北アメリカ国際布教100周年連載企画~北アメリカ曹洞禅のこれまでの100年とこれからの100年~ 第13回北アメリカからグローバル禅コミュニティへ

2022.12.12

平成24(2012)年よりヒューストン禅センター・祥雲寺で国際布教師として布教教化に従事し、平成30(2018)年より曹洞宗国際センター所長の任を拝命しております、ゴッドウィン建仁と申します。今年で宗侶として32年目を迎えます。

筆者・ゴッドウィン建仁師

100年目という節目について

カリフォルニア州ロサンゼルス郡にある、北アメリカで最初に開かれた宗門の寺院の両大本山北米別院禅宗寺において、北アメリカ国際布教100周年の記念事業が今年と来年に跨ぎ厳修されます。

今からちょうど100年前の大正11(1922)年以降、禅宗寺や、サンフランシスコ市の桑港寺を拠点として、曹洞宗の教えを敷衍するべく、日本から指導者たちが渡米いたしました。

そうした指導者たちの機知に富んでいて力強い布教が実を結び、アメリカ合衆国全体、カナダ、メキシコ、中央アメリカ諸国に数百の曹洞宗寺院やグループが作られ、現代では300以上の団体に成長するまでになりました。

先日、当時の国際布教について見識を深めるため、静岡県焼津市の林叟院で行われた開創550年事業に出席し、住職である鈴木包一老師にお話をおうかがいしました。

鈴木老師は先師である鈴木俊隆老師が昭和34年に日本を離れ、林叟院に戻ることなく米国に留まったことが北アメリカにおける曹洞宗の発展に大きく寄与しているとおっしゃいました。当時、日本の僧侶が宗門的に未開の地である北アメリカに渡り、生活していくことは容易なことではなかったでしょう。

現代の北アメリカにおける曹洞禅の広がりの裏側には、これまでの100年間の間に日本から渡米した歴代の開教師・国際布教師と、その家族による多くの努力や苦労がありました。彼らの教え、恩恵を享受したことについて、私たち現地宗侶は深く感謝をしています。

アメリカにおける曹洞禅の確立、非日系人に対する教化

禅宗寺や桑港寺は、当初は日本人や日系人のコミュニティの寺院でしたが、昭和25(1950)年以降、日本人・日系人以外も禅の教えに関心を持つようになってきました。昭和34(1959)年に鈴木俊隆老師が桑港寺に着任すると、老師に惹かれて彼の下で禅を学びたいという、いわゆる現地の人たちが参禅するようになります。

タサハラ禅マウンテンセンター・禅心寺

その後、昭和41(1966)年、カリフォルニア州タサハラ禅マウンテンセンター・禅心寺を創立します。当時この禅センターで修行をする多くは非日系人の方々でした。そして昭和44(1969)年にはサンフランシスコ禅センター・発心寺を創設しました。

同様に前角博雄老師が昭和31(1956)年に禅宗寺に着任後、15年間布教活動をした後、昭和46(1971)年に禅センターオブロサンゼルス・仏真寺を創設しました。

この2名と関わりのあった当時の人々が開いた禅センターは、北アメリカで200ヵ寺にものぼります。 この2人の指導者の他にも、アメリカの国際布教の歴史の中で多くの重要な指導者が多く存在します。片桐大忍老師、乙川弘文老師、秋山洞禅老師、奥村正博老師等、いずれもアメリカにおける曹洞宗の歴史の上で重要な指導者です。

今現在も諸老師方の教えを学んだ数千人もの仏弟子が世界中の寺院や禅センターで参禅修行を行っています。そして、これまでたくさんの非日系の宗侶が日本の寺院や僧堂で修行を積んでいます。

多くの禅センターは坐禅や摂心を重んじる修行道場としての側面を持つ傍ら、家族やメンバー向けの行事を行うコミュニティ的な側面も持ち合わせています。また、曹洞宗に認可はされていないものの、僧堂的役割を果たす禅センターも存在しています。

曹洞宗国際センターの所長として、こうした北アメリカにおける曹洞禅の広がりについて日本でプレゼンをすると、多くの方々が驚かれます。それほど曹洞禅の広がりは大きなものであるのだと、我々海外の宗侶も認識しております。

ソートーゼンノースアメリカの発足

近年、北アメリカでは国際布教総監である秋葉玄吾老師が中心となり、北アメリカと日本の曹洞宗が行政的な面での繋がりを築いていく方法について検討してきました。現在、歴史的、文化面、法律などの背景から日本の曹洞宗の宗制と現地の現実に少なからず差異が生じてしまっています。この差異は日本とアメリカ、2国間における曹洞宗の異なる在り方や、寺院が担う役割の違いから生まれたもので必然的であると私は考えています。

総監部現地法人総会でソートーゼンノースアメリカについての協議

そうした差異から生まれる問題を解消するべく、総監部役職員や総監部現地法人理事が中心となり、非営利法人「ソートーゼンノースアメリカ(Soto Zen North America、仮称)」という北アメリカにおける曹洞禅系の法人の設立に取り組んでいます。

北アメリカならびに南アメリカにおける曹洞禅は力強く、目に見える形で成長をしており、今も継続的に曹洞宗寺院との交流を通して在り方を刷新し続けています。新型コロナウイルスのパンデミックの際には日本と諸外国の物理的な交流が難しかったですが、規制が緩和された今、互いに往来が可能になり、交流が以前のように回復しつつあるのが感じられます。

当該組織により、日本と北アメリカの曹洞禅の友好関係や参禅修行の繋がりが強化されることを望んでいます。世界中にある禅グループを行政的に認可する方法は、現在もまだ確定されておらず、過程の中にあります。日本の曹洞宗から北アメリカの修行の認可を受ける夢を実現すべく、多くの人が人生の長い年月を費やしてきました。

これまでの100の100年、そしてさらにその先に、日本と諸外国の曹洞禅が理想的な形で、ともに一佛両祖のみ教え、正伝の仏法が興隆できますことを切に願っております。

曹洞宗国際センター所長 ヒューストン禅センター・祥雲寺 ゴッドウィン建仁 記