【人権フォーラム】―「不当有罪判決から47年~東京高裁は鑑定人尋問・再審開始を」―狭山事件の再審を求める市民集会参加報告

2022.01.14

2021年10月29日(金)、東京都日比谷野外音楽堂で狭山事件の再審を求める市民集会が開催された。当日は「同宗連」(『同和問題』に取り組む宗教教団連帯会議)を始め、部落解放同盟、狭山事件を考える住民の会など、総勢1,000人規模の参加となった。

1974年10月31日に石川一雄氏に無期懲役判決が下されてから47年、一部の証拠開示がなされた第3次再審請求審から15年が経過する中で、再審を願う人々の熱気を感じる集会であった。

曹洞宗では、部落差別をはじめとする不当な差別的取り扱いを解消するため狭山事件に関する取り組みを行っている。この事件の根底には部落差別があり、当時警察が行った初動捜査には被差別部落の青年たちに対する予断と偏見が存在し、見込み捜査を生んだと指摘されている。当時のマスコミの動きを見れば世間に差別意識を拡大させたことは間違いない。

「同宗連」は連帯して石川一雄さんの無実を今も訴え続けているが、裁判所の鑑定人尋問等の事実調べは四七年間行われず、検察による証拠の開示不足も指摘され続けている。納得のいく審理が尽くされることを願う。

石川さんが事件当時狭山署に宛てた上申書、自宅の鴨居から発見されたとされる万年筆が被害者の物ではないことを訴えた下山進氏の鑑定、取り調べ録音テープ等の開示により、弁護団は裁判所に数々の有力な証拠を提出する中で、石川さんは裁判所には一日も早い事実調べを、検察には全証拠の開示を粘り強く求め続けている。

市民集会も2019年10月以来2年ぶりの開催となったが、コロナ禍においても石川さんの不屈の精神で闘い続けてきた様子をうかがうことができた。

集会は、部落解放同盟中央本部委員長・組坂繁之氏の開会挨拶から始まり、冤罪被害者・石川一雄さん、妻石川早智子さんのアピールへと続いた。

 

石川一雄さん・早智子さんのアピール

石川一雄・早智子夫妻のアピール

石川一雄さん
「裁判所には、鑑定人尋問、証人尋問を直ちに行ってほしい。この裁判で元気なうちに再び支援のお願いをして日本全国を歩きたい。この第3次再審で無罪を勝ち取らねばならず、死んでも死にきれない覚悟で臨んでいる。皆さまの力を貸していただきたい」

石川早智子さん
「この2年間コロナ禍にあっても、全国各地では、狭山学習会、五・二三狭山座り込み、スタンディング、高裁前アピール行動など、支援者の創意工夫を凝らした闘いが進められてきた。この中で大きな力をいただいた。

寺尾判決から47年、この間石川は無実を訴え続けてきたが、今もなお石川の両手には見えない手錠がかけられたままであり、現在も選挙権すらなく、投票用紙も届かない。

これまで弁護団や支援者の長い闘いの中で、無実を明らかにする様々な新証拠が裁判所に出されてきた。何としても裁判所に鑑定人尋問、証人尋問を迫ることが今、最重要の闘いである。

石川は無実でありながら殺人犯にでっち上げられ、24歳から55歳まで31年7ヵ月獄中で青春を奪われ、82歳の今も冤罪を晴らせずにいる。石川は何としても生き抜いて無罪を勝ち取り100歳まで生きると決意している。

多くの人々が温かな心を寄せてくれているが、公権力、差別裁判による大変厳しく長い闘いが『狭山』である。全国から沢山のメッセージをいただく中、子どもたちの手紙は石川を大きく奮い立たせている。この闘いは最終段階を迎えており、何としても裁判所に鑑定人尋問をさせるため、皆さまの声を裁判所に届けてほしい」

続いて、狭山弁護団主任弁護人・中山武敏氏、事務局長・中北龍太郎氏より弁護団報告が述べられた。

 

弁護団報告(要旨)

石川さんの再審無罪を訴える鎌田慧氏

10月7日、第48回目の3者協議が開催された。今回の協議では、有罪証拠のひとつとされたスコップに関して弁護団が求めた証拠開示について、検察官は「(開示を求める証拠は)見当たらない」との回答を繰り返し、弁護団は反論の意見書と共に、協議に先立って、検察官が今年3月に提出した筆跡鑑定の意見書に対する反論の意見書と新証拠を提出した。今後、万年筆、殺害方法についての検察官意見書に対する反論、反証、自白についての新証拠を提出する。検察官は証拠開示に応じない一方で、昨年10月現在、これまでに検察から弁護団に191点の証拠が開示され、弁護団は、246点を新証拠として裁判所に提出している。これらをもとに来年裁判所に対し鑑定人尋問を請求していく。

