北アメリカ国際布教100周年連載企画~北アメリカ曹洞禅のこれまでの100年とこれからの100年~ 第12回 100周年と、その先に向かって

2022.11.09
筆者 黒瀧康之師

「アメリカの現地僧侶主導でお授戒をやるというのはどうでしょうか」 北アメリカ国際布教100周年という、非常に大きな節目を4年後に控えた2018年、現地の会議においてそのような案が出されました。当初の会議では授戒会自体に賛同する者が多くなかったのは、過去、ロサンゼルスの両大本山北米別院禅宗寺において75周年、さらには80周年を記念して、授戒会を修行していることもあり、「100周年」という特別な節目に見合うものか疑問があったことも理由のひとつでした。

「では、これまでの北アメリカで行われてきた授戒会との大きな違いとして、戒師には北アメリカ国際布教総監を立て、北アメリカの国際布教師たちが中心となって円成させよう。これからの100年、200年の北アメリカの曹洞宗に繋がる授戒会をつくろう。」

このアイディアが、2022年に向かう出発点になりました。

しかし、そのような意義を有した授戒会に向けてスタートを切ったものの、私たちには知識や経験があまりにも不足しているという大きな課題もありました。と言いますのも、これまでの75周年と80周年の授戒会には、両大本山はじめ、日本全国の授戒会の経験を有する、いわば日本からの授戒会のプロフェッショナルの宗侶がたのご助力があってこそ、円成されてきたものだったのです。

知識不足と経験不足を急いで補うべく、授戒会委員に任命された数名が、2022年までに授戒会に参加し、研鑽・研修をする計画が立てられ、私もその一員となりました。

2019年6月に、北アメリカから5名の国際布教師が、授戒会委員としてフランスの観照寺で行われた授戒会において随喜し、研鑽させていただきました。それは素晴らしい授戒会であり、随喜していたそれぞれの方々が意識を高く持って取り組んでおり、日本国外の授戒会のモデルケースともいえるものだったように感じました。授戒会を修行することの意義、感動とともに、私たちが北アメリカにおいて、今後どのように取り組んでいかなければいけないのか、目標の設定や、課題を持ち帰ることができました。

オンラインミーティングで各グループの進捗状況の確認・情報共有

2020年は日本国内での授戒会に随喜してさらなる研鑚を積もう、というときに新型コロナウイルス感染症拡大によるパンデミックの影響で中止となりました。計画は足止めとなり、予定通りできるのかという不安や、見通しがつかない困惑により、委員会も一時機能しておりませんでした。

しかし遅ればせながらではありましたが、日程、差定、マニュアル、配役といった大枠から始まり、ミーティングを重ねる中で一同の意識が一体化し、ようやく目標へ向かう歯車が回り始めたのは2021年に入ってからだったと思います。

このコロナ禍において、転じて福となしたことといえば、オンラインでのミーティングが身近になったことでしょう。広大な北アメリカでは物理的な距離だけでなく、時差もある中において、国際布教師が認識を共有し、アイディアを出し合い、そしてスキルアップへとつなげていくためには、コロナ禍以前ではかえって難しかったかもしれません。

三道場を除く各種法要、説戒や説教はオンライン
配信を実施

現地の方々でもわかるように差定を作成するグループ、各法要における一人一人の動きの資料や映像を画面上に映しながら練習するグループ、一言一句を解りやすく僧侶向け・一般向けにそれぞれ英訳するグループ、飯台のメニューや材料を考えるグループ、感染症対策を講じるグループなど、適宜に個人なりグループなりで分担し、ときには日本はもちろん世界各地の宗侶のアドバイスを仰ぎながら、数多くのミーティングが行われてきました。そして数ヵ月に一度、実際に会場である禅宗寺に集まり、オンラインでは確認のしづらい細かい箇所の確認や共有、そして法要の練習を重ね、モチベーションを保ちながら、各々が責任を持ち、まさに一枚岩となって進んでまいりました。

この先も北アメリカの各地で授戒会が修行されるよう、文言も英語で統一し、常にアップデートをする予定です。そして100周年だけではなく、100周年以降の北アメリカにおける曹洞宗を見据えて、私たちの意識も、アップデートされ続けています。

会場である両大本山北米別院禅宗寺での習儀

未曽有の感染症の影響の目途が立たず、世界中からの随喜者・参詣者を募り授戒会と共に行われる予定だった慶讃法要は、残念ながら2023年5月への延期が余儀なくされました。しかし、北アメリカ曹洞宗の100年の集大成として行った授戒会が円成した後の101年目には、また新たなる一歩を進めることができていることでしょう。

本文をご覧いただいている皆さま、この北アメリカにおける曹洞宗の大きな節目であり、大きな通過点でもある100周年記念を祝う慶讃法要のため、ロサンゼルスへお参りいただけたら幸いです。

カリフォルニア州サンフランシスコ 桑港寺 黒瀧康之 国際布教師