【International】ヨーロッパ国際布教総監部に赴任して
私がヨーロッパでの国際布教を志すきっかけとなったのは、多くの外国人僧侶との出会いでした。
私は長い間、愛媛県の瑞応寺専門僧堂で副監事として安居僧の修行生活の指導などにあたっており、平成20年に曹洞宗がフランス・禅道尼苑に開設した第2回目の宗立専門僧堂のお手伝いをする機会をいただいたのです。この宗立専門僧堂は、年に一回、20名ほどの海外の僧侶を対象にして、海外もしくは日本国内の寺院で開単し、3ヵ月間の安居を修行していました。私はその内の第2回(平成20年開設:フランス禅道尼苑)から第7回(平成25年開設:宮城県長泉寺)までの計6回の安居に、講師あるいは副監事として参加いたしました。
初めて参加した第2回のフランス・禅道尼苑での宗立専門僧堂では、私は慣れない外国と、安居期間の途中からの参加ということもあり不安で一杯だったのですが、外国人僧侶の方が客行和尚さんのようになって、親切に対応してくださいました。初めて彼らが坐っている禅堂に入ったときには、ピリッと張り詰めた雰囲気を感じました。外国人僧侶が真剣に結跏趺坐する姿に心打たれ「私もできるだけ結跏趺坐で坐ろう」と思ったのを覚えています。
無論、人と張り合うために坐禅している訳ではありません。ただ、瑞応寺専門僧堂でも外国人の安居僧がいましたが、日本人僧侶の中に外国人僧侶が入って来るのと、自分が外国人僧侶の中に入って行くのとでは、まったく違った感覚でした。そのような道場の良い雰囲気は、そのとき指導に当たられた老師方の老婆心から醸成されているものであり、とても勉強になりました。
翌年からは、宗立専門僧堂の開単準備からお手伝いさせていただくようになりました。第4回(平成22年開設:熊本県聖護寺)以降は日本で開催されるようになり、後にヨーロッパ国際布教総監になる佐々木悠嶂老師も指導に加わりました。
佐々木老師からは「日本の専門僧堂では、古参の安居僧がいて、後から新到の安居僧が入ってきますが、宗立専門僧堂では、三ヵ月間の安居のためにだけ来る新到しかいません。ですから貴方には、安居僧が朝起きて洗面するところから、開枕して布団を敷いて寝るところまで、僧堂生活の進退・作法のすべてを教えてほしいのです」と言われ、浅学菲才の私にどれ程のことができたのか分かりませんが、結果的に何度も外国人僧侶と一緒に修行させていただくことになりました。
そのようなご縁をいただき、平成28年秋に、佐々木老師より「言語や国境、文化の制約を取り外した禅のエッセンスとは何かを自分自身に問う機会になるだろうから、今度はヨーロッパに教えに来てみてはどうか」と勧められ、国際布教師に志願いたしました。
そして平成29年2月、ヨーロッパ国際布教師として、またヨーロッパ国際布教総監部書記としてフランス・パリに赴任することとなりました。
その当時は、ヨーロッパ国際布教50周年記念行事が同年5月に控えていたため、総監部の職員は慌ただしく準備に明け暮れている時期でした。50周年記念行事当日は、私は主に法要会場の準備や、法要の進退をそれぞれのヨーロッパ各地より随喜の僧侶に指導する役を担当していました。
この行事には世界各地から500名の僧俗が参集していました。法要当日の暁天坐禅には、坐禅している僧侶で本当に足の踏み場もないほどに法堂全体が埋まり、その参加人数の多さと行事の規模の大きさに圧倒され「私が本当にこの大法要を監督できるのだろうか」と一抹の不安を覚えましたが、大勢の僧侶と坐禅をしながら、「彼らと共に無事に行事を成功させなくては」と強く決意しました。み仏のご加護があってか、記念行事は大盛況のうちに終え、総監部の職員一同、安堵に胸をなでおろしました。
それ以後は、ヨーロッパ国際布教総監部事務所で書記として日常の業務にあたりつつ、管区内各国の寺院へ参禅や法式指導等の支援活動を行っています。日本の曹洞宗の総監部の一員として、ヨーロッパ中の寺院・禅道場の僧侶たちと会って話し、信頼を得ていくことも大切な活動だと思っております。
管内の大きな寺院では、すでに差定や作法が整っており僧堂も完備され、僧堂飯台も行われています。そのような寺院を訪問した際には、在家の参禅者が僧侶に混じって浄人をしていたり、略飯台では応量器の刷の替わりにパンを使って器を拭っていたり、と日本の専門僧堂では見られない光景に、はじめは衝撃を受けることもありました。もともとヨーロッパでは在家者を中心に禅が広まってきたという経緯がありますので、私も段々と感化され、今では僧俗共に修行することにすっか
り慣れてしまいました。
しかし、ヨーロッパでは僧堂がある大きな寺院はごく少数で、テナントや自宅の一室を禅堂にしている小規模な禅道場がほとんどです。少人数ながら僧俗共に、日々の坐禅に勤しんでおりますが、そのようなグループになりますと、ちょっとしたことに疑問を持っていても、自分たちだけではなかなか答えが見つからないといった状況があります。たとえば雲版や魚鼓を自作してみたものの、使い方が分からない、槌砧を打つタイミングがわからない、間違いを指摘する人がいなかったので、何年間も殿鐘を間違った鳴らし方で打っていた、などと、実例を出すとキリがありません。そういった些細なことであっても実際にやり方を見せて説明すると、小さな禅道場でも日々の修行生活が充実し、非常に感謝されることがあります。このようにしてヨーロッパの僧侶や参禅者と交流を深める活動をしております。
数ある仏教諸宗派の中から曹洞宗を選び、日夜参禅弁道に励む、そんな彼らの修行の一助となれよう、これからも精進してまいりたいと思います。
(記:ヨーロッパ国際布教総監部 吉松聖博)