【人権フォーラム】全国水平社創立100周年記念映画 原作・島崎藤村『破戒』全国上映決定
2022.03.29
連載・コラム
今から100年前、1922(大正11)年3月3日に全国水平社は結成されました。京都市岡崎公会堂にて行われた創立大会では、日本最初の人権宣言といわれる水平社創立宣言が採択され、第二次世界大戦後に発足した部落解放全国委員会および部落解放同盟等の前身となりました。
明治維新に伴い布告された1871(明治4)年の解放令により、穢多・非人などの被差別部落民は形の上では封建的な身分関係から解放されましたが、実際にはさまざまな差別が残っていました。
これに対して明治政府は当初「融和運動」を提唱しました。しかし、それは差別の原因が部落の劣悪な環境や教育水準にあるとし、国粋主義者や富裕層の力を借りる事によって部落の経済的向上を目指し、また部落民の意識を高め部落外の人々の同情と理解によって差別を無くそうとする運動でした。
このような政府の運動では変わらない現状に反発した西光万吉、阪本清一郎、駒井喜作らが中心となり、状況を改善するために、いわゆる「部落民」による自主的な運動として、全国水平社は結成され、差別糾弾・行政闘争を軸に「水平運動」が展開されました。
この度、全国水平社創立100周年記念映画製作委員会は、島崎藤村の長編小説『破戒』を映画化しました。『破戒』が映像化されるのは1962年以来60年ぶりです。制作は東映株式会社、監督はキネマ旬報「文化映画部門」ベストテン7位の「みみをすます」を監督された前田和男さん、脚本は「クライマーズハイ」で日本アカデミー賞優秀脚本賞を受賞された加藤正人さんと「バトル・ロワイヤルⅡ 鎮魂歌」で毎日映画コンクール脚本賞を受賞された木田紀生さん、主演は映画・ドラマなどでの活躍が著しい若手俳優・間宮祥太朗さんです。全国水平社創立100周年の本年7月、全国劇場公開される予定です。
島崎藤村は明治、大正、昭和の三代にわたって息の長い活動をつづけた日本近代文学を代表する小説家で、『破戒』は詩人から小説家へ転向した最初の長編小説となります。1905(明治38)年に起稿され、翌年3月に出版されました。
明治後期、信州小諸城下の被差別部落に生まれた主人公・瀬川丑松の人生が描かれます。
丑松は生い立ちと身分を隠して生きよ、と父より戒めを受けて育ちます。その戒めを頑なに守りながら、小学校教員となった丑松でしたが、同じく被差別部落に生まれた解放運動家、猪子蓮太郎と出会い慕うようになります。丑松は、猪子にならば自らの出生を打ち明けたいと思い、口まで出掛かかりながら、その思いは揺れ、日々は過ぎます。やがて学校で丑松が被差別部落出身であるとの噂が流れ……というのが本作のあらすじです。
作中の時代背景は水平社結成よりもさらに前のものとなりますが、主人公・丑松が抱える苦悩や問題は現代にも通じる部分が多くあります。出自を明らかにしていない丑松の前で、被差別部落に対する偏見を口にする同僚や友人達、当事者を透明化した無意識の差別は今も少数者(マイノリティー)の多くが直面している苦悩です。
昨年9月の、被差別部落の地名リスト「全国部落調査」のウェブサイト掲載は「プライバシーを違法に侵害する」とする東京地裁判決も記憶に新しいですが、こうした本人の了解を得ずに、他の人に公にしていない秘密を暴露する行動は「アウティング」と呼ばれ、現在でも大きな問題となっています。
文豪の名著を映画という形で味わうと同時に、執筆当時と現代の人権にかかわる状況の何が変わり、何が変わっていなかったのか、全国水平社創立100周年を機に考える良い機会なのではないでしょうか。(近世の身分制度や「解放令」について、詳しくは『曹洞宗人権学習基礎テキスト これだけは知っておきたいQ&A』第4章29~31などもご参照ください)
人権擁護推進本部記