迷える中年ライターが『修証義』を書き写してみた ~曹洞宗のお経を一般人が読むと?(総序・第三節)~
初めて触れる『修証義』の本文を読み、鉛筆を手に書き写し、また現代語訳を読む中で感じた事を率直に語っていきます。第3回は、総序第3節について。
第3節「無常憑み難し、知らず露命いかなる道の草にか落ちん」
■ライターはこう思いました
さらりと読み終え、それからもう一度冒頭の部分に戻ると、また違った印象が生まれる。それがこの節ではないかな、と思いました。
導入部分で「時は移ろい、自分自身の体や命は自分ではままならない」ということをベースに、「死」というものは自分の意思でコントロールできない、ということを説明してくれています。
過去を惜しんでも戻れはしない。怪我や病気を避けることも自分ではコントロールできない。もし死に突然直面したら、それまで築き上げてきた人脈も財産も、家族や友人も、何の役にも立たない。
うーん、相変わらず、結構キツめのことを言っています。
そして結論として、最後の最後には、それまでに自分が為してきた「よい行い」と「悪い行い」の結果だけしか残らないのだ、そう言っています。
一読すると、ふむふむ、おっしゃる通りだなあ、と感じます。
もちろん、一切合切がコントロール不能であるとはいえません。体は自分の意思で鍛えたり養生したりできます。病を得たら治療はできますし、予防に気を配れば感染症は避けられます。
でも、ここで言っているのは、もっと根本的な「どうにもならないところ」の話。
不老不死を求め、気軽にタイムマシーンを使えるように願い、物質の変容をコントロールしようとしても、それらはどうにも実現しない望みですよね。
そういう、コントロールできない、大きな流れがありますよ、と言葉を重ね、説いています。
なるほどなあと腹落ちした後に、もう一度冒頭を読み返してみます。
そこにあるのは「無常憑み難し」というセンテンスです。
訳では「死がいつやってくるのかは予想がつきません」としています。
そういうことなのでしょう。
でも、私は別のイメージも感じ取ったのです。
「無常」とは、万物は移ろい常態のままで止まらないという「世界観」です。
「憑む(たのむ)」とは、辞書によれば寄りかかる、信用するという意味です。そして、ここでは「頼む」という漢字ではなく、心の動きを主に示す「憑む」を使ってます。
勝手ながら、つまりは「変わってほしくない、自分の意思でコントロールしたい、そう信じたい気持ちはわかりますが、それは無理なんです」と強く言っているように受け取りました。
「無常」は望めないよ。じゃあ、どうしようか?
シンプルながら、大きな心構えを覚悟させる、そんなセンテンスがこの「無常憑み難し」なのかもしれません。
いい言葉です。
座右の銘がまたひとつ増えたなあ。
■禅僧がライターへこう応えました
ロイさんが読み取られた通り、本節の内容の核は、「無常憑み難し」というセンテンスにあります。「無常」ということにおいて、私たちは誰しも、如何なる物事にも依存することはできない、というテーゼが、幾つかの比喩を用いられながら説かれます。例えば私たちの身体も、自らの意志で管理していると思い込んでいますが、それすら「身已に私に非ず」と否定されていて、ロイさんの言葉で表現すれば、「一切合切がコントロール不能」といった感があります。
節の結びでは、あの世に旅立つ時、自らに随い行くのは、「善悪業等」だけであると説かれます。無常を説くここで、「業」という言葉が現れる意義を考えてみて下さい。
「業」とは、実際になされつつある「行為」という意味と、後のちの結果(『修証義』の中では「業報」とも)を決定し生ずるという「潜在的能力」という二つの意味をもつ言葉です。
「一切合切がコントロール不能」と評された無常の世界の中ではありますが、その中で、ロイさんが自らの意志で形作ることが出来る唯一のもの、それは、ロイさんが、現実にどの様に正しく生きつつあるか、という生きざまによって形作られる「善業」とは言えないでしょうか。
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