梅花流ことはじめ【その18】真言宗ご詠歌の「教え」

2022.06.02

梅花流最初の詠讃曲、また法具の名前について、それぞれが真言宗系ご詠歌の密厳流みつごんりゅう金剛流こんごうりゅうのものを受けいれ、継承してきたということを述べてきました。もう一つここに由来するものがあります。それはご詠歌における「教え」なのです。

梅花流発足の2年後にまとめられた『作法軌範さほうきはん』の中に次の文章があります。

一、奉詠ほうえい作法の精神

(前略)これが奉詠に当たっても「威儀いぎ即仏法、作法是宗旨」との宗義に徹して、その一挙手一投足が身業しんごう説法となり、一言半句が ごう説法となり而してその口いまだ開かざる以前の浄心の発露が意業いごう説法となるのでなければならない。

ここに見るように、曹洞宗独特の「威儀即仏法、作法是宗旨」という表現に続いて、身業(姿勢・進退作法)・口業(言葉)・意業(心がまえ)、の3つが強調されています。この3つは仏教各宗がそれぞれの教えに取り入れているものですが、そのもとは密教の考え方に基づくものでした。

金剛流の流祖・曽我部そがべ俊雄しゅんのう師編著『高野山大師教会金剛講御詠歌和讃詳解』(初版・1929年)を見ると、

金剛流詠歌奉詠者心得(一)
およそ詠歌道に精進せんとする者は身口意三業の浄化をねがふべし口称くしょう聲明朗々しょうみょうろうろうとしてたえなりとも信心ともなはず威儀作法これかなはずば三密さんみつ雙修そうしゅう行人ぎょうにんとはもうがたしとあり、続いて身・口・意の心得について解説しています。前回述べたように、梅花流が直接影響を受けた密厳流は、金剛流と共通するところが多かったのです。

またこの心得(二)には、わかりやすく和歌の形式に詠んだ十ヶ条の心得が掲げられています。

一ツ ひとあてにとなふるうたはみほとけに ささぐるうたとにてもにつかず
二ツ ふにつくなふにはなるるなそれをしも ゑいかのみちのたつしやとぞいふ

というものですが、この第九番目に次があります。

九ツ こゑもよしふしもよしとてたかぶるな まごころなきはへたとこそしれ

これは梅花流でも早くから取り入れられました。昭和41年に刊行された『梅花流師範必携』では、「一 詠唱の精神」の章に、「声もよし節もよしとて高ぶるな 誠心まごころなきは下手とこそしれ」と明記されています。__

秋田県龍泉寺 佐藤俊晃