| >>禅の友 平成22年8月号トップへ
■少年のごと吹きくるる老い夫の口笛聞きおり少女となりて (兵庫県 前田あつ子)
【評】
年月を経ても、お二人の関わりは少年と少女の頃にたやすく戻ることが出来るのだ。牧歌的な大らかな言葉の運びが忘れていたものを鮮やかに延らせる。作者のために「吹きくるる」からこそ少女となれる、ここが一首の要(かなめ)である。
■園児バス見送りてのち母親ら思い思いの貌に散りゆく (石川県 石浦 愛子)
【評】
園児を送り出すまでは、母親としてみな似通った表情をしていたのに、子供を託した後はそれぞれの素の顔に戻る様子を捉え、人間観察の視点が鋭い。「散りゆく」がうまい。
■買われゆく馬がトラックにいななけば畜舎に残る馬もいななく (福島県 大槻 弘)
■見習ひの僧のお顔のあどけなし墨の衣も清々として (岩手県 石井 マキ)
■久びさに畑の黒土足裏に踏めば農婦の血がさわぎくる (北海道 岡安 一五)
■ゆくりなく帰省の子らの一仕事甘藷の畝は高くととのふ (秋田県 佐藤 和子)
■少女らの膝小僧六つ並びいる向かいの座席へ春の陽うごく (大阪府 西口 節子)
■見上ぐれば新芽出揃ふ柿の枝ぽっかり浮かぶ白雲のせて (石川県 前田とよ子)
■水の輪が近づきて来るゆつくりと話したきことあるかのやう (福岡県 三吉 誠)
■亡き父の黒き鼻緒の弛みたる庭下駄をはき薔薇を巡りぬ (東京都 長谷川 瞳)
■チェンソーの今日もひねもす唸りゐて山帽子咲く辺り伐採つづく (島根県 門脇 順子)
■単車駆り法衣の袖を翻し檀家巡りて師走の町へ (愛知県 矢野 功)
■選者詠
狛犬の阿・吽の唇(くち)に吹く風は公孫樹(いちょう)のやわき緑葉の私語 (ちづ)
■作歌小見
口蹄疫が発症し、宮崎の畜産農家に大打撃を与えましたが、生き物を育て業とする苦労は、種々の悲喜交々と隣り合わせかと思います。そんな哀感を単純な言葉で捉えた大槻さんの作品にも心惹かれました。 |