梅花流詠讃歌【諸行無常のひびき】⑥

2023.06.05

教えのままにしたがいて
戒法まもりゆく道の
そこに仏の命あり
怠るなかれもろびとよ

大聖釈迦如来涅槃御和讃だいしょうしゃかにょらいねはんごわさん」の三番の歌詞です。ここで言う「教え」とは、お釈迦さまの戒法です。戒法を守り、怠りのない日暮らしを送ることは、お釈迦さまと共に在り続けるということにもなりましょう。

世は無常なり
会うものは必ず離るることあり
憂悩を懐くこと勿れ︑世相是の如し
当に勤めて精進して早く解脱を求め智慧ちえの明を以って
諸の癡暗ちあんを滅すべし

お釈迦さまの遺言と言われる『遺教経ゆいきょうぎょう』の一節ですが、前出の歌詞と共通するところがあり、無常の世の中において、今を生き抜く修行の尊さが示されています。

「今を一生懸命生きてゆこう」と言いますが、本当にそうなのでしょうか。もちろん誤りではありませんが、むしろ「今しか頑張れない」と言ったほうが正しいのかも知れません。

「過去」を教訓にし、「未来」に希望を持つことの大切さを耳にすることがあります。でも、過去や未来は本当に存在するのでしょうか。過去は時間の塊となってたちまち遠ざかってゆきます。今この瞬間でさえ、過去という時間の塊の中に吸収されてしまいます。「思い出があるじゃないか」と言う人もいますが、その思い出に浸れるのも「今」しかありません。未来はつかみどころのないあやふやな世界です。交通事故に遭遇して命を落としてしまうことだってありますし、豊かな未来を思い望んでも、実現できるとは限りません。

目標をもって生きるのは大切ですが、目標を達成するために、今を頑張ることこそが一番大事なのかも知れません。

秋田県禅林寺住職 山中律雄