「狭山事件」とは、1963年(昭和38年)5月1日、埼玉県狭山市で1人の女子高校生が行方不明になり、身代金を要求する脅迫状が届けられましたが、警察は犯人を取り逃がし、3日後その女子高校生が惨殺死体で発見された事件です。
この事件で、5月23日、被差別部落出身の石川一雄さんが窃盗などの別件で逮捕されました。石川さんは、窃盗などについては認めましたが、本件については否認を続け、1ヵ月後に「自白」をします。この「自白」については、あまりにも客観的事実と一致しない不自然な点が多く、「自白」までの経過に、取り調べ方法や長期間逮捕・勾留などの問題が分かっています。
石川さんは、第1審ではこの「自白」を認めましたが、第2審以降はこの「自白」を撤回し、その後(現在仮出獄中)も一貫して無実を主張し続けています。石川さんが逮捕された背景には、「吉展ちゃん事件」(狭山事件の1カ月程前におきた事件で、警察は犯人を取り逃がし、世間の非難を浴びる)と、死体が被差別部落の近くに埋められていたことで、「あそこの人たちはやりかねない」という市民の予断と偏見意識を利用して、警察当局は被差別部落の青年たちを集中的に捜査したと言われています。この警察の見込み捜査が、えん罪を生み出す出発点でありました。
石川さんは、現在、東京高裁に第3次再審を請求しておりますが、再審にむけた取り組みのなかで、証拠開示による公正な裁判を求めています。
昨年から開催されている3者協議(裁判所・弁護団・検察庁)の中で、裁判所の勧告を受け、検察庁から5項目36点の証拠が開示されましたが、重要な証拠はいまだ開示されておりません。さらに、証人尋問・事実調べも一切行われていないのが現状です。
狭山事件の真相を明らかにし、再審を実現させる取り組みは、人権の問題であり、司法の改革をめざすものでもあります。曹洞宗でも不当な捜査や逮捕の過程、人権を無視した取り調べなどから、「狭山事件」を部落差別に基づくえん罪事件として、視聴覚教材を制作し、多くの人に狭山事件を知っていただく取り組みをしております。
また、2005(平成17)年3月16日に下された第2次再審請求特別抗告棄却決定が、一度も事実調べや鑑定人尋問も行わずに、抜き打ち的に下されたことから、その不当性に対して、3月22日付で最高裁に対して抗議文を提出いたしました。さらに2006年5月23日、第3次再審請求の申し立てを受け(東京高等裁判所)、狭山事件の証拠開示、再審開始を求める新100万人署名運動を展開、曹洞宗もこれに賛同して署名運動を展開し、多くの方々にご協力をいただきました。
今後も石川さんの無実が晴らされるまで連帯し、再審の開始を求め、さらに1人ひとりの人権が当然守られるべき公正な裁判を求めていきます。
【請願署名はがき運動のご協力を】
再審開始と全証拠の開示、事実調べを実現するため、毎年人権擁護推進本部は請願署名はがき運動に取り組んでいます。この運動の趣旨は、寺尾正二裁判長による無期懲役判決が下された日が1974年の10月31日であることから、毎年10・31に向けて宗教者の声を集約し、東京高裁・東京高検宛に請願署名はがきを届け、全証拠開示と事実調べの世論を更に大きくしていくものです。
昨年と同様に「同宗連」加盟教団として、全宗務所、管区教化センター、人権啓発相談員に必要枚数を送付させていただきましたが、支援いただける方は、高裁高検宛に投函いただきますよう、お願いいたします。57年を迎えた今、「同宗連」を始め、狭山を支援するすべての人々の力を集め、再審への力にしていきたいと思います。
この数年間でも、冤罪事件はいくつかあり、マスコミでも取り上げられました。長い間苦しんでいた人が無実になった一方、袴田事件では、2014年に再審開始が決定されたものの、検察は判決を不服とし東京高裁に即時抗告した。依然として再審を始めるかどうかの審理が続く現状にあります。
このはがき運動の目的は、証拠開示を公正公平にルール化するためであり、司法制度の改善を目指しています。私たちの人権や尊厳が守られるためには、冤罪のない司法制度が確立されなければならず、私たちも被害にあう可能性が十分あり、狭山事件や袴田事件などの冤罪事件は、一人ひとりの問題だからです。
この司法制度の議論を大きくするため、請願署名はがきのご協力を一層お願いいたします。「狭山事件」を支援する声をはがきに託して、高裁、高検宛に送り、全証拠開示と事実調べの実施を促すためです。
本年、東京高裁第四刑事部の後藤眞理子裁判長が退官し、大野勝則氏が新たに就任、裁判長の交代の中で、この事件の審理は今もなお尽くされないままです。
石川さんは本年で81歳を迎え「冤罪が晴れるまでは、両親の墓参りは行けない、両親に報告ができない」と、強い決意で述べていますが、この事件の再審開始に向けて、一日も早くこれを叶えるため、共に行動を起こしていこう。