【International】北アメリカ国際布教師4年半の赴任を終えて

2023.05.11

2018年10月、浅学非才の身を顧みず北アメリカ国際布教師として渡米してから約4年半、2023年3月に赴任を終え、素晴らしい経験と共に日本に帰国いたしました。今振り返ると、大変なことも多くありましたが、コロナ禍であったにもかかわらず自分の想像を遥かに超える素晴らしい経験となりました。この赴任中に学ばせていただきましたことを、ここにご報告いたします。

スタンフォード大学での参禅指導

赴任して、一番印象に残っていることは、現地の宗侶たちの禅に対する深い信頼と熱い思いです。特に、現地の人への布教が盛んな地域の国際布教師は、禅センターを立ち上げ、メンバーと信頼関係を築きながら運営しています。海外宗侶たちの姿は、禅に対する絶対的信頼を感じさせるものがあり、大きな気迫と情熱を感じました。そういった方々と共に過ごすことができたことは、私にとって学びであり、大きな財産となりました。

また、北アメリカにいる僧侶の半数近くは女性です。どの集まりにおいても女性は約半数、時には過半数を超える参加があり、理事会や総会といった会議などでも積極的に発言し、携わっていました。日本の宗侶男女比は97:3です。尼僧である私でさえも日本では女性宗侶との関わりはほとんどありませんでした。しかし、私自身も、積極的に女性が参画している場に同席して初めて、社会における女性参画の重要性に気づくことができました。

曹洞宗国際センター役職員と筆者
(左から)ゴッドウィン建仁所長、筆者、伊藤大雅主事、西村全機書記

現在の曹洞宗国際センターの所長は、ヒューストン禅センター・祥雲寺の住持を務めるゴッドウィン建こん仁じん国際布教師です。3年間の曹洞宗総合研究センター教化研修部門研修部、2年間の曹洞宗宗務庁書記と、合計5年間曹洞宗の機関に在籍してきた私にとって、初めての女性指導者であり、上司でした。建仁所長は、いつも細やかに私に寄り添ってくださり、男性には話しにくいこと、理解を得られにくいことにも真摯に耳を傾けてくださいました。自分自身がそういった経験をすることによって、働く女性にとって、女性役職員の存在が如何に重要なものか気づかせていただきました。

日本の曹洞宗の現状は、女性宗侶の数が少なすぎて、女性活躍推進の具体案が進まないままになっているかと思いますが、まずは僧籍の有無にかかわらず話し合いの場に可能な限り女性の意見を取り入れてみるなど、柔軟性を持って、可能性の輪を広げていく取り組みがなされていくことを切に願っております。

昨年11月、北アメリカ国際布教100周年記念授戒会が、ロサンゼルスにある両大本山北米別院禅宗寺で行われました。この授戒会では、先進的な取り組みがいくつかなされました。1つ目は、戒弟を「出家」と「在家」の2とおりとした点です。これはアメリカ社会の性差に対する考え方を反映させており、本人の性自認を尊重する風潮が強いアメリカでは、本人が自分の性を「言いたくない」と言ったのであれば、それを尊重し「問わない」というのが基本姿勢となっています。

2つ目の取り組みは、子育て中の僧侶のために「託児所」を設け、子育て中の宗侶や、夫婦で僧侶としての活動をしている宗侶が安心して授戒会に参加できるよう配慮しました。私自身も2児の母であり、この託児所があったおかげで、子どもたちと長い期間離れることなく授戒会に参加することができました。

これからも、守るべき伝統は守りつつ、情勢・地域・要望に合わせて柔軟に対応していくことの合理性と豊かさを一人ひとりが考えていける曹洞宗であって欲しいと願っています。

北米国際布教100周年記念授戒会

この4年間半の中で、大変なことも多々ありましたが、振り返ってみると自分の人生の中で一番学びの多かった期間でもあったと実感しております。赴任から帰国に至るまで、私一人の力で成せたことは何一つなく、すべて有難い法縁によって紡がれた尊い期間と経験でありました。この赴任に際し、本当に多くの方々のご協力を賜りましたこと、心より感謝申し上げます。

自身の経験を深めていくことは、布教活動において何よりの強みとなります。ぜひ、これからの宗門を担う若い宗侶にも、積極的に海外に関心と関りを持ち、多くの経験をして欲しいと願っています。

長野県梅翁院 徒弟(前曹洞宗国際センター書記) 森香有