【人権フォーラム】満願と未来への希望―朝鮮半島出身の被徴用者等の無縁遺骨集約事業の終結へ―
その日満願を迎えた
本年9月27日―満願の日を迎えました。この日に、全国の関係寺院から預託されたご遺骨の納骨をひとまず終えたのです。
曹洞宗では、日韓両政府からの依頼にもとづき、2005(平成17)年末より、「東アジア出身の強制徴用者等の遺骨の所在および関連情報についての調査」を開始し、実地調査を経て、百数十体の個別性を保った遺骨を把握しています。
日韓政府間の遺骨返還が諸事情から頓挫し、せっかくご協力いただいた寺院の意向を実現できないでいるさなか、本宗では寺院の同意が得られたご遺骨を宗門として集約することになりました。(2017年12月号本欄既報)
この「朝鮮半島出身の被徴用者等の無縁遺骨集約事業」は、2017(平成29)年10月から約2ヵ年をかけて、全国に散在する朝鮮半島出身者の無縁遺骨を集約し、当分のあいだ、本宗が責任をもって一括管理することになったものです。
ご遺骨の来し方を振り返りこれからの行く末を慮るとき、ひとしおの感慨と、今後の責任の重さをひしひしと感じます。
なぜ集約することになったのか
個々の寺院に仮安置されていた無縁遺骨を、本宗が集約し、しかるべき納骨施設に預託するのには、それなりの事情と理由があります。
日本国内の墓地や宗教施設に散在している朝鮮半島出身者の遺骨(推定含)は、日本政府(厚生労働省)の発表によれば、約2800件確認されています。その中で、仏教等の宗教団体の施設に安置されてきた遺骨は、約7割の約1900体以上におよびます。また、すでに合祀・合葬された遺骨を除いた個別性を維持した遺骨(骨壺・骨箱)は約1200体も存在するとのことです。(2017年4月発表)
そのうち、曹洞宗寺院で今回の調査を受け入れてくださった協力関係寺院にあるご遺骨は、109体を数えます。当初はすぐにでも依頼主の韓国政府が引き取ることになっていた無縁遺骨は、いまや帰るべき故郷を目の前にして、各寺院に留め置かれたままとなっています。
日韓政府を通した遺骨返還事業をこのまま継続するのか、それとも取りやめて民間に委託するのか、その判断も一向に示されないままで、約15年近い歳月が経過しているためです。
ご遺骨を仮安置されている寺院の事情はそれぞれですが、かつては炭鉱や鉱山で栄えた地域に隣接していた寺院も、いまでは地域住民も檀信徒も去ってしまったところが少なくありません。お骨の維持管理どころか、お寺の存続そのものが危機にさらされている現状があります。
遠い将来、日韓両政府が、所期の約束どおりに、遺骨の返還にやっと着手することになっても、もうその時点ではお骨もお寺も所在が不明ということにもなりかねません。
曹洞宗は、日韓両政府や元請団体の全日本仏教会にたいして、取り組みの促進を要請しています。しかし、このままで5年・10年も経過すると、せっかく所在の明らかとなった遺骨や身元を示す貴重な記録情報も紛失・散逸してしまうという最悪の事態を想定しなくてはなりませんでした。
そのような事情から、本宗では、遺骨とその記録を保全し、来るべき遺骨の奉還に備えるために、まことに異例でありますが、個々の関係寺院のご遺骨をお預かりすることになりました。
集約遺骨の現状
このたび、全国の曹洞宗寺院に仮安置されてきた引き取り手の不明な朝鮮出身者の無縁遺骨の預託を受けて、本宗の責任において集約したご遺骨の現状は、次のとおりです。
①集約遺骨総数 96体 (個別性維持遺骨) ※ 3寺院10体については、当分の間、各寺院で安置の意向 ※ 1寺院3体については、諸事情で集約保留
②集約協力寺院 29寺院 北海道~九州
③集約遺骨出身地 朝鮮半島出身(韓国・朝鮮)96体 ※伝聞情報も含む
④集約遺骨性別 男性 45体 女性 18体 不明 33体
⑤集約遺骨の死亡時期 明治~昭和前期 32体 昭和後期 52体 不明不詳 12体
⑥身分・労務形態軍人 0体 軍属 1体 労務者 49体 不明不詳 46体
これら朝鮮半島出身者と認定、もしくは推定可能な遺骨の御霊は、さまざまな事情から本宗寺院に預けられたままになっていました。
当初は、成人男性を中心とする軍属を含む労務動員者との見通しで調査に着手していましたが、女性や子どもも含む多様な人々の遺骨の所在が明らかになりました。
死亡時期についても、朝鮮全域が日本の統治下にあった戦前・戦中の遺骨だけではなく、半数以上は大戦後にお亡くなりになった方の遺骨ということになります。
このようなことから、これら九六体の無縁遺骨は、一般に言われるように「強制動員被害者」「強制労働殉難者」という方だけで構成されているのではなく、それこそ各々の個別の事情から日本の寺院に留め置かれることになった遺骨ということになります。
大韓民国政府の遺族捜索によりますと、この中、3体の遺骨については、すでに韓国内で遺族・親族の所在が判明したとの報に接してはいますが、それ以上の取り組みの進展は見られません。故郷の遺族や親族および同胞の心情を思うとき、たいへん残念なことです。人道問題として、遺骨の調査と返還の取り組みを行うという所期の約束が正しく履行されるよう、日韓両政府には求めていきたいと考えています。両国の政治やイデオロギーが、遺骨返還の障壁となっていることは、本宗としても看過できません。
集約遺骨の奉還へ向けての希望
曹洞宗がこのたびの「朝鮮半島出身の被徴用者等の無縁遺骨集約事業」で、関係協力寺院からお預かりしている無縁遺骨は、ひとまずは本宗の指定する納骨施設において仮安置されることになります。しかし、これは奉還へ向けての暫定的な措置にすぎません。一日でも早く、故国・故郷の同胞のもとへお返ししなければならないご遺骨です。
本宗は長期的な展望と視点に立って、人道の取り組みとしての遺骨の返還を日韓両政府が実施するよう粘り強く求めていきます。
あわせて、まだご報告いただいていないご寺院やその事象がありましたらば、随時その調査についても継続していく予定です。
日韓両政府・企業そして民間や宗教界も含めた稀有な取り組みが、実を結び、離れ離れになったご遺骨の御霊が故郷で安んじられますよう、心より祈願いたします。
(人権擁護推進本部記)