【International】曹洞宗国際布教の今後について
平成16年のことでした。自身の浅学非才を顧みず、曹洞宗の国際布教の一翼を担いたいと立志、北アメリカ国際布教師を拝命し渡米いたしました。
渡米直後は、カリフォルニア州の好人庵禅堂やその他いくつかの寺院・禅センターで滞在修行し、約1年間に渡りアメリカという国と、そこで展開される曹洞禅、またそこで暮らす人々について見聞することができたことは、後の活動に大いに役立ちました。そして平成17年より、曹洞宗国際センターに勤務する好縁をいただき、本年3月、14年にわたる国際布教活動に終止符を打ち、日本に帰国しました。
この度、曹洞宗の国際布教の将来について寄稿する機会を頂戴しましたので、諸先輩方や、今もなおそれぞれの現場で活動を続ける国際布教師を差し置き、僭越ではございますが、述べさせていただきます。
1903年にペルーで始まった曹洞宗の国際布教は、現在ハワイ・北アメリカ・南アメリカ・ヨーロッパの各国際布教総監部管内に約1,000名の宗侶が活動し、関連道場を含めると約760ヵ所の寺院や禅センターが存在しております。この数は、今後も引き続き増加していくものと推測されます。
このような状況下で、これまでのように「国際布教」という言葉を以て、世界を一括りにして扱うことには、それぞれの地域における宗侶や寺院・禅センターの状況、現地法人組織の形態、法律や文化、風習の違いなど、様々な要因により、無理が生じているように感じられます。
また、これまで曹洞宗では、外国籍僧侶の資格や寺院・禅センターの組織の登録などについて最大限考慮し、該当する規程を変更しながら対応してきましたが、将来的に同様の手続きをし、適応させていくことは限界を迎えているとも言えます。やはり、「曹洞宗宗制」は、日本の法律や社会構造、文化などを根底として確立されたものであり、これ以上の変更を加えることは、該当する規程自体に影響を及ぼす可能性もあります。
さらに、少子高齢化・人口減少を迎える社会情勢のもと、日本国内の各寺院においては、その護持運営がより厳しくなることが予想されております。そのような状況で、限りある宗門の予算を海外にこれからも継続して現在と同程度支出し続けることは難しくなるのではないでしょうか。
このような事情を考慮しますと、年月を要しても、それぞれの地域において自主的に運営する組織と制度を、各国際布教総監部や国際センターが支援をしながら構築し、ゆくゆくは財政的にも独自に賄うことができるように体制を整え、曹洞宗宗務庁とは組織同士で関係性を維持していくことが最良の策だと考えます。
たとえばアメリカでは「カリフォルニアロール」という巻き寿司をよく目にします。その発祥は、寿司の文化がまだ定着していない頃、アメリカ人が海苔を剥がして寿司を食べる光景を見た寿司職人が、海苔を内側に巻き込み、またアボガドなどのアメリカ人に馴染みのある食材を入れて作ったことが始まりと言われています。それが今ではアメリカの食文化に定着しています。これは、国際布教にも同じことが言えるのではないでしょうか。そこで暮らす宗侶によって、それぞれの地域に適した形で、本質を変えることなく展開されていくことが、最初は日本から見れば違和感があるかもしれませんが、将来的には安定した布教形態となっていくのではないでしょうか。同じ巻き寿司でも、巻き方や巻く具材に違いがあるだけで「巻き寿司」に変わりはありません。
各国際布教総監部では、平成22年よりロードマップを作成し、将来的に望ましい総監部運営のあり方について検討がなされております。特に、北アメリカ国際布教総監部においては、一昨年から、総監部役職員、国際センター役職員、そして北アメリカ国際布教師によって作業部会が構成され、北アメリカの状況に適合する制度を策定するべく協議が続けられております。
微力ながら私自身もその一員として、主に自主運営のための制度をどのようなものにすべきであるのかという部分について携わりました。
その中で留意した点は、曹洞宗との関係性を維持するうえで必要となる事項についてであり、特に僧侶の法階(上座・座元・和尚・大和尚)に関する箇所でした。中でも瑞世拝登については、やはり曹洞宗僧侶である限り、現在と同様に両大本山への拝登はするべきであろうと考えます。そうすることで、たとえ異なる地域や場所で修行をしようとも、両祖さまの法系に連なる者としての自覚と共通認識が醸成されていくことになるものと確信しております。
このような取り組みがなされている状況を考えますと、これから創設される海外の曹洞禅組織との関係について、各国際布教総監や国際布教経験者などを含め、早急に協議する必要があると考えます。
そして、その自主運営を推進する時機は、日本人宗侶から直接指導を受けた草創期の外国籍僧侶が健在な今をおいて他になく、この時機を逸することがないことを願うばかりです。
その自主運営が順調に行われるまでは、外国籍僧侶の育成は、引き続き宗門が主導していくことが必要であり、そのためには、海外に伝統的修行を行うことができる僧堂を開設することが望ましいと考えます。宗立専門僧堂など、外国人が日本の僧堂に安居している状況もありますが、法式作法が修得できたとしても、短期間では言葉の壁により、教学についての履修はかなり困難であります。
また、今後ますますグローバルに展開される曹洞宗の国際布教を考えますと、将来的には日本人以外の師家の存在や養成、また、相互に交流することで、日本人僧侶にとっても語学の修得のみならず、大変有益なものをもたらすことになると考えます。
何事も一朝一夕で進展するものではございませんが、今後さらに様々な可能性がある国際布教の将来について、多くの皆さまと共に関心を持って見守り、機会に応じて一助となり、曹洞禅が世界の人々の安寧にますます寄与しましたならば、この上ない悦びであります。
(前国際センター主事 高知県 願成寺 伊藤祐司)