北アメリカ国際布教100周年連載企画~北アメリカ曹洞禅のこれまでの100年とこれからの100年~ 第1回 100周年を迎えるにあたり
本年2022年、北アメリカは国際布教100周年を迎えます。曹洞宗宗務庁ならびに出版部のご協力をいただき、連載企画のページを設けていただきました。次月号以降は、管内における国際布教従事者ならびに管内の国際布教に携わってこられた方々にご寄稿いただきます。本連載を通じ、今後も広がりを見せていく北アメリカの曹洞禅に触れていただけましたら幸甚です。
今月は、当総監部管内を代表し、小職より「100周年を迎えるにあたり」を題目に、北アメリカの地における宗門の歴史、記念事業などについてご紹介いたします。
北アメリカの地における宗門の歴史
北アメリカで曹洞宗の布教が始まったのは、1922(大正11)年のことです。当時、ハワイで布教活動に携わっていた磯部峰仙師が、日置黙仙禅師、新井石禅禅師からの要請によって、アメリカ本土へ向かいました。そこで長崎豊吉氏と巡り合い、その出会いが縁となり、ロサンゼルス市リトルトーキョーにある長崎氏の自宅2階を借りて「禅宗寺仮教会」が開かれました。言葉のとおり、リトルトーキョーという地名は「小東京」に由来するもので、多くの日本からの移民やその子息が暮らしていました。
アメリカという異国・異文化の地において、禅宗寺は葬儀や法要などの宗教行事以外にも、伝統文化や娯楽にも触れる場となっていき、なにより彼らにとって日本を感じられる大切な場であったことは想像に難くありません。磯部老師はその後同じくサンフランシスコにおいても「桑港寺」を創設し、日系寺院としてメンバー(檀信徒)の篤い信仰によって今日まで護持されています。
そして、1960年代、日本からの開教師(現・国際布教師)により、現地の人々を対象とした参禅会が始まりました。当時、既存の文化に対抗し、新しい社会を作り出そうと模索している時期(カウンターカルチャー)の影響もあり、多くの若者たちが集うようになりました。そして、それは禅グループとなり、“禅センター”と呼ばれる組織を形成していくようになり、現在では、米国本土各地はもとより、カナダ、メキシコ合衆国においても禅センターが設立され、宗門の僧籍を有する僧侶も300名を超え、曹洞禅系僧侶を含めると1000名以上の僧侶がおり、各地に曹洞禅の教えが広がっています。
2022年度北アメリカ管内の動静
新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、まだまだ協議が必要な部分も多数ございますが、「曹洞禅が開く新たな100年」をテーマに、記念事業が大過なく円成できますよう、管内国際布教師、教化部国際課、曹洞宗国際センター、他総監部など関係各所と連携し鋭意準備を進めております。
・北アメリカ国際布教総監部事業①授戒会・北アメリカ国際布教100周年記念慶讃法要
日程 授戒会
2022年11月16日~20日(5日間)
慶讃法要 授戒会終了後
会場 両大本山北米別院禅宗寺(カリフォルニア州ロサンゼルス)
管内の禅センターのメンバーを中心に戒弟を募り、北アメリカの国際布教のはじまりである禅宗寺と縁を結んでいただくとともに、禅センター間の交流・発展・促進ができることを目標とした授戒会を予定しております。
説戒・説教も基本的にすべて英語で行い、配役含め管内僧侶が中心となって執り行うことで、将来的に管内の禅センターで授戒会や因脈会が修行され、長期的な観点で教化の一環になることを期待しています。
・北アメリカ国際布教総監部事業②社会的事業:シンポジウム
日程 2023年3月(予定)
会場 カリフォルニア州内(予定)
100年間の国際布教の歴史と曹洞禅が北アメリカ社会に与えた影響、これからの100年の宗教が果たす役割などを考察する社会的事業として、シンポジウムの実施を予定しています。
宗門が掲げる「人権、平和、環境」のスローガンのもと、様々な取り組みを行っており、現在は国際連合が掲げる「SDGs・持続可能な17の開発目標」の実現を支援しています。しかしながら、新型コロナウイルス感染症によるパンデミック以降、以前と比べ情勢が大きく変化していることから、今一度、禅・仏教のみならず宗教が人びとに寄り添える力を信じ、全世界にどのようにして貢献できるかを、様々なパネリストを招き多面的に考察し、社会に広く伝えていく予定でおります。
・天平山菩提心寺プロジェクト
日本の皆さまより多大なるご協賛をいただいております、日本国外における専門僧堂設置認可を目指す、「天平山菩提心寺建立事業」は、カリフォルニア州レイク郡に建設中であり、2015年に当時の南澤道人大本山永平寺副貫首(現管長猊下)ご導師のもと僧堂上棟式を執り行いました。
新型コロナウイルス感染症の影響により、日本からの宮大工が入国できなかったり、その他の工事が中断されたりと、工期が当初の予定より遅れていますが、2022年内に入国規制が緩和された際には、僧堂が完成予定であり、秋には修行生活を開始することができます。
多様性を尊重する常設の専門僧堂が日本国外に設置することは、国際布教に携わる宗侶にとって念願であり、次世代宗侶育成の扉が大きく開かれることは間違いありません。
・非営利法人「(仮称)ソートーゼンノースアメリカ」設立
世界的に広がりをみせる曹洞禅、その独立および日本の曹洞宗との関係強化に先駆け、北アメリカでは新たな非営利法人「(仮称)ソートーゼンノースアメリカ」の設立準備を総監部現地法人で進めております。
当該組織は、曹洞禅系の僧侶を会員とした独立採算による法人であり、北アメリカにおける僧侶間の多様な見解の調整・統一と、僧侶の育成環境の充実を目標としています。
曹洞禅の教えを敷衍することを大前提に、曹洞宗と当該組織が、継続的に友好関係を保つことができるような提携を結ぶことを希望しています。
今日まで100年間、北アメリカにおいて布教できましたのも、1922年以降の歴代の開教師・国際布教師、そしてそれらの活動を支えてきたメンバーの帰依の賜物であり、また、日本の皆さまからの物心両面のご理解とご協力によるものでございます。
皆さまへの御礼と、一連の行事が円成できますよう引き続きお力添えいただきますようお願い申し上げ、ご挨拶とさせていただきます。
北アメリカ国際布教総監 秋葉玄吾