北アメリカ国際布教100周年連載企画~北アメリカ曹洞禅のこれまでの100年とこれからの100年~ 第4回 開教師(現・国際布教師)を経験して

2022.04.07
筆者 福島伸悦師

昭和53年、教化研究所(現・曹洞宗総合研究センター)海外課程2年時に、山本健善師、故榑林真龍師、弟の葉貫成悟(旧姓福島)と私4人でロサンゼルス・サンフランシスコ・ハワイの日系寺院、ならびに禅センターを視察しました。これがきっかけで翌年、ロサンゼルスの両大本山北米別院禅宗寺で半年の研修を経て、卒所してすぐに禅宗寺に赴任することとなった次第です。今は亡き山下顕光北アメリカ国際布教総監、故松永然道老師、大場満洋老師、秋山洞禅老師には大変お世話になりました。アメリカに根付きつつあるダイナミックな“生きた仏教”に出会い、僧侶としての自覚を新たにしました。

それは社会とのかかわりの中で具体的に動くということでした。様々な活動を通して、仏教の持つ限りない可能性と思想の深さ、そして僧侶としての社会的使命を再発見したのです。カリフォルニアという土地柄のせいか、さわやかで明るい環境の中で、坐禅、作務に励む僧侶や信徒の姿に感動したものです。「仏教って素晴らしい」、「僧侶になってよかった」とつくづく思いました。経済的につらいこともたくさんありましたが、それにも増して布教教化の楽しさを味わわせていただいたような気がします。

昭和53年、視察時の筆者(右から1人目)

禅宗寺において特に思い出に残るのが、サンデースクールの子どもたちを中心に和太鼓グループ「禅宗寺禅太鼓ぜんでこ」を結成したことです。ご縁があり、世界ツアーをしていたプロの太鼓集団「鬼太鼓」の方々に指導を受けました。メキメキと上達してロサンゼルスマラソン、ダライ・ラマ十四世、教皇ヨハネ・パウロ二世、ジョージ・ブッシュ大統領、マンデラ氏、上皇・皇后陛下(天皇陛下時代)の前で演奏する栄誉ある機会を得ました。そして、ハリウッド映画『チャーリーズ・エンジェル』で劇中の映画のシーンに出演する機会にも恵まれ、禅宗寺の広告塔として貢献してくれました。


禅宗寺禅太鼓

私が在籍していたときの業務内容としては、週2回の坐禅会、祥月法要、月1回の御詠歌練習、修正会、節分会、第2次世界大戦時の日本人・日系人の強制収容所であったマンザナー巡礼、ロサンゼルス仏教連合会による合同の花まつり・1週間のサマーキャンプ、お盆法要、茶筅供養、寺報『仏心』発行、毎月の病院・施設訪問、年2回のおみがき(お掃除)、男性が女性を招待して食事をふるまう「レディスディ」、子ども1泊坐禅会、仏教連合会主催の1週間のサマーキャンプなどでした。

これらの行事の経験が日本に帰国した後の、今の活動に役立っています。花まつり青少年子ども書道展・華道展、毎月15日のワンコインコンサート、川島奇北忌俳句大会、香の会(香道)、おみがき(2回本堂内外の掃除)、除夜の鐘萬燈会、朝粥坐禅会など檀家さんに限らず参加してもらう活動を行っています。

平成2年7月に帰国しましたが、宗門全体が海外布教に対する理解がなかったということに大変ショックを受けました。そこで、国内ご寺院の皆さまに海外布教についてご理解をいただくために、国際布教師経験者にお声掛けして①海外で布教に従事している国際布教師への物心両面の支援をする、②海外布教の重要性を宗門寺院に対して啓蒙活動をする、③国際化社会に対応する曹洞禅の在り方を考える、等の目的で、平成5年2月8日に「SOTO禅インターナショナル」を発足いたしました。

この発足にあたっては、当時新設されたばかりの教化部国際課課長・山本健善師、月出(旧姓善浪)俊典師に多大な尽力をいただき、また両大本山と宗務庁から協賛をいただき、国際布教および曹洞禅の国際交流を推進する団体として認知されるようになりました。

発足当時の役員は次のとおりで、会長・故松永然道師、副会長・大山陽堂師、藤川享胤師、会計・西澤応人師、事務局・大場満洋師、堀部明宏師、監事・田中哲彦師、長田敬道師、私が、事務局長を務めさせていただきました。

これまでの活動で印象に残っているものを紹介したいと思います。

・ティク・ナット・ハン師の講演会
発足して二年後の平成七年五月九日、有楽町よみうりホールを会場に、世界で知られていた仏教指導者のベトナム僧・ティク・ナット・ハン師を招聘し講演会を開催しました。今では「エンゲイジド・ブッディズム(行動する仏教)」あるいは「マインドフルネス」という言葉が一般的になっていますが、その当時は耳慣れない言葉だったと思います。

第12回世界宗教者平和の祈り
平成10年にルーマニアのブカレストで行われた「第12回世界宗教者平和の祈り」に事務局長として参加させていただきました。ローマ法王・ヨハネ・パウロ二世の呼びかけで始まったものですが、聖エディジオ共同体がその後主催となっています。大本山永平寺を代表して当時監院であられました南澤道人禅師さまと現ヨーロッパ国際布教総監である峯岸正典師が各部会のパネリストして発表され、最後に世界平和実現に向けて「平和宣言」が発表されました。

 

第12回世界宗教者平和の祈り

・道元禅師生誕800年慶讃「道元禅師シンポジウム」
平成11年10月23日・24日、スタンフォード大学クレスギー公会堂で行われた「道元禅師シンポジウム」のお手伝いをさせていただきました。パネリストは10人で、大谷哲夫師、カール・ビルフェルト教授、ハートマン全慶師、奥村正博師、ローリー大道師、グリフィス・フォーク教授、奈良康明師、ワイツマン宗純師、スナーキー空色師、ゲーリー・スナイダー氏がそれぞれの分野で発表されました。

 

道元禅師シンポジウム

その他、年に1度両大本山で安居者に向けた国際布教師らによる海外の禅仏教事情を説明するワークショップ、中・高校生を対象に海外研修会を行いロサンゼルス・サンフランシスコの禅センター、ハワイの日系寺院にて研修会の実施、海外寺院ガイドブック作成など積極的に海外事情の啓蒙活動に努めてまいりました。

本年、禅宗寺において国際布教100周年記念行事が行われることに心よりお慶び申し上げます。この歴史の真っただ中で、国際的な視点で布教教化に微力ながら関わらせていただいてきたことに感謝申し上げる次第です。次世代を担う若い人たちが、内に向きにならず大きな志をもって、世界の宗教界のリーダーとして羽ばたくことを切に願っています。

合掌

埼玉県行田市 長光寺住職
福島伸悦