寺尾判決への批判

本集会の要となる、いわゆる寺尾判決に触れておきたい。弁護団は、審理を尽くさぬまま石川さんを有罪と決めつけ、無期懲役判決とし不当な判決だと訴えている。この裁判では、当時石川さんが書いた上申書と真犯人の脅迫状の文字を同一視し判決の大きな根拠としているが、弁護団は両者の文字の筆跡鑑定を行い、両者が別人であることを指摘している。

また、脅迫状を書いたとされた石川さんは小学校にも行けず、自ら文字の読み書きができず教育を受けられなかった非識字者であったことを訴え、第三次請求で開示された取り調べ録音テープを分析した識字能力鑑定も行われた。

有力証拠とされている石川さんの自宅の鴨居から自白どおりに発見された万年筆も、当時被害者が使用した万年筆とは明らかに違うインクが使用されており、証拠能力を疑われている。

また当時10名以上の刑事が2時間以上、2回にわたり捜査したにも関わらず発見しておらず、3回目の捜査ではわずか4人の刑事が14分足らずで発見したことは、極めて不自然だと指摘した。

当時石川さん宅を捜査した刑事も万年筆はなかったと断言しており、証拠の捏造が疑われている。また発見万年筆から被害者の指紋は検出されていない。発見された万年筆の中には、被害者が使用したはずのジェットブルーインクは混在しておらず、下山第二鑑定では、蛍光Ⅹ線分析でインクの元素を調べ、発見万年筆が被害者の物ではないことを指摘した。取り調べ録音テープの中では、石川さんは犯行内容についてまったく語っていなかった。

誤判や冤罪を防ぐことは、基本的な人権を守ることであり、司法の姿勢は常に問い直されねばならない。私たちも冤罪被害にあう可能性はあり、これは一人一人の問題といえる。

参加者一同によるデモ行進

弁護団はこれらの証拠が石川さんの無実を示すと訴え、三者協議(裁判官・検察官・弁護団)に繰り返し臨んでいる。

弁護団報告の後、部落解放同盟中央狭山闘争本部長・副委員長片岡明幸氏より集会の基調提案がなされ、その後袴田巌さんを救援する清水・静岡市民の会・山崎俊樹氏、冤罪被害者・橋本幸樹氏より連帯アピールがあり、狭山事件の再審を求める市民の会事務局長鎌田慧氏の市民の会アピールへと続いた。

鎌田氏は、「冤罪狭山事件、石川さんの無実を再び多くの支援者と共に分かち合う集会が開けたことに感謝する。この気持ちを多くの市民に伝えたい。石川さんは事件発生より58年間無実の罪に陥れられたまま、今もなお苦しんでいる。再審無罪になるまで何が何でも生き抜き、そのためには体を鍛える努力を惜しまないと語っているが、それをさせているのが、司法である。無実の罪を押し付けて平然としている姿勢はまったく理解できない。苦しみを救うのが本来裁判官の仕事ではないか。裁判官は、命を揮って再審開始を決定し、一日も早く無罪判決を出してほしい」と述べられた。

その後、部落解放中央共闘事務局次長小林郁子氏が集会アピール文を読み上げ、部落解放同盟中央本部書記長西島藤彦氏が閉会挨拶を述べ、本集会を締めくくり、デモ行進へと続いた。

 

請願署名はがき運動のご協力を

毎年、人権擁護推進本部は請願署名はがき運動に協力している。昨年と同様に「同宗連」加盟教団として、全宗務所、管区教化センター、人権啓発相談員に必要枚数を送付させていただいた。支援いただける方は、高裁高検宛に1月下旬の到着を目途に投函いただきたい。

このはがき運動の目的は、証拠開示を公正公平にルール化するためであり(見本参照)、司法制度の改善を目指すものであるが、基本的人権が守られるためには公平な司法制度が不可欠である。

この司法制度の議論を大きくすることや、石川さんに賛同いただける方には、支援する声をはがきに託して全証拠開示と事実調べの実施を訴えていただきたい。

石川さんは82歳の今も不撓不屈の精神で差別と闘い続けている。この第3次再審の大きな潮流の中で、鑑定人尋問が行われれば、支援者にとって重要な局面を迎えることになるだろう。

筆者個人としても、これまで多くの支援者が石川さんの冤罪を晴らすための行動としてきているのを目の当たりにしてきた。一僧侶として、誠意ある態度とは何かを考え、力の限り行動を起こしていきたい。

人権擁護推進本部記

 

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