過疎問題現地報告 ~ 能登地域寺院調査に参加して ③

2017.11.27

過疎問題現地報告 ~ 能登地域寺院調査に参加して ③

報告者:平子泰弘(曹洞宗広報委員)

平成29年8月25日(金)~28日(月)の4日間にわたり、石川県七尾市を中心とした地域の各宗派の寺院調査が行われました。
この調査は過疎地の寺院の抱える問題を研究している「過疎地問題連絡懇談会」から多くの研究者・実務担当者が参加し実施されました。調査対象寺院は能登地域に多く点在する大谷派だけでなく、本願寺派、曹洞宗、日蓮宗、高野山真言宗と多くの宗派に及んでおり、こうした地域の伝統仏教教団寺院の住職に調査の協力をお願いいたしました。数時間の聞き取り調査を通して、地域の状況や近年の仏事などの変化、今後の不安などをお聞きかせいただきました。ここでは前回報告に引き続き、調査に同行したなかで感じたところを簡単に報告させていただきます。

⇒前回の報告はこちら(第1回第2回)から見れます

継承が危ぶまれる仏事
今回調査の能登地方は、かつて加賀一向宗としても有名で「真宗王国」と呼ばれる地域にあります。そのなかでおこなわれる諸々の仏事も、強く真宗の影響を受けているといえます。門徒さんの日々の生活における毎朝のお参りや報恩講などの講活動は、禅宗には見られない信仰生活としてこの地域に根付いています。また七尾市周辺の習慣として見られる「こんごうまいり(こんごうえ・金剛会・魂迎会・婚後会)」(※第1回連載参考)や、月忌参りなども行われており、曹洞宗寺院においても、こうした地域の宗教文化からの影響があるものと予想されました。実際に今回お話しを聞いた2ヵ寺の曹洞宗寺院では、真宗寺院での行事と同じように、年中行事や故人の供養が営まれていることが分かりました。
真宗寺院における仏事としては、毎朝、近隣の門徒さんが参加してのお勤め、月忌参り、祥月参り、家庭での報恩講。年中行事としては、正月の修正会、春秋の彼岸供養、こんごうまいり、お盆供養、千日詣、祠堂経、お七夜、除夜の鐘などが見られます。こうした各行事が継続して営まれていることが分かりました。一方で、各寺院においては参加者の減少、お参り依頼の減少、2つの行事の合併化、といった変化が起きていることが分かりました。
曹洞宗寺院の年中行事においては、修正会、涅槃会、花まつり、成道会、施食会、お盆供養、春秋の彼岸会、除夜の鐘などが行われ、この地域の習慣でもある「こんごうまいり」も行われていました。他宗の様子と同様に、参加者の減少やお参りの依頼も減ってきているとの話が聞かれました。こうした変化は葬儀後に行われていく供養、具体的には四十九日忌までの七日毎の七日参りや、祥月参り、年回法要それぞれにおいても同様でした。「これまで欠かすことなく営まれてきたものが、家庭の事情などで依頼されないケースが増えてきている」と耳にしました。
この地域においても、若い世代が七尾市街や金沢市内などに移住したり、住居を別にすることにより、家庭での仏事が伝わりにくいことが判明しました。また半農半漁や農家の生活から、会社勤めの生活に変化することから、仏事や地域の行事への関わり方が難しくなってきていることが挙げられていました。
各寺院の住職は、このように仏事や地域の行事をこれまで通り勤めていくことが難しくなりつつあることを感じているなかで、これまでの仏事・行事をできうる限り継続しようとそれぞれに努めていることが感じられました。そこには行事そのものの継承だけでなく、そうした(仏事・行事を行う)場の協働を通して、人びとのつながり、地域の一体感を再確認しながら、地域が継続していくことへの切望が込められています。その中心として寺院を活用してもらう、寺院を媒介して地域がつながっていくことを大切にしたいという各住職の思いをそれぞれに感じ取ることができました。

 

むすびにかえて
今回の調査において、過疎地における厳しい維持や運営の現状をお聞きし、またそうした環境のなかで、どのような対応や活動が試みられているかをお聞きできればと考えていました。檀信徒数の減少、檀信徒の高齢化、伽藍維持の困難、後継者の問題など、教団で行う宗勢調査でも明らかになっている傾向と同様に、悲観的な声が聞かれるかと想像していました。しかし、現場の住職方からは現状をそのままに捉え、それに対応している様子や、将来に対して不安はあるものの、今ある状況のなかでなすべき役割を務め、少しでも地域と人びとのために有益な活動をしていこうという静かなる意欲を感じることができました。
また、檀信徒にとってや地域のなかにおける寺院のはたらきや役割がどのようなものとして機能しているか、そして今後においてはどのようにあるべきかを考える材料をいただければと考えていました。前述のように、各住職が檀信徒を中心にしながら地域のことを考えて活動していますが、地域の人びとにとっても寺院の存在は、“我が寺”として認識していることを感じました。
今回、お一人の総代さんのお話しをお聞きできましたが、菩提寺を護持していくことを当然のこととして考えていることを感じました。こうした思いに支えられてこれまで維持されてきていることを確認できましたが、今後の世代交代のなかで「信仰」や「菩提寺意識」がどこまで継承されるかに、大きな不安を感じるところです。こうした点について今後の施策を講ずるべきではないかと感じたところです。
今回調査した七尾市地域は、過疎化による影響が顕著に見られるケースとまでは言えないと感じました。各地にはさらに過疎化の影響を受けている寺院があるかと考えます。しかし、そうした程度の差を問題にするのではなく、寺院としての変わらぬ役割の維持と、時代に応じた対応とを考えていかなければいけないのかもしれません。

今後、調査の結果が検討・分析されていくことと思います。そうした分析をもとにこれからの寺院に求められる対策を考えていけるよう、情報の収集を進めていきたいと考えます。