「能登地域寺院調査 現地報告会」に参画して~過疎問題を考える~(第2回)

2018.05.29

「能登地域寺院調査 現地報告会」に参画して ~過疎問題を考える~(第2回)

報告者:平子泰弘(曹洞宗広報委員)

平成29年8月末に能登地域の寺院を対象にしての寺院調査が行われました。調査後、数回の分析及び検討会議を経てとりまとめられた調査結果が、七尾市にて開催された現地報告会で披露されました。ここでは、前回のレポートに引き続き、現地報告会における後半の報告と、ワークショップの様子、さらにそこで出てきた意見なども含めてレポートします。(連載第1回はコチラから)

 

 今後の寺院活動の可能性とは?
先の三先生による分析結果の発表(前号参照)を受けまして、最後に調査・分析の結果を通して、各寺院における今後の活動への指針を示すべく、平子泰弘(筆者)より「今後の活動の可能性」と題して報告をいたしました。
ここでは先の三先生の分析をもとに、
 ①継続している寺院行事や地域のつながりをどのように保っていけるか
 ②檀信徒とのつながり、特に他出子との結節点をいかに作っていけるか
 ③寺院に求められている役割や活動をいかに把握していけるか
以上、三つの視点を置き、寺院活動を分析しました。
そして、調査した各寺院の様ざまな活動を7つに分類して紹介し、檀信徒へのはたらきかけについての再評価をしました。

 分類1:寺院を開放して人びとに来てもらう機能を強化する活動
現地で行われている「認知症カフェ」の開催事例、地域の防災訓練を寺院で実施している事例や、「山の寺寺院群」(※)を活かした寺院の文化的財産の宝物展(山の寺の日)の開催などがこれにあたります。既存の寺院の役割以外の活動を通して、檀信徒や一般の人びとが訪れる機会を作る効果があります。
(※前田利家公が七尾城の防御目的で周囲に配置した寺院群で、観光地となっている)
 分類2:若い人たちにお寺への帰属意識を高めてもらう活動
寺院を利用したカフェの開催、ペット供養、ホームページなどを利用した情報発信、そして現地に古くから残る習俗「コンゴウ参り」などがこれにあたり、新たな結節点を作るのに効果があります。「コンゴウ参り」は嫁いだ娘がお盆の時期をずらして実家のお寺にお参りするという独特な風習ですが、若い世代に改めて寺院とのつながりや供養を知ってもらうきっかけとなり得ることを感じる行事となっています。いずれも、これまで寺院と接点がなかった人びととのつながりを生みやすいという効果があります。
 分類3:地域とお寺が一体化を図るための活動
具体的には先に挙げた「山の寺寺院群」を活かし、地元の各団体と協働して行われるイベント「七尾山の寺の日」の開催、あるいは、恒例行事として各寺院で行われる涅槃会の団子作り、団子まき、除夜の鐘、太子講などの各行事があります。地域の青年会や自治会、商工会や地域行政などを巻きこんでの協働の行事は、寺院ばかりでなく地域の活性化にも繋がります。
 分類4:地域にある寺院を知ってもらう活動
各種の情報発信を取り上げました。手作りの寺報やパンフレット、ホームページ、ブログなどがこれにあたります。それぞれの効果を計りづらい面もありますが、寺院内の状況を閲覧者と共有できることや、住職の思いや教えを伝える手段となり得ること、特に遠く離れた他出子(他出者)にも情報を届けられるという点で、少なからぬ効果を生む活動です。
今回の調査で特に注目されたのは、曹洞宗石川県宗務所が行った県内全寺院のホームページ開設の活動でした。同地域における他宗寺院の開設率が数パーセントであるのに対し、曹洞宗では石川県内すべての寺院のホームページがあることは特筆すべきこととして、その取り組みの経緯が紹介されました。
 分類5:地域を離れた人たちとつながっていくための活動
ここでは行事のお知らせが取り上げられました。今回の着目点でもある他出子(他出者)への対応として注目された活動といえます。寺報の送付やホームページなどの発信を通して、離郷檀信徒の参加を促し、仮に参加できずとも菩提寺への帰属意識を保持させるなどの効果があります。他宗の調査においては「寺との連絡を取り合っている」檀信徒の寺院への満足度が高いとの結果が得られています。また、当地では県人会を始め同郷会の活動も盛んであると分かりましたので、今後そうした同郷ネットワークを利用した「離郷檀信徒の集い」開催の可能性も考えられます。
 分類6:年回法要を継続するための活動案
年忌のお知らせの有効性を挙げました。これは前回の那須先生の分析のなかでその効果が確認されたもので、再提案いたしました。
 分類7:地域の歴史を共有することによって人びとをつなぐ活動
これは葬儀や法要、お祭りなどの際に、消えつつある民俗を寺院が中心となって掘りおこし、地域の歴史のなかで成立してきた民俗を伝承していくという活動です。消えゆく風習などに込められた先人の思いを伝えることが難しくなる現代において、住職がそれを担うことは、先人からの伝統を受け継ぐだけでなく、地域のつながりも再確認してもらう効果があります。「烏帽子親・烏帽子子」の関係や、「縁借り」などの地域特有な文化的財産は、地域をつなぐ効果のあるものとして継承していくべきものです。

上記のように、特徴あるこれらの活動は、今後の寺院の効果的な活動として注目に値します。もちろん、ここでは取り上げていない新たな活動も考える必要があり、それぞれの寺院の環境や状況に応じた取り組みを考えることが大切です。

報告の最後には活動のポイントとして、
①持続可能な活動であること
②寺で行う意味(宗教性)の保持
③檀信徒や地域住民とともに行うこと
④人とのつながりを大切にすること
以上の4点を列挙させていただきました。

 

 盛り上がりを見せたワークショップ
今回の現地報告会では調査・分析の報告をした上で、参加した地元住職・寺院関係者が各8人ほどのグループに分かれて、意見交換を行うワークショップを実施しました。約40名が参加し、班毎に活発な意見交換がなされました。ワークショップではファシリテーター(調整役)から「お寺と地域は、どうしたら元気になるか」というテーマが提示されて、これに関して各参加者から自坊の状況や取り組み、問題点や課題、不安や愚痴など、さまざまな声がありました。
出される意見には、各寺の痛切な現状を述べる声が多く、徐々に変わりつつある地域の状況や寺院への関わりの減少に対する戸惑いの声がありました。特に世代が替わることによって付き合い方が変わってくることへの不安や、他出子・他出者の増加と、遠方の人との疎遠化などが問題として挙がりました。寺院の維持についても困窮する声があり、寺院活性化への取り組みと共に、解散や合併などの情報提供を求める意見もありました。また、当地域の状況として、教員などを兼職することで生活を安定させている場合が多いことや、坊守(寺族)が寺院の維持に努力されている様子など、詳しい実状が分かりました。
ワークショップは予定していた時間を超過してもなお熱心な意見の交換がなされました。その感想も、「時間が足らなかった」というものや、「もっと他宗の活動や状況を知りたい」との意見があり、こうしたワークショップの実施そのものが参加者にとって好意的に受け入れられていることが分かりました。そこでは互いに置かれた状況を確認するだけでなく、そのなかで取り組んでいる新たな活動を知りたいという意欲や、今後の課題について共に議論することの必要性を感じさせてくれるものでした。

近い将来、日本ではこれまでに直面したことのない更なる過疎化や人口減少が訪れることが予測されています。そのなかで、どのような考え方や対応が必要となっていくのかを、それぞれの地域で現場レベルにおいて、意識を持った僧侶の協働によって検討していくことが、今後有効なものとして機能していくのではないかと感じる貴重なワークショップでした。いくつかの班では、これまでにない新たな活動案が提案されるなど、積極的で頼もしい面を感じました。
今回の現地報告会を一つのきっかけにして、七尾地域で更なる話し合いの場が持たれることや、新たな活動が芽吹いてくことを期待します。

 

おわりに
今回の「現地報告会」は、協力いただいた寺院や七尾市仏教会に、最初に調査結果を報告することで謝意を示し、また調査結果を現地で利用して欲しい、との主催者の意図がありました。
そのような思いから、分析作業においても傾向を探り、あるいは背景を明らかにするような単なる研究に留まらず、現地に還元できて今後の検討材料となるようなものを示したいとの意識がありました。各先生の発表においてもその思いが随所に見られ、参加者からの感想にもそこに共感をいただいたことが感じられました。
改めて言うまでもありませんが、一言で「過疎地の寺院」と呼称しても、その環境・状況、そして住職の思いは1ヶ寺1ヶ寺異なるものであり、一つの施策が万事に効くわけではありません。

今後は各寺院において、自らの置かれた状況を的確に把握する診断力と共に、自らに合う取り組みを見出していく行動力が必要です。
また、住職1人の思いだけではなかなか状況を動かし難い際には、組寺や教区、仏教会、青年会などの組織や団体と、思いを共有しながら事に当たっていく組織力・団結力が必要になると考えます。そして教団としては、情報だけでなく様ざまな手立てやアイデアを持った上で、それぞれの寺院・住職に適った提案をしていくことが求められていくであろうと考えます。

今後も更なる情報収集と、そこからの提案に努めていきたいと存じます。