【人権フォーラム】2022(令和4)年度 第1回 全国人権擁護推進主事研修会報告
全国人権擁護推進主事研修会が9月7日から8日にかけて宗務庁にて開催されました。新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、過去2年間は動画視聴によるオンライン研修会に変更となり、各自で学びを深めていただきました。今回は感染対策を徹底した上でオンライン併用とし、対面開催で行われました。まもなく任期をむかえる現在の人権権擁護推主事にとりましては、最後の全国主事研であり、対面での意見交換の場となりました。
1日目、最初に岩井秀弘人権擁護推進本部次長の挨拶、オリエンテーションに続き、2021年度第2回全国人権主事研修会全体会が行われました。全国主事研に先立ち、各管区で主事研分散会が行われ、各人権主事に共有した3本の動画を視聴しての意見交換・感想等を書記役の人権主事より発表していただきました。3本の動画のうち本年度映像資料「ここから~東日本大震災から10年~」佐藤明彦人権啓発相談員と映像資料制作に携わっていただきましたシナリオライター山上梨香氏の対談の動画についての感想等の一部をご紹介します。
「被災地の様々な想いを知ることができた。」
「向き合うことの大切さを知ることができた。」
「被災者の想い、寄り添うことについて感じることが大切。」
「最後の鬼生田宗務総長のコメントで、『光があれば影がある、明るいところだけ見ていては何も見えない。そして、平時と非常時は表裏一体である。』とのコメントに非常に得心するところがあった。」
「いまここから何ができるのか、具体的に考え実行していくことの必要性を感じた。」
と被災地の様々な想いを知り、向き合うこと、寄り添うことの大切さを感じられたという感想が発表されました。 また、最乗寺・増田友厚住職と総合研究センター・宇野全智研究員との対談「曹洞宗の教えとSDGsについて」、人権擁護推進本部より事務伝達の2本の動画についても各人権主事より様々な意見が発表され、最後に佐藤明彦人権啓発相談員によるまとめをいただきました。
次に人権擁護推進本部運営規程中一部変更案についての講習を行いました。
事務局からは、規定変更の公布日(全宗門寺院への正式な公示)が令和4年10月1日、また実際に規定に従って業務が開始される施行日が令和5年4月1日であることをお伝えしました。
少し実務的な話とはなりますが、今回の変更案では人権擁護推進委員会の所管が庶務課から人権本部に移管されています。『曹洞宗報』3月号別冊付録でお伝えしているとおり、本変更案は第137回通常宗議会ですでに承認されたものですが、その条文だけを読みますと施行日から委員会が新しくなると誤読されやすく、そのため新しく委員の任命手続きなどが必要だと思われる方もあったかと思われます。
実際は、次の宗務所長改選に伴う宗務所役職員の交替までは従前通りです(令和5年4月以降に、何らかの理由で委員の交替がある場合は人権本部までお知らせください)。また、規定の変更後に行う委員の任命に関する事務手続きも、基本的には従前通りにしていただければ問題ありません。しかしながら、これまで使用していた書式は変更となりますので、新しく発行される『事務処理の実際』の人権本部の項をご確認ください。不明な点があれば、お気軽に人権本部までお知らせください。
次に、人権本部の業務に関してお知らせしました。「宗門が一体として取り組むべき基本的人権の擁護及び部落差別をはじめとする不当な差別的取扱いの解消に資するため、人権教育及び人権啓発に係る必要な施策の推進を図る」ことに変更されることをお伝えしました。これまでの運営規程では「人権擁護活動」と「差別解消」という表現でしたが、変更案ではより具体的な表現となりました。また、1982(昭和57)年に人権本部が設立されてから、各国では様々な人権施策が行われてきました。それらが積み重ねられてきた中で、当初は単に人権啓発活動と呼ばれていたものが、人権教育と呼ばれる啓発活動とそれ以外の人権啓発活動に分かれてきております。
