【International】現地に受け入れられるSoto Zenへ
2023年は曹洞宗ハワイ布教120周年になります。日本人がハワイに初めて移民したのが1868年。その後18年間、日本・ハワイ政府が移民を禁止したことを差し引くとハワイの曹洞宗の歴史は日本人移民の歴史と言っても過言ではありません。この120年間、日本人移民の地位の変化と共に、布教師の役割も変化してきました。布教師の活動も移民当初と現在ではまったく異なるものでした。
1903年に初めて曹洞宗の布教師が来布した地は、現在のワイパフ大陽寺、カウアイ禅宗寺があるオアフ島ワイパフ耕地、カウアイ島ワヒアワ耕地でした。これらの地では農耕移民としてやってきた多くの日本人労働者がプランテーションで働いていました。
当時の布教師は各地のプランテーションで働いている日本人家庭を訪問し、慰問することが仕事の大半でした。そのため僧侶は “慰問師” と呼称されていたそうです。その後、移民者同士の間に産まれた子どもにいかに日本の伝統や習慣を教育するかが重要なこととなっていきました。それに伴い、寺院や布教師の役割も変わって行きます。仏教寺院は日本語学校を併設するようになり、そこでは僧侶が教壇に立つことも多くあり、僧侶を“先生”と呼ぶ習慣が生まれました。なお、現在でも年配者はこの呼称を使っています。
さらに、第二次世界大戦中、日本人僧侶は監禁され、寺院や学校は閉鎖に追い込まれました。しかし、日系移民のアメリカ合衆国に対する忠誠心が戦後の日本人僧侶の解放、日系寺院の再開、多くの慰霊碑の建立へと繋がっていきます。
現在では、すべてのプランテーションが閉鎖され、日本人労働者は歴史の一部となり、生活様式の多様化により日本語学校も多く閉鎖されることになりました。お寺にお参りに来るのは大半が日系人ですが、日本語を話す方はすっかりいなくなりました。
僧侶の呼び方も、僧侶を意味する“Reverend”と英語で表現されることが一般的になってきました。それに伴い日系社会はどんどん小さくなっているのが現状です。さらに現在のハワイでは、多様な民族、価値観が存在しています。
そのような状況の中、我々曹洞宗はどこを目指していくのか……。目指すものは身近にありました。“Spam Musubi”です。ご存知の方もいると思いますが、Spam Musubiとは平たく握ったおにぎりの上にハワイで一般的なソーセージのようなお肉を乗せ、海苔で巻いたものです。ハワイでは、コンビニ、フードコートに行けば必ず見かける、人種や民族に関係なく多くの地元の人に愛される食べ物です。日本からやってきた“おむすび”が進化したものですが、誰もそんなことは気にしていません。Spam Musubiはハワイアンフードとして認知されているのです。
インドで生まれた仏教も中国、日本に渡り現在ハワイにたどり着きました。受け継がれるたびに地元の文化、生活様式に触れ変化していき、馴染んでいったのが仏教です。
そして今、仏教は日本からハワイにたどり着きました。当初は日本人移民だけを対象としていた仏教も日系人へ、そしてすべてのハワイの方に受け入れられるように、変化していかなければなりません。そして、その変化を正しい方向に導くことが現在の布教師の役割ではないでしょうか。
120年前のスタートは移民一世による日本の伝統を守りたいという思いでした。その気持ちを忘れることなく曹洞宗の伝統を守りつつ、ハワイではSoto Zen Hawaiiを地元の方と作りあげていきたいと思っております。
曹洞宗ハワイ国際布教総監部 記