【International】梵鐘が繋ぐ日米友好と世界平和
第2次世界大戦時、日本では物資の不足と兵器製造のため、金属類回収令が発令され、多くの寺院の梵鐘などの仏具が回収されました。
しかし、中には加工前に終戦を迎え、その後、海を越えて日本国外に現存するものもあります。
令和4年9月30日、北アメリカ国際布教総監部はジョージア州アトランタ市内に所在するカーター・センターにおいて鐘楼堂建築「平和の鐘プロジェクト」の落慶式ならびに撞初式を修行いたしました。当該プロジェクトは、アメリカ合衆国第39代大統領でありノーベル平和賞受賞者であるジミー・カーター氏の施設、カーター・センターで保有している梵鐘の鐘楼堂建築計画です。この梵鐘は元来、宗門寺院である広島県三次市甲奴町の正願寺の什物でした。先述の金属類回収令により砲弾の資材として供出されたものの、砲弾になる前に終戦を迎え、その後、様々な経緯を経て、ジョージア日本人商工会と在アトランタ日本国領事館が購入しました。後にカーター・センター建築と日本庭園着工を記念し、世界平和推進活動への感謝を込めて、カーター元大統領夫妻へ寄贈されました。
このご縁によりカーター元大統領は正願寺を訪れ、現在、三次市とカーター大統領の出身であるジョージア州アメリカス市は姉妹都市になっています。鐘は「平和の鐘」と名付けられ、30年以上、同施設のエントランスに展示されてきましたが、本来梵鐘は鐘楼堂に吊るされることから、ジョージア日米協会が主体となり、三次市、在アトランタ日本国領事館、ジェトロ(日本貿易振興機構)などが連携し、日米で資金を募り、この度の建設がはじまりました。
鐘楼堂建築に当たり、ジョージア日米協会より、「曹洞宗の法式に則り、地鎮式を執り行っていただけないか」という旨の依頼が総監部にあり、「人権・平和・環境」を掲げ、SDGsに積極的に参画する宗門にとってこの度の協力は大変有意義なことから、7月8日の地鎮式ならびに、9月30日に行われた落慶式・撞初式への参加を決定しました。
7月の地鎮式に関しては、日米の出入国の制限が厳しいことから、当総監部職員のみで修行となりましたが、落慶式ならびに撞初式には、正願寺ご住職、吉井祥道老師も現地まで足を運ばれました。
法要に必要な各種器物はロサンゼルスの両大本山北米別院禅宗寺より借用し、手荷物として持参するなど、限られた環境で祭壇を設置、落慶式の導師を秋葉玄吾北アメリカ国際布教総監が務め、撞初式は吉井老師にお勤めいただきました。拈香法語ならびに回向に関しては、英語圏の方に法要の趣旨をご理解いただくために、日本語に続きゴッドウィン建仁曹洞宗国際センター所長による英語での翻訳文を読み上げております。
当日は主催者関係者はじめ、在アトランタ日本国総領事の他、日本人コミュニティ、さらには現地関係者も多く、400名以上が参列され、盛会裏に法要を執り行うことができました。
落慶式の後、ゴッドウィン所長による「Zen Experience(禅の体験)」として、同施設のシアターで約1時間の坐禅体験、法話、質疑応答を実施いたしました。50名以上の参加があり、北アメリカ南部地域における禅に対する関心度の高さを感じることができました。
参禅指導だけでなく、このようなご縁を通じて、北アメリカにおける「人権・平和・環境」に寄与することも、当総監部における大切な職務であると考えております。 数奇な運命をたどった梵鐘が、日本とアメリカの町を繋いだだけでなく、これからも両国の友好と、世界の平和を祈りながら打鐘され続けます。
北アメリカ国際布教総監部記