これは、差別を原因とする目に見える行為(暴力や搾取、不当な排除など)は法律などで対処できたとしても、差別を生み出す個々人の偏見や社会常識を改めていくには、教育という形で長期的で広範な取り組みが必要であると分かってきたからです。このような事情を勘案し、曹洞宗においても「人権教育及び人権啓発」という表現を採用しております。
その他の規定も含めて本変更案を作成した目的として、
① これまでの規程の主旨、定義の明確化
② 現状の日常業務に即した条文の変更と現代の状況(人権本部創設された約40年前と異なる国内外の人権環境)への対応
③ 人権擁護推進委員会関係条項を庶務課から人権擁護推進本部に移設し、人権主事の方々との連携を強化する
という3点であることを挙げ、変更案に新たに「章」を新設した全五章のうち第一、二、四、五章についての説明を行いました。
宗務所規定等に関わる第三章については、人権主事の方々と人権本部が連携し、その連携に必要な研修として人権擁護推進主事研修会への参加について規定されたこと、人権擁護推進委員会の任命が庶務課より人権本部に移管となり、奥書、進達等の事務手続きが人権擁護推進本部宛てに変更、そして人権擁護推進委員会構成・任期について一部変更を加えたこと、最後に人権擁護推進本部運営規程一部変更に伴い、宗制との齟齬がないよう今一度宗務所条例をチェックしていただきたい旨、本年12月に宗務所切り替わりが控えていることから、今回の内容をお伝えした点を踏まえて引継ぎを行っていただきたい旨をご説明いたしました。
その後、変更案の講習を踏まえて会場とオンラインに分かれ意見交換を行い、質疑応答ののち事務局より事務伝達を行い1日目が終了しました。
2日目は、法政大学法学部金子匡良教授より「人権ってなんだろう?」と題した講演をいただきました。
はじめに、日本の人権政策は世界の国と比較して優れているとしたうえで、大きく欠落していることとして、①世界には人権政策の実施を任務とする特別な行政機関として120ヵ国以上に「国内人権機関」が存在するが日本には存在せず、人権侵害を一般的に禁止する法律も存在しない。②人権侵害などで個人が国連に直接、救済を求められる「個人通報制度」が整備されていない。この2つを挙げ、人権政策の必要性についてお話されました。
次に、差別の要因として①怨恨・憎悪・悪意、②偏見、③知識の欠如、④ストレス、⑤自己肯定欲求/自己承認欲求、⑥攻撃本能などが挙げられるが、講演では特に偏見について中心にお話しされました。
差別の一つのパターンとして「~だから」、「~のくせに」のような「偏見」に基づく否定的なレッテル貼りをすることによって生じてしまうことがあり、偏見と差別は互いに互いを強め合う関係にあり偏見を持たれている人が差別の対象になり、差別の対象になるが故に、ますます偏見を持たれていくというサイクルができてしまい、このサイクルを止めることが重要な課題であるとお話しされました。
これらは講演の内容の一部ではありますが、人権とは何か、人権政策について、差別とはどのように起きるのか、それをどのように減らしていけるか、解消していけるかについて、分かりやすくお話をいただきました。
この後、班に分かれ意見交換・質疑応答が行われ、全国人権擁護推進主事研修会の全日程が終了いたしました。
今回の研修会は久々の対面開催でありました。今年12月に任期を迎える各人権主事にとりましては、任期中、対面での研修会等が少なかったこともあり、一つの場所に集まり、意見交換、研修を行うことができたことは貴重な機会となったことと思います。また、今回の研修会では率直な意見・感想が発表され、そして講習や講演における意見交換・質疑応答でも活発な議論が交わされておりました。
次回の全国人権擁護推進主事研修会は現時点では来年3月頃を予定しております。新型コロナウイルス感染状況にもよるところはありますが、新たな人権主事のもとで行われる最初の研修会でもありますので、全日程を対面で開催できることを願ってやみません。
人権擁護推進本部記