【International】コロンビアでの曹洞禅の実践
コロンビアは南米の発展途上国の一つであり、現在、5,000万人近い人々が暮らしています。コロンビアと聞くと、多くの人は麻薬やその密売を連想します。しかし、この国の歴史は麻薬カルテルだけでなく、様々な原因によって生み出された、継続的な苦しみの中で捉えられてきました。
貧困、腐敗、社会の不公正に加えて、1940年代末以降、反政府勢力のグループが現れ始め、長年にわたってテロ行為や誘拐を行い、現在も政府は彼らと戦っています。
幼い頃、私はエメラルドディーラーたちの争いを目撃しました。思春期には、麻薬カルテルの武力闘争がありました。そしてその後、右翼政府によって支持された軍隊は、全村を荒廃させ、農民から土地を取り上げました。
私は生まれてからずっと内戦の中で過ごし、継続する暴力で汚染された社会の中で人生を生きてきました。
1989年、私たちの国の歴史のなかで最も暴力的な年に、友人のグループとともに、私はヨーロッパでの数年間の修行の経験に基づいて、定期的な坐禅修行を始めようとしました。しかし、修行を指導する認定された教師がおらず、このサンガは繁栄しませんでした。ですが、この種子は何年もの修行期間を経て、2001年に日本の安泰寺で曹洞宗の正式な出家得度を受けるきっかけとなり、新しい禅道を始めることができた種子であったのです。
さらに翌年、私の師匠である奥村正博老師がコロンビアを訪れ、数名の修行者が戒を授かり、得度することができました。
奥村老師の訪問後、私たちはサンガとしての活動の発展を続けました。そして、ある日、我が国で精神的にあらたな道を提供するため、コロンビアの制度に基づいた組織を作るべきであると決心しました。
1991年まで、コロンビアは正式にカトリック国家であり、すべての精神的及び宗教的な問題はカトリックの団体によって決定され、それはまた国の法律に重大な影響を与えていました。その年の憲法改正後、信教の自由が認められ、多くの団体がローマカトリックとは違う祈りの場を政府によって認定されました。
様々な精神的・宗教的表現のグループが発生し、そのなかで、私たちが仏教団体として認められれば、宗教的に寛容な環境でこの数千年にも及ぶ修行の実践を提供できると考えました。そしてそれはコロンビア政府が曹洞宗を宗教団体として認めることを開始した経緯でもあります。2009年、私が奥村老師から伝法した年に、私たちのサンガである曹洞宗の大心寺はコロンビアで公的に認められました。
2013年、私は、師匠と南アメリカ国際布教総監采川老師のご支援のおかげで、国際布教師の任命を受けることができました。法燈を伝持する誓いの実践を続けていくために、曹洞宗の支援を受けました。
私たちはこの寺院で活動を始めて以来、最善を尽くして修行をしています。私たちは毎日坐禅会を開き、日分、月分行持や特別な法要も行います。たとえば在家及び出家得度、布薩、葬儀、結婚式、赤ちゃんを迎える灌頂会などの法要を行います。
また私たちは大学や他の場所で一般の方を対象に仏教の公開講座を行ったり、公園で自由参加の坐禅会を開催したり、年に四回の摂心を行ったりするなど布教活動を行っています。さらに禅に関するスペイン語の書籍が不足しているため、いくつかの本を出版し、曹洞宗や仏教、禅の教えに関する学習のために翻訳活動も行っています。
2013年、南米に曹洞宗の教えが伝わり110周年を迎えた年に、ペルーのリマで記念法要が行われ、その際にそこに集った国際布教師が、この大陸の様々なサンガ同士のつながりを強めることが重要だと話し合いました。そこで、毎年異なる南米の国で「ラテンアメリカ禅の集い」を開催することが決定されました。2016年の第3回ラテンアメリカ禅の集いはコロンビアで開催されました。
その年には、50年以上の戦争と長い交渉の結果、コロンビア政府はラテンアメリカで最も古いゲリラ集団と平和協定を結びました。しかし、経済的及び政治的利益と長年にわたって行われてきた武力闘争による憤りと憎しみのために、国民の多くがこの合意に反対し、現在も完全な平和は非常に遠い目標となっています。
ラテンアメリカ禅の集いを通して、私たちは曹洞禅を一般の人々に認知してもらう機会を作り、この国の改革の方法として禅の修行を提案することができる様になりました。私たちは、釈迦牟尼仏と道元禅師、瑩山禅師の教えに基づいて、より調和した、寛容で、礼儀正しく、友好的で、平和な社会の構築のために具体的な手段を提供しています。多くの紛争、不平等、貧困で苦しみ、血が流れている状態の私たちの国では、自分自身が光の灯びとして立ちあがるときが来たと確信しました。活動を通して、苦しみを和らげ、人間関係のあり方や人生全般について、もう一つの方法を提案するときが来たのです。
このような状況で、私たちは、即席の禅、また他の慣行と混合した禅を提供するのではなく、道元禅師と瑩山禅師の教えを、正伝の仏法として伝えていきたいのです。これを達成するために、私たちは奥村老師から多くの助言をいただきました。
私たちは何ヵ月もの間、ラテンアメリカ禅の集いの成功のために懸命に働きました。その結果、曹洞宗の僧侶だけでなく、様々な団体の宗教者約20名を迎えることができました。
その中でも私たちは、吉谷大憲老師を迎えることができたことを誇りに思っています。吉谷老師は、長崎県にある妙本寺の住職であり、血脈に関して私たちにわかりやすく丁寧に教えてくれました。
禅の集いの良い成果は、様々な方々のご協力とサポートのおかげによるものでした。曹洞宗の支援、プレゼンテーションを行ってくれた芸術家、12ヵ国以上からボゴタに集合してくれた多くの参加者、また寛大な気持ちで教えを伝えてくれた僧侶たち、南アメリカの様々な地域のサンガが全体の取り組みを支え働きかけてくれたこと、ワークショップに出席した一般市民、すべてに感謝をしています。特にボゴタ市の協力者たちは、努力、仕事、時間とお金を提供し、このユニークな集いを実行することができたことに深く感謝しています。
仏教の最も素晴らしい教えの一つは、存在するものすべてが相互依存しているということです。私たちが一つである、別れていないというこの現実に目を覚ましたとき、私たちの行動は妨げるもののない自然な生き方になります。
第3回ラテンアメリカ禅の集いは、すべてのものが他のすべてのものと密接な関係にあるという広大な関係性を証明する特別な機会でした。それぞれがそれぞれの役割を果たし、すべてが調和していました。その結果、私たちは今後の道筋の基盤を社会に提供することができ、長年の内戦で私たちの国を脅かし続けてきた憎悪と不寛容の根を治癒できる社会の構築に、創造的に貢献することができました。
平和はそれ自体が目的ではなく、他の存在や自然と調和して生きることを感じることができる唯一の方法です。
私たちの行いや私たちが生み出す結果について責任を持つことは、人間として私たちが生き残り、この壊れやすい惑星のバランスを維持することができる唯一可能な方法であります。
多様なスピリチュアルな教えや新興宗教が広まっている中で、人々は揺れ動いています。しかし少数の人々は、私たちと同じ修行を続けています。コミュニティを維持することは容易なことではありませんが、困難に負けないためには忍耐と継続的な努力が必要です。歴史は私たちに、新しい土地に仏法を根づかせるには数十年、いやおそらく何百年もかかることを示しています。我が国で仏法の繁栄を妨げる最大の困難の一つは、経済的資源の不足です。仏法を開花へと導くお布施のような寛大な伝統はありません。安定して活動する場所はありますが、それはとても小さいものです。時々、場所が非常に限られているために、私たちが行いたい活動を発展させることができなく、その上、仏教を知りたい多くの方がいるなかで、ごく少数の方しか受け入れることができないこともあります。
あるとき、北アメリカ国際布教総監の秋葉老師は、「僧侶の人生は自分が寺院の住職になったときに本当に始まる」とおっしゃいました。偉大な仏祖の伝燈は、正式な寺院を設立することの重要性の好例であり、そして、行持し続けることこそ、仏法の種が本当の意味で開花するということであるのです。それゆえ、私たちは正式に仏教寺院として認定されるための取り組みを始め、これが私たちの国の人々に多大な利益をもたらし、またその寺院が私たちの国の平和と幸せの種の源泉になると確信しています。
コロンビアでは、人々に苦しみをもたらす無知な心の暗闇から抜け出す唯一の方法を示している菩薩行が早急に必要な国です。コロンビアは仏法が未だ根づいていない地であり、やるべきことはたくさんあります。斎藤芳寛老師は「ダルマは保護されている」とおっしゃっています。私たちは、継続的かつ真摯に修行を行っていけば、新たな方法で布教活動を広げ、苦しみと平和の解放につながるこの道を制限なく提供できる状況となることを確信しています。
三宝に深い敬意を払って。
(南アメリカ国際布教総監部訳)
コロンビア共和国ボゴタ市 大心寺
南アメリカ国際布教師 キンテロ伝照