を図ることに繋がると感じました。
また、現地講習で気付かされたことは、南米は日本と違い、ほとんどの学校が音楽教育を学科に取り入れておらず、畢竟、詠讃歌の習得のほとんどは耳からのもので、せっかくの梅花譜が模様にとどまっているのです。梅花譜という縦横斜めの7つのベクトルを正しく見て、正しく思惟し、正しく唱え、正しく所作につなげる過程は正しく釈尊の示された八正道の実践であり、佛法のすぐれたトレーニングそのものと感得しております。梅花譜を考案された先駆者に稽首するばかりであります。これを踏まえても的確な現地指導者の養成が必須と感じました。
すべての講習会を終えて、清野総監はじめ田原書記のご意見ご要望をうかがう機会として総監部にて総括協議会を開かせていただきました。総監部としては檀信徒の要望も含め、次のように篤望されていました。
一、梅花流の中に佛法(ダルマ)を説く講師の派遣
人生の救いとしての佛法を求める受講者が多数であること
二、ポルトガル語訳詠讃歌へのご理解とご協力
世代を重ねるに連れて日本語の歌詞が難解になって来ているため、すでに翻訳済の「三宝御和讃」に加え、他のお唱えも徐々に増やして行きたい
三、中古の梅花法具または佛具の寄贈
日本で生産される製品なので入手が困難
結びに
滞泊中、何れの会場においても過分なる厚い歓迎を受けました。そして、清野総監はじめ田原書記、佛心寺のスタッフの皆さま、参禅会会員の皆さまからは大変にお世話になりました。誌面をお借りして心より感謝申し上げます。
この度の道程で出会ったすべての方々から大乗佛教そして禅という普遍的な香りが漂い、三世の諸佛との出会いを深く感じました。それは禅宗を佛心宗と称した両大本山南米別院佛心寺御開山髙階瓏仙禅師さまが南米移民の方々の要望にお応えになり、熱烈にご巡錫され、さらには受け継がれた歴代の総監と檀信徒が1つとなった法灯でありました。まさしくその法灯の一人ひとりの一歩一歩が「相承」であることを深く噛み締めた巡回でありました。
梅花流特派師範 新潟県西明寺 住職 佐藤道春