【連続インタビュー】仏教の社会的役割を捉え直す⑥
前回は、前田伸子先生(鶴見大学副学長、同大学歯学部教授)に、大本山總持寺と鶴見大学が連携して取り組んでいる「終末期医療を支援する臨床宗教師等の育成事業」についてお話をうかがいました。今回は、引き続いて、地域と連携して積極的に社会貢献のあり方を模索する總持寺と鶴見大学の実践についてお話をうかがいます。前田先生のお話は今回が最終回となります。
聞き手・構成 (公社)シャンティ国際ボランティア会専門アドバイザー・曹洞宗総合研究センター講師 大菅俊幸
前田伸子氏に聞く(第2回)地域と連携するお寺と大学
●地域と總持寺と鶴見大学
――こうしてお話をうかがって感じることですが、地域社会において人々とどう接するかを大切にされた瑩山禅師以来の伝統がおありになるからでしょうか。總持寺と鶴見大学の皆さまには社会との開かれた関係を築こうとする積極的な姿勢を感じます。
前田 今、地域というお話をされましたけど、鶴見という地域にとって總持寺というのは、とても大きな存在のようです。また、鶴見に大学が一つあるということもとても大きなことなのです。ですから、地域の活性化のために、總持寺と鶴見大学がさらに一緒になって貢献していかなければと思っているところです。
年に1回のイベントで「つるみ夢ひろば in 總持寺」というものがあります。總持寺が中心になって地元の方たちと連携して行っているものです。
年々、色々な催しを行って賑やかなんですが、昨年のイベントでは、總持寺、鶴見大学、地域の方から、それぞれシンポジストが登場して、總持寺の三松閣で「鶴見の未来を語り合う」というシンポジウムを行い、地域の活性化のためにはどうしたらいいかについて話し合ったんです。十分な広報ができなくて、どれぐらいの人が来てくれるか分からなかったんですが、地域の方が何人も来てくださいましたね。
そこで地域の方から出た意見がどういうものだったかというと「もっと、日常的に總持寺と鶴見大学に関わっていきたい」ということでした。
たとえば、石川県輪島の總持寺祖院の場合は、寺院周辺が門前町という名前になっていますし、歴史ある古い家を活かす、というたたずまいで、とても趣きがありますよね。そんなふうに、鶴見大学に面している豊岡通りは總持寺の参道にもあたるわけで、もっと町や通りの中に總持寺の雰囲気に触れるようなものがあってもいいのではないか、という意見が地域の方から出ているのです。
じつは昨日もその方々と相談をしていたのです。地元の方が、今度、新しいビルを建てる際に、何かお寺と直結したカフェみたいなものをやりたいという意向をお持ちなんです。
直接足を運ばなくても町の中で總持寺の雰囲気に触れることができる。そこで触れたら、今度は実際に總持寺に行ってみる。学生もその中のイベントを担う。そういうことがあってもいいのではないかと思うのです。
そこで私が考えたのは、コミュニケーション能力を学んでもらった若いお坊さんに来てもらって、地域の方々とお話をしてもらう、ということです。それを一種の実習の場のようにできたら、お坊さんと話をしたいという人が来たとき、お坊さんとしての話を期待されたとき、どのように話をするか。そういう鍛錬になっていいのではないかと思います。これは決まったわけではなく、まだ私が勝手に想像していることですが。
――たしか、鶴見駅の駅ビル(CIAL鶴見)の中に「禅カフェ」がありましたね。
前田 そうなんです。あそこは、オープンしてもう5年になるんですけど、毎週、小さなイベントを行っています。大学としては鶴見大学と駒澤大学だけですが、お寺は總持寺のほか建長寺とか、曹洞宗と臨済宗のお寺が一緒になって取り組んでいるものです。普段でもお茶を楽しめますが、火曜日と金曜日の午前中には、短い法話を聴いて坐禅を組んで、その後で、お茶をいただく、というイベントです。
それから、同じグループが、毎年11月3日に、鶴見大学会館の地下にあるホールで、「わかりやすいZen禅」というイベントを行っています。曹洞宗や臨済宗の僧侶が来てお話をして、椅子坐禅の体験をする、という内容です。これがけっこう好評で、ホールは300名収容できるのですが、来場された方たち全員が入れなくなるぐらい、人が溢れます。
機会があれば禅に触れたい、坐禅をしてみたいという人がいるんですね。
興味はあるのだけれど、どこに行けばいいのか、どうやればいいのかわからない、という現状なのだと思います。
檀家というつながりは疎遠になっても、一般の方はチャンスがあれば知りたい、近くにそういう場があるのであれば学びたい、と思っているのでしょう。
ですから、修行僧の方が總持寺を離れて地域に戻っても、お寺を中心として、檀家さんだけではなく、地域の皆さんと一緒に何がやれるか、ということをしっかり考えていただきたいと思っています。実際そのように実践されている
方はたくさんいらっしゃいます。そうすることで、檀家さんとのつながり、ということだけではなく、地域のつながり、という点から、お坊さんやお寺はもっと人々に必要とされる存在になるのではないかと私は思っています。
總持寺は、昔から地域との連携に熱心に取り組んでいます。毎年、境内で盆踊りもやっています。この2、3年、鶴見駅が混雑するぐらい、何万人という人が来るらしいですよ。
――1997年のころだったでしょうか、總持寺の境内に仮設ステージを作らせていただいて、シャンティがチャリティコンサートをやらせていただいたことがあります。地元の大勢の皆さんが参道を登って集まって来られました。總持寺が地域の人たちに親しまれていることを実感したときでした。
先ほど、お寺と直結した町の施設のようなものを模索しておられるとのことでしたが、具体的にはどんなことを考えているのでしょうか。
前田 地域の人たちと話したなかでは、坐禅をしたり精進料理を習ったり、食べていただいたり、ということが話題にあがっています。今年の5月、總持寺が横浜ベイシェラトンホテルとコラボレーションした精進料理の企画があるそうです。典座寮の人たちがレシピをきちんと伝えて、ホテルのシェフが總持寺のレシピで料理を出したら、ものすごい人気だったそうです。精進料理をもっとカジュアルに食べたい、習いたい、という人がいるんじゃないかと思います。健康志向が高まっているご時世ですから。
こちらからお願いするというのではなくて、地域の方から、ぜひ總持寺や鶴見大学と一緒に地域の活性化に取り組みたい、と言ってくださっているので、この機会にお応えしなかったら申し訳ないと思っています。地域に貢献することも大学の役割であると思っています。
――シャンティも、鶴見大学には、これまで様々ご協力いただいて有り難く思っております。最近のこととしては、東日本大震災の後、鶴見大学の学生の皆さんがボランティアとして、シャンティが活動していた気仙沼に何度も来てくださいました。地元の子どもたちの勉強をみてくださる活動に取り組んで、その活動のことを「まなびーば」と呼んでいました。
前田 そうでしたね。
――こちらが嬉しかったのは、学生さんの方から「気仙沼の子どもたちに勉強を教えるボランティアは必要ないでしょうか」と問い合わせをいただいたことです。そして地元の小学校に問い合わせたら「ぜひお願いします」という返事だったので、学生さんに行っていただいたわけです。震災の影響で地元教師の皆さんが授業の遅れを心配していたので助かったと思います。
前田 親御さんや先生方が忙しくて手が回らないということで、私たちのボランティア活動は子どもたちを対象にしたのです。大谷小学校と鹿折小学校でしたね。夏休みとか、冬休みとか、長期の休みのときに活動しました。最初は地元の民家を借りてやっていましたが、その後、小学校に泊めていただけるようになりました。
最初はご近所の方に何をしているんだろう、と思われた部分もあったようですが、継続しているうちに毎回楽しみにしてくれるような感じがありましたね。大谷小学校の先生方はとても意欲的で、学校側と学生ボランティアの間には強いつながりが生まれていたと思います。
――気仙沼には前田先生も学長先生も来てくださって、前田先生にはシャンティの気仙沼事務所にも立ち寄っていただきました。ありがとうございました。NGOと大学が連携した1つのモデルケースにもなったと思います。これからもご一緒にできることがあれば、ぜひ、連携させていただければと思います。
前田 こちらこそ、よろしくお願いします。
――この度は2回にわたって、時代の要請に応えようと修行僧の新たな研修に取り組まれ、地域と連携して積極的に社会貢献なさっている總持寺と鶴見大学の実践についてうかがうことができました。貴重なご示唆をいただいて本当にありがとうございました。
(次回は8月2日配信予定)