【人権フォーラム】基礎テキスト『人権』発刊について
はじめに
2023年3月、人権学習資料として『基礎テキスト「人権」』(以下、基礎テキスト)を発刊いたしました。このテキストは、僧堂や寺族研修などを初めて受講する方を想定し、これまで曹洞宗が作成してきた資料を集約した内容となっています。
曹洞宗では人権学習の資料として『曹洞宗人権学習基礎テキスト これだけは知っておきたいQ&A』(以下、Q&A)を中心に、映像資料などを含めた多くの資料を作成してきました。しかしながら、曹洞宗の人権に関する取り組みは多岐に渡っており、その資料も多く、どこから学習を始めてよいのか分かりにくいというご指摘をいただいておりました。そのため、本年度から施行される曹洞宗人権擁護推進本部運営規定一部変更案に合わせ、改めて基礎テキストを発刊させていただくこととなりました。
作成経緯
基礎テキストは、Q&Aの改訂委員会を設置するところから始まりました。Q&Aは、様々な人権問題や、曹洞宗の教学に関わる問題、教団全体の問題とすべき差別事件を学ぶテキストとして使用されています。「これだけは知っておきたい」と題されているように、初学者のテキストとしても使用されていますが、応用的な諸問題も含んでいるため、全ての章が初学者向けというわけではありませんでした。この点は、限られた学習時間しかない場合に問題となります。特に、最短半年間で送行してしまう掛塔僧については、住職などの役職に就かない場合、僧堂での学習以外に宗門の人権問題を学ぶ機会がほとんどありません。
学習機会の提供はこれからの課題ではありますが、まずは、教師資格を得ることができる半年間の僧堂安居において、せめて基礎的な部分だけは理解していただきたいという思いから基礎テキスト作成が始まりました。
テキストの内容について
まず、本テキストの性格上、Q&Aから大幅に内容を限定していることをご容赦ください。詳細は基礎テキスト8頁『はじめに〈本テキストを使用した学習にあたって〉』をご覧くださいますようお願いいたします。
第一章では、偏見・差別から生じる現代社会にある生きづらさを俯瞰しつつ、先行きが見えない人間の生きづらさに対し、釈尊がどのような態度で望まれたのかを学ぶところから始まります。第二章では現代の基本的人権についての考え方を確認します。これは中学社会科の公民や高校公民科の新科目「公共」の教科書を参考に作成いたしました。
第三・四章では部落差別解消への取り組みと教団として犯した差別事象について学びます。
日本における差別解消への取り組みは、その始まりの多くを部落差別解消運動に求めることができます。特に基本的人権にもとづく取り組みは、障害者や感染症患者への差別、国籍や民族に対する差別、ジェンダー観に基づく差別などの解消運動に様々な影響を与えています。
また差別の当事者による「水平社宣言」は、差別を被った方々が自ら発信した世界初の人権宣言ともいわれます。それらを学んだ上で、曹洞宗における差別戒名・差別図書の問題を学びます。
第五章では、寺院の情報管理を主題としました。従来は「過去帳の管理」として取り扱われることの多いテーマでしたが、寺院が取り扱う情報全般を主題としています。このことについては情報管理の責任が住職(代表役員)にあるため、僧堂で学ぶ必要があるのかという疑問もありました。しかし、刑法の定める秘密漏示については医師、弁護士等と並んで宗教者を対象に罰則を定めているという事実を重く受けとめ、基礎テキストに採用いたしました。ここでも初学者向けに「過去帳とは」といった基本的な部分の説明は省かずに紙幅を割いています。
最後に、第六章では曹洞宗が教団として人権問題に取り組む契機となった差別発言事件を取り上げております。基礎テキストの第一章から学んできたことを踏まえ、第三回世界宗教者平和会議での発言が「なぜ差別発言なのか」を考え、個々人が答えを出すための一助としていただきたいと思っております。
この新しいテキストは、2024年度に全寺院への配布を予定しており、教区人権学習をはじめとした、様々な学習にもお使いいただくこととなります。そのため、現在人権擁護推進本部では、人権教育啓発相談員を中心として、基礎テキストを補完するための資料作成を行い、より効果的な学習のための準備を行っております。お手元に届くまで今しばらくのお時間をいただきますが、何卒ご了承いただきますようお願いいたします。
人権擁護推進本部 記