梅花流ことはじめ【その18】真言宗ご詠歌の「教え」
梅花流最初の詠讃曲、また法具の名前について、それぞれが真言宗系ご詠歌の密厳流や金剛流のものを受けいれ、継承してきたということを述べてきました。もう一つここに由来するものがあります。それはご詠歌における「教え」なのです。
梅花流発足の2年後にまとめられた『作法軌範』の中に次の文章があります。
一、奉詠作法の精神
(前略)これが奉詠に当たっても「威儀即仏法、作法是宗旨」との宗義に徹して、その一挙手一投足が身業説法となり、一言半句が口 業説法となり而してその口いまだ開かざる以前の浄心の発露が意業説法となるのでなければならない。
ここに見るように、曹洞宗独特の「威儀即仏法、作法是宗旨」という表現に続いて、身業(姿勢・進退作法)・口業(言葉)・意業(心がまえ)、の3つが強調されています。この3つは仏教各宗がそれぞれの教えに取り入れているものですが、そのもとは密教の考え方に基づくものでした。
金剛流の流祖・曽我部俊雄師編著『高野山大師教会金剛講御詠歌和讃詳解』(初版・1929年)を見ると、
金剛流詠歌奉詠者心得(一)
凡そ詠歌道に精進せんとする者は身口意三業の浄化を希ふべし口称の聲明朗々として妙なりとも信心伴はず威儀作法亦た之に合はずば三密雙修の行人とは申し難しとあり、続いて身・口・意の心得について解説しています。前回述べたように、梅花流が直接影響を受けた密厳流は、金剛流と共通するところが多かったのです。
またこの心得(二)には、わかりやすく和歌の形式に詠んだ十ヶ条の心得が掲げられています。
一ツ ひとあてにとなふるうたはみほとけに ささぐるうたとにてもにつかず
二ツ ふにつくなふにはなるるなそれをしも ゑいかのみちのたつしやとぞいふ
というものですが、この第九番目に次があります。
九ツ こゑもよしふしもよしとてたかぶるな まごころなきはへたとこそしれ
これは梅花流でも早くから取り入れられました。昭和41年に刊行された『梅花流師範必携』では、「一 詠唱の精神」の章に、「声もよし節もよしとて高ぶるな 誠心なきは下手とこそしれ」と明記されています。__
秋田県龍泉寺 佐藤俊晃