北アメリカ国際布教100周年連載企画~北アメリカ曹洞禅のこれまでの100年とこれからの100年~ 第3回 北アメリカと日本との繋がりの重要性
私は、平成26年より北アメリカ国際布教師としてカリフォルニア州にて布教教化にあたり、平成27年からは、北アメリカ国際布教総監部の書記として、管内寺院・禅センターの活動を補佐する機会をいただいています。
北アメリカでは、新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、寺院や禅センターの対面的な活動が様々な形で制限されている一方、オンラインで行える活動を拡大しています。それにより、対象が近郊住民だけでなく、北アメリカ全土、更にはヨーロッパや中南米といった世界各地から坐禅や法話に参加することが可能となり、国や大陸を超えて交流を図るといった、北アメリカの曹洞禅がさらなる広がりを見せています。
北アメリカの国際布教が本年で100年をむかえ、そして、1960年以降の非日本人・日系人以外の、いわゆる「現地の方々」を対象にした布教教化活動が本格的に開始されてから、50年以上が経ちました。
これまでの活動の中で、北アメリカでは、在家中心の坐禅が各地で広まる一方で、坐禅以外にも、宗門における法式・教義など基本を学びたいという若い世代の指導者も存在いたします。このような伝統回帰への動きの背景には、様々な要因があるように思いますが、その中に、北アメリカ特有の「社会参画」という背景が、少なからず関連していると思慮いたします。
有色人種への人種差別、環境保護など様々な社会活動や政治活動に積極的に関わってきた寺院・禅センターを含む曹洞禅系のコミュニティは、対社会的な流れに感受性を高めてきた半面、かたくなな行動主義が組織内での分裂を生み、政治色を強めており、根本的な只管打坐の教えから乖離してきてしまったのではないかという、意見があります。
そのような中、私は今年から北アメリカ曹洞禅系の最大団体である「ソートーゼン・ブディスツ・アソシエーション(SZBA)」の理事に、日本人としては初めて推薦され、理事会の一員となりました。また、総監部書記という職務により、総監部の現地法人である「アソシエーション・オブ・ソートーゼン・ブディスツ(ASZB)」の理事も務めさせていただいています。両団体の理事であるため、現地の僧侶の意見に耳を傾ける機会が増えるようになりました。
各地で独自の発展を遂げた曹洞宗系の諸派が、一つの組織を構成していること自体が、稀有なことなのではないかと、理事として組織に入り実感しています。過去半世紀の間に急速に広まった曹洞禅諸派の多様なあり方がありますが、互いに意見を出しながらも、着実に一歩ずつ前進する両団体は、民主主義の本場アメリカ合衆国を象徴していると感心させられます。キリスト教文化圏の北アメリカにおいて、曹洞禅の現地諸派の醸成は簡単なことではなく、一朝一夕というわけにはいきませんが、そのプロセスに私のような日本人僧侶が参加させてもらえることは大変ありがたく思います。
現在、国際布教師として赴任をしているロサンゼルス東部にあるモンテベロ曹禅寺でも、従来の日系寺院としてお寺を護持する傍ら、僧侶の指導に当たっております。彼らは日本の曹洞宗の基本精神をしっかりと学び、日本の僧堂での安居修行を見据え、研鑽を積んでいる者たちばかりです。カナダ、中米のニカラグアなど、アメリカ合衆国以外の北アメリカ大陸の国々からオンラインで参加する人たちがいます。彼らのおかげで、フランス語圏、英語圏、スペイン語圏を含む北アメリカ大陸全体の動向にも目を向けられるようになりました。
特に、私の家族の住むカナダは、赴任当時から開教(国際布教)を目指していた国でもあります。今年に入り、カナダのアルバータ州の現地の人々と新法人「ロッキーマウンテン禅コミュニティ」を立ち上げ、少しずつ当地における活動を始めております。同州には、かつて多くの日系カナダ人が住み、カナダ建国100周年記念の際には、日加友好庭園が造られました。ここでは日本との積極的な交流を理念として掲げながら、温かい友好関係の構築を目指してまいります。
今後は、北アメリカにおける国際布教は、アメリカ合衆国はもとより、カナダならびにメキシコを含む北アメリカ大陸全体を視野に入れた国際布教が益々必要になってまいります。北アメリカといっても英語だけでなく、スペイン語、フランス語を公用語とする国や地域もあり、そこに文化圏も関わってきます。
このように、北アメリカ大陸の様々な文化圏や言語圏で多様な枝葉が伸び続ける一方、日本という幹や根との繋がりを強くありたいという声もございます。
このような現地の声に、精一杯応えていくことが、日本人である自分の役割の一つだと確信しております。
ただし、その際、彼らには、一人の国際布教師の見解や指導方針に偏ることなく、曹洞禅に対し、多面的な視点をもって修行に励むよう様々な国際布教師や、現地の指導者の声はもちろんのこと、日本の一般寺院の宗侶、そして宗務庁や大本山の中で献身されている方々の声など、宗門にかかわる様々な人たちの声に耳を傾けるよう常々伝えています。
それは、日本からの特派布教師の教えや日本で宗門を支えている僧侶、宗門を支える役職員の声を、これまで微力ながらも伝達する機会をいただいてきた一人の通訳者としての自分の願いでもあります。そして、これからも北アメリカにおける曹洞禅の発展、日米間や日加間の交流の促進に少しでも寄与できるよう努めてまいる所存です。
100周年という節目は、現地、北アメリカの曹洞禅の繋がりを再認識する記念の年でもあります。日本の曹洞宗との繋がりをさらに深め、正伝の仏教がさらに敷衍されることを期待しています。
合掌
モンテベロ曹禅寺国際布教師
北アメリカ国際布教総監部書記・現地法人ASZB理事
アメリカ曹洞宗系現地法人SZBA理事
横山行敬