迷える中年ライターが『修証義』を書き写してみた ~曹洞宗のお経を一般人が読むと?(第4章・第25節)~
初めて触れる『修証義』の本文を読み、鉛筆を手に書き写し、また現代語訳を読む中で感じた事を率直に語っていきます。第25回は、第4章「発願利生」の第25節について。
第25節 「功徳を礼拝恭敬すべし」
■ライターはこう思いました
4章を締めるかたちで、短く語られているこの節。いい機会なので、ちょっと振り返って見たいと思います。
この4章ではまず大きなキーワードとして「菩提心」が存在しています。
菩提心とは仏のように考え、それを実践する気構え(と簡単に略しますが)。それを持つことができれば、幼い少女でさえ多くの人を導く師となれる、それほど重要なものだと言っていました。
菩提心の根幹にあるのは、自分よりもまず他人を、そして生けとし生きるものすべてのことを考え救うための行動をするべき、とされていました。
ここ、とても重要です。
そのあとに、多くの人を救うための具体的なマイルストーンとして「布施(施すこと。思いやり、分かち合いの精神)」「愛語(他者に対する慈しみの感情、そして実際的な行為)」「利業(利他行為によって自分も心が救われる)」「同事(自分と他者の区別なく思いを巡らせる)」の4つのルールを挙げて解説してきていました。
さて。
もしもお暇があればもう一度振り返って読んでいただきたいのですが、改めて振り返ってみると、これらはすべて「自分の事は後回し!」という基本ルールにのっとっています。のっとるというよりも、いろいろ語って、でも結局ぐるりと元に戻っている、と言ってもいいでしょう。
4章を費やし、結果的には「自分を後回しにしなさい」と言っている、私はそう読みました。
実はこれって、宗教の成り立ちを考えるとかなり独特なものの考え方かもしれません。
厳しくも豊かな自然環境から発生し、石の文化の中で育まれたキリスト教は、自己救済と自己研鑽を旨としていると考えられます。より厳しい環境で生きる人たちに向けて発展したイスラム教は、自己のアイデンティティと家族の重要さを通じてよりよく生きるための宗教だと感じます。
しかし、この「修証義」4章を大切な部分として読むのであれば、そこには「他者を通して、他者に思いを巡らせ手を差し伸べる事で、世界を良くし、結果的に遠回りに自分も幸せになる」ことが書かれています。
なんて厳しくて優しい考え方なのでしょう。
ところで、この短い25節には、逐語訳がされていない部分があります。
「道理静かに思惟すべし、卒爾にすること勿れ」という部分です。
思惟は、思いはからうことという意味と、分別することという意味があるそうです。卒爾には、軽んじることという意味があります。
つまり、「すぐにはピンとこないかもしれないから、きちんと心の中で噛み砕いてくださいね。そしてすごく重要なことだから、軽く考えないでね」ということです。
人はよく、失敗したりしたときの言い訳の冒頭に「わかっちゃいるけど……」というような言葉を乗っけてしまいます。理解はできるけど実践できない、認識はしているけど実行に移せない、そういうときのエクスキューズです。
わかります。私だって締切を前にすると、そう心の中でひとりごちますし。
でも、菩提心とはきちんと思惟し卒爾にすること厳禁な、大切な目指すべき心のあり方なのですね。なんども言いますが、さらりと厳しいこの感じ、これこそが仏教の持ち合わせている「雰囲気」だといえます。だからこそ、信頼したくなるのです。
■禅僧がライターへこう応えました
本節はロイさんもおっしゃっているように『修証義』第四章の結びに当たります。
第四章の冒頭では、(たとえ自分は未だ救われていないとしても)多くの人びとに仏さまとのご縁を結んで頂きそれを通じて救われてほしいという願いを立てる、という仏教信仰者としての誓願について説かれます。その上で、具体的には4つの生き方(この連載では「気持ち良く生きるための4つの定理」という言葉が使われました)の実践を通して、お釈迦さまが説かれる人間としての本来のありかたに気づき、仏としての生き方を目指す、ということが説かれています。
「4つの定理」の根底にあるのは「人は一人で生きているのではなく支え合いの中で共生している」という考え方です。ですので、施しをしたり思いやりの気持ちで声を掛けたりすることが望ましい行為として浮かび上がってきます。それは、こうした行為をすることで、喜びを感じ気持ち良く生きることが出来る、と考えるからです。ともすれば、「4つの定理」は自己犠牲のように思われてしまいますが、以上の仕組みを考えると、自己犠牲と明確に区別する必要があります。ロイさんがおっしゃる「自分を後回し」の生き方が、結果的には「幸せへの近道」と言えるのかも知れません。
さて、次回からいよいよ『修証義』も最終章に入ります。最後までともに読み解いて参りましょう。